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第6話 離れの温泉

 公爵邸の夕刻。


 夕食は料理人にレシピを渡して煮込みハンバーグを作って貰った。


 ひき肉製造器がないから、手で細かくするのは大変だったろう……そのうち正式に公爵夫人になったら予算を使って魔導具師に発注するから、しばらく人力で頑張って!


 それにしても美味しくできてて、満足!!

 晩餐時にジュリウス公爵様とご一緒出来なかったのは残念だけど……お忙しいのよね?


 雪崩もあったばかりだし。きっと避難民の新しい住居の手配とかで……。



 ◆ ◆ ◆


 晩餐後、離れというか、お湯の湧き出す泉を利用した石造りの温泉では、体を洗い終わってから、お湯の中で歩く!!


 水中なら浮力があるから足腰に負担がかかりにくいし、湯気という蒸気もある。

 私は温かいお湯の中でひたすらぐるぐる歩き回る。


 実家からついてきた、私を見守るメイドは「この人何をしているんだろう?」みたいな視線を向けてくるが、気にしない!

 これも運動!!



「……ふう、そろそろゆっくり浸かりましょう」

「お嬢様、何故湯の中で、ぐるぐる回っていたのですか?」


「水の中なら、膝に負担がかかりにくいし、痩せたい時にもいいのよ、水中で歩き回るのが」


「痩せたい時に!? それはいいことを聞きました! 親戚がパン屋の娘なんですが、売れ残りを食べ過ぎてぽっちゃりして悩んでたんです! 手紙を出してみます!」

「なるほど、パン屋ね、それは確かに……」



「……ところでお嬢様、そろそろ出なくて大丈夫ですか? 御顔が真っ赤ですよ?」

「そうね、そろそろでるわ」



 確かに少しクラクラしそう。

 早めに髪を乾かして寝ましょう。


 離れから本館に戻って来たら、ジュリウス様と偶然廊下で遭遇した。


 いや、ここは公爵邸なんだから、偶然という程でもないかな。

 ある意味必然。



「伯爵令嬢、ずいぶん顔が赤いが、大丈夫か?」



 仮面をしていても頬は出てるからバレるのか。



「伯爵令嬢ではなく、せっかくですし、セシーリアとかセシーと呼んでいただけませんが? それと顔が赤いのは熱ではなく、入浴後なせいです」


 ジュリウスさまが入浴後のワードに眉を跳ね上げ、ピクリと反応した。思春期みたいでかわいい。



「コホン、愛称はまだ早いだろう」



 少し動揺しつつも線を引かれている……。まぁ、警戒心の強い猫だと思えばいいわ。


「そうですか、残念です……」 


 そう言って、私は湯冷めしないうちに部屋に戻る為、ジュリウス様の側を通り抜けようとして、ふらついた。



「おっと!」



 ジュリウス様がふらついた私を抱きとめてくれた!  

 しっかりとした逞しい男性の腕の中でトゥンクする! こーゆーの、少女マンガで死ぬ程見たシーン! ヒロイン達は足を挫き過ぎやろ! って思ってたけど、自分もふらついてやらかした!!


 そしてヒーローというものは女の子が倒れそうになれば確実に支えてくれるものなのですね!

 流石です!



「も、申し訳ありません、そしてありがとうございます」

「長風呂には……気をつけなさい」

「はい、運動をしていたもので……」


「運動……入浴中に?」

「メイドが見ててくれたので大丈夫です」

「そういう問題か?」

「万が一、倒れたら救出して貰えます」


「伯爵令嬢が細くて華奢であっても、メイド一人では運ぶのは無理ではないか? 人を、力のある者を呼ぶにしても風呂では……裸ではないか……」


 あ、確かに全裸を男性に見られるのはまずいですね。


「万が一、私が倒れたらジュリウス様を呼んで頂きます」

「は?」

「旦那様になられる方なら、裸を見られても……責任とっていただけますものね?」


 私はいたずらめいた笑みをうかべた。



「……変な考えは捨てろ、湯冷めには気をつけると先日、言っていたのは誰だ?」


 私だ!


「そんな事を言っていた頃もございましたね……」

「そんな遠い日の事のように言うんじゃない……」


 そうは言うけど、私から背を向けるジュリウス様の耳が赤いし、怒っている感じはしない。


 どちらかというと、照れているっぽい。

 冷たくて恐ろしい方だと言うのは……やはり噂にすぎないわね?






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