ジュリウス様の基本情報。
神秘的な銀髪に、意思の強そうなキリリとした眉と、通った鼻梁に情の薄そうな薄い唇。
形のよい輪郭は端正な男前顔と言える。
そして捕食者のような鋭い金色の眼差しは威圧感を感じる人が多い。
精巧に造られた神の芸術品の如き美貌と広い肩幅と鍛えられたかっこいい胸筋に、引き締まった腰と長い脚。
20歳の若さで公爵位を継いだ若き竜血公爵。
最近分かったことは、見かけによらずかなり領民想いでかなり優しいし、可愛らしいところがあるということ。
◆ ◆ ◆
ジュリウス様と植物学者と、私が例の茶をいただく事にした。
例のお茶は蜂蜜を入れたおかげか酸味もやわらぎ、飲みやすくなっていた。
「美味しいです」
「ああ、悪くない」
「あの花がお二人の健康の力になれたなら何よりです」
「貴重なお花をありがとうございました」
流石にエリクサーみたいに一回だけですぐに効果が出る者でもないだろうけど、私もお二人の気持ちがとても嬉しかった。
いずれ何かでお返ししたいな。
本人達でなくても、この地に住まう人達全体にでも……。
◆ ◆ ◆
公爵の執務室の前を通ると、中にいる人達の会話が聞こえた。
「キーラベルクの土地の領主めが、魔物の討伐報酬にしょうもない土地を押しつけてきただと!? 金を払いたくないからか!?」
「文書を読み上げ、内容を考えるとそのような感じですね」
ノックをして、会話への割り込み参加を希望しよう。
「入れ」
許されたのでドアを開けて入った。
会話相手は文官ではなく、二十代くらいの若い騎士のようだった。
側には家令もいて、なのでここには今、公爵様を合わせて男性が3人だけがいた。
「お話途中に申し訳ありません、声が廊下まで響いておりまして、つい気になったのですが、しょうもない土地とは?」
「キーラベルク領の荒れ地だ。近くに魔獣の住処たる森があるゆえ、畑も作れない場所らしい」
ジュリウス様が答えて下さった。
「なるほど、魔獣に荒らされるから畑も作れないような荒れ地を金の代わりに押しつけられたと。そこは広さは割とあるのです?」
「そうだな、広さはそこそこあるが……」
「では、遊ばせておくにはもったいないですし、やはり畑を作りましょうよ、ここは冬が長いので、温かい土地が手に入るのなら、活用しましょう」
「だから、畑を作っても魔獣に食い荒らされるのだ、徒労に終わると言っている」
つまり、過去に獣にやられてもうだめだと、諦められた耕作放棄地かな。
「獣避け、魔獣避けの策があるかもしれません。しかも基本的に無料で、まあ、度々そこに行く移動費用は要るかも知れませんが、領地視察を兼ねれば……」
「策とはなんだ?」
ジュリウス様が私に問う。
私は一瞬騎士の方と家令をチラリと見た。
「失礼ですが、口の硬い方ですか?」
いささかセンシティブな話をしますよ!?
「家令のヘインは信用できる。騎士のセザール卿の方も、若いが悪い人間ではない」
家令は恭しく頭を下げて恐縮ですと答え、騎士のセザール卿の方は、
「神に誓って令嬢の秘策は漏らしません」と、キリリとした表情で言った。
若干、チャラっポイ女たらし系に見えるけど、公爵様が許すなら、まあ、いいか。
「畑の獣避け対策に私が昔読んだ本で狼の尿を使うと言うものがあり、通常の野生動物ならそれで効くこともあると思いますが、魔獣対策となれば、それの上位互換として更にワイバーンという竜種の尿を使うと言うものがあります」
ワイバーンの尿。これもラノベで読んだ。
多分竜種だから強いはず。
「竜の谷くらいでしか見ないワイバーンだと? あれを使役している者などいない。冒険小説の読みすぎだろう」
あら? ここは竜血公爵が存在するぐらいファンタジー系の世界なのに、そんな感じか。
「しかし恐れながら……ワイバーンなどいなくても目の前には竜血公爵様がおられるではありませんか」
「は!?」
流石に驚くジュリウス様。
残り二人の家令と騎士も何を言い出すんだ!?
と、言う顔をした。
「落ち着いて怒らずに聞いてください。これはサバイバル、いえ、森などで十分な装備も家もなく、取り残されたりしていて、なんとか生き残ろうとする場合、人間の男性も使う技なんですが、獣避けに男性のおしっ……黄金水を結界のようにかけるというやり方が存在します」
「わ、私に畑の周囲であれをまき散らして来いと言うのか!?」
「そうです、四方を囲むように結界のように撒きます。 だってあれは水分さえ沢山とれば、ほぼ無料で出るではありませんか、利尿作用のあるお茶もお教えしますし、四方を囲むようにたっぷり出していただけたらと」
ブフォ!!
騎士がたまらず吹き出した。
「ほ、ほぼ無料って、ふっ、くっ……っ! ………んっ!」
必死で笑いを堪えている。
一方で家令は青くなって肩を震わせている。
「品位に欠ける」
笑いを堪える騎士は無視し、ジュリウス様は冷徹に言い放った。
「獣避け対策が無料で美味しい穀物が作れるチャンスでしょうに! 領民の事を考えて下さい! 私が閣下ならやります!」
ブフォ!! また騎士が吹き出した。
「伯爵令嬢!」
ジュリウス様が頭を抱えつつ、たしなめるように一喝した。
「しかし残念ながら私は女なので、おし……っ、いえ、黄金水など撒いたら、逆にゴブリンなどを喜ばせて呼び寄せてしまいかねません、腹立たしいことです」
「ふっ……くっ!」
まだ騎士が腹と口を押さえ、笑いを堪えている。
私はなおも言葉を続ける。
「結界石を埋めこむという手もありますが、お金がかかる上に、監視の目が普段行き届かない遠い土地なら、悪い人間がいたら結界石を掘り返し、盗まれて売られる可能性もあります」
「なら、結界石を埋めて、盗難防止の術をかけよう、どのみち遠いゆえ野盗対策もせねばならん」
「しかし、それですとかなりの予算がかかりますよ、あれの使用は秘策と言うことで表向きにはふせておき、夜中にこっそりと撒けば……」
竜血公爵のおしっ◯なら無料なのに……。
「撒かぬ! しかし飢え対策の穀物の為なら予算を使うのもやぶさかではない!」
「そうですか、いい案だと思いましたのに……」
「まあ、その、伯爵令嬢が冬の長い公爵領の民を思って言ってくれたのは……理解した」