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第3話 夜中の噂話

 竜血公爵様の館に泊まる事となった。

 そしてまだ、人前では私は再び仮面をつけている。



「ゴホン、ゴホッ」



 喘息みたいに咳が出るのが忌々しい体だ。

 前世では持病はたまにでてくる腰痛くらいだったんだけど……まさかの居眠り運転のトラックに突っ込まれて死んだんだったわ……。


 トラックに轢かれて異世界転生なんて……生前読んでいた漫画やラノベによく似ているわ。

 などと、私が前世を思い出していたら……



「何かご入用のものはございませんか? ご主人様から不自由のないようにと仰せつかっております」


 泊めて貰えるゲストルームの中で、18歳くらいのメイドに問われた。



「では、水樽と鍋かヤカンを……」

「ヤカン?」


「あ、ケトルです、お湯を沸かして蒸気を出しておけば、咳がマシになるので……水樽は、水が蒸発する度に水を欲しいと言われるとあなた方の仕事が増えて大変でしょうから……部屋に置いておけば己でできるので」  


「お、己で!?」


 公爵家のメイドが私の発言に面食らう。


「あ、うちのメイドが……」 

「かしこまりました」 



 一応納得したようだった。



「ただ、水樽が重いかも……大丈夫かしら?」

「屈強な騎士がおりますので大丈夫です」

「ありがとう」



 ややして騎士が水樽を、メイドがケトルと鍋を持って来てくれた。


 重そうな水樽は体格の良い茶髪の騎士が肩に担いでいた。




「ごめんなさいね、水樽を運ぶだなんて、騎士の仕事ではないのに」



 私は思わず騎士にねぎらいの声をかけた。

 日本人的な性……高位貴族なら普通は当然だとふんぞり返るところなんだろうけど……。



「いいえ、いい鍛錬になりますよ」



 騎士は気のよい笑顔を見せてくれて、ほっとした。

 このような寒い土地には厳しい人が多そうだけど、思いの外、優しい人が多いのかもね。



「ありがとう」

「レディの役に立つのが騎士の誉れです」



 めちゃくちゃいい人!!

メイドと騎士にチップ代わりに銀貨を3枚ほど払ってみよう。



「あの、これ、少ないですが、お礼に」

「いえいえ、仕事ですから! お気遣いなく!」

「何か、美味しいものでも……」


「分かりました、ではありがたく……」



 遠慮し過ぎも失礼になるからね。



「鍋やケトルを運んだだけの私にまで、ありがとうございます! 他にも何かあればなんなりと!」



 メイドは満面の笑顔だ。素直でよろしい。



「では、これは明日の朝でいいのですが、温めたミルクが咳にいいので、よろしくお願いするわ」

「はい! 厨房に伝えておきます」



 メイドはともかく、騎士にチップなんておかしいかしら?

 でもお金を貰って嫌な人ってあまりいなくない?

 銅貨より価値のある銀貨だし……。


 それに騎士はともかくメイドの賃金てそこまで高くはないだろうし。なんかの足しにはなるでしょ。




 夜中に、起きてしまった。

 すっかり鍋に水を足し、ヤカンのお湯をカップに入れて飲んだ。

 ただの白湯であるが、これで咳対策を……。



 そしてトイレに行こう。 

 トイレの場所はもう一度行ったから覚えてる。


 念の為にまた仮面をつけ、ショールを羽織って寒々とした古めかしくも立派そうな絵などが飾られた廊下を歩く。


 少し進むと灯りのついた区画があった、夜勤的なことをしているメイドがいるのかも。




「でもあのお嬢様は何故仮面をつけたままなのかしら?」

「お顔にあざとか火傷の跡でもあるのでは?」

「じゃあ伯爵は傷物の娘を公爵様に押し付けたの?」



 しまった、私の容姿が悪いかも的な噂は逆にいいけど、お父様は別に何も悪くはないのに……。



「しっ、失礼なことを言わないように! あのお嬢様、貴族なのに使用人を気使ってくれるお優しいお方よ、このクッキー、お嬢様から頂いたお駄賃で買えたやつだし」 


「え!? いつになく羽振りよくお菓子を振る舞ってくれると思ったら!」

「やだ、私もお嬢様つきのメイドになりたいかも」

「アンナったら! 私は担当を変わらないからね」


「たまにくらいならいいじゃないのぉー?」

「さっき傷物とか無礼なことを言ってたじゃない?」

「失言でした、謝りますぅー」



 クスクスと乙女達の笑い声が響く。


 楽しそうな噂話と夜のお茶会だったようね……。彼女らの邪魔をしないようにここをそっと離れるとして……朝にはお父様の名誉の為に何か言い訳を考えないと……。



 トイレに寄ってから部屋に戻った。



「はー、廊下寒かった」



 私は少し身震いをして、またベッドに滑りこんだ。





















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