次の日──。
朝、恭ちゃんがマンションから出てくるのを待っていたけれど、恭ちゃんは全然家から出てこなかった。
おかしいな……。
いつも家出る時間は同じはずなのに……。
「やばい……これ以上は遅刻しちゃう!」
あたしは時間を見て、慌てて学校に向かった。
恭ちゃん、忙しいのかな……。
昨日母親から聞いた話。
『恭平くん、なんだか新しいプロジェクトを任されたみたいで、今忙しいんだって。優秀よね~大学卒業したばかりなのに、大事なプロジェクト任されるなんて』
『へぇ~そうだったんだ!』
『恭平くんは忙しいんだからアンタも会いに行くのは控えなさいよ!』
その言葉に返事はしなかったけれど、落ち着くまでは会いに行かない方がいいのかな。
恭ちゃんの大事なお仕事の邪魔はしたくないもん……。
ひとりで歩いて学校に行き、教室に入ると、麻美を見つけて挨拶をする。
その時、良樹もこっちにやって来た。
「あ、良樹。昨日はこれありがとう、助かった」
良樹に借りたマフラーを畳んで返すと、麻美は目を丸くして言ってきた。
「あら、おふたりそんな仲に?」
すると、それに対して良樹が焦りながら答える。
「な……っ、ちげぇし。このバカが薄っぺらい恰好で歩いてて見るに堪えなかったから貸してやったんだよ」
「何その言い方!昨日は優しかったのにさぁ!」
またイライラしてケンカしそうになったけど、昨日は自分だって寒いのを我慢して貸してくれたわけだし……何を言われても許そう。
「まぁ、今回は助かったから……。本当にありがと」
あたしが良樹に笑顔を向けると、彼は「お、おう」なんてしおらしい返事をして席に戻っていった。
「いい感じじゃない~良樹とは」
「何言ってるの、麻美……良樹と言い感じになったって仕方ないんだよぉ~」
私はうげっとした顔で麻美を見る。
「あたしは夜も朝も恭ちゃんに会えなくて元気が出ないっていうのに……」
「へ~会ってないんだ」
「うん」
「恭ちゃん、新しい仕事を任されたみたいで忙しいんだって」
すると麻美はポツリと言った。
「すごいわね~アンタの好きな人エリートじゃない?将来大出世しちゃうかも?」
「あたしは別に出世してもしなくても恭ちゃんのこと大好きだもんっ」
「そうじゃなくて、大出世するってことはその分モテモテになるってことよ。それにね、彩乃、知ってる?広告業界って色んな人との出会いがあるのよ~女優さんとかとも関わる仕事をしてるし、恭ちゃん、女優さんにとられちゃうかもね?」
「そんなこと言わないでよ……」
麻美の言葉に本当に傷つくあたし。
あたしだって、今日恭ちゃんに会えなかった時にそのくらいは考えちゃったもん。
女優さんとまでは行かなくても、恭ちゃんを狙っている人が会社にはいるかもしれない。
恭ちゃんが会社に行っている間のことはあたしは何も知らない。
だからその時間が増えるとすごく不安になっちゃうんだよね。
すると、彼女は不思議なことを言い始めた。
「でもこれはいい機会ね」
「いい機会?」
「これを機にしばらく会いに行かなければいいのよ!」
「麻美さん……もしかしてあたしを絶望に突き落とそうとしてる?」
「そうじゃなくて、会いに行かなければ、向こうも意識するきっかけになるかも!名付けて押してダメなら引いてみろ作戦よ!」
そんなことあるかな……?
半信半疑で彼女の話に耳を傾ける。
「だって、毎日来る人が突然来なくなったらどうしたんだろうって思うでしょう?」
「確かに……」
少なからず、気にするくらいはしてくれるかもしれない。
「その時に気付くと思わない?ああ、俺はアイツがいた方がいいんだって」
恭ちゃんがあたしがいた方がいいって気づいてくれる!?
「そっか……麻美、天才だよ!!」
なんていういい響き!
気づいて欲しいし、気づかせたい。
ただ問題は私が会いに行くことを我慢できるかってことだよね。
「行きたくなっちゃうかも」
「ダーメ。ここは我慢よ、関係を進めるためにもね」
私は渋い顔をしながらもうなずいた。
恭ちゃんの仕事が落ち着くまでは、会いに行かない。
それを目標にしよう。
それからあたしは、頭の中から恭ちゃんを忘れるために授業中は、しっかりと勉強をした。
いつもうるさいとあたしを叱る先生も、真面目に勉強していてよろしいと褒めてくれた。
そう、この調子。
この調子でしばらくの間は恭ちゃんのことを忘れていればいいんだ。
そしてこの調子で1週間が経った。
現在のあたしの健康状態はというと……。
「ああ、もう無理……恭ちゃん不足……恭ちゃんに会いたいよぉ~」
恭ちゃん不足でゲソっとしていた。
「我慢よ、彩乃。ここまで頑張って来たじゃない」
「そうだけどぉ~もう1週間も恭ちゃんの顔見てないんだよ~こんなんなら恭ちゃんの顔忘れちゃうよ~」
「それはないでしょうに。でもあともう少しだけは会いに行かない方がいいと思う。ほら、よく言うでしょ?大人と子どもの歳の取り方は違うって。社会人の大人の1週間ってあっという間だと思うのよ。だからここで恭ちゃんい会いに行ったら全てをダメにする可能性もあるわ」
「そっかぁ……」
大人と子どもの時間のたち方は違う……。
なんだかここでも恭ちゃんとの違いを感じてしまった。
あたしも早く大人になりたいな。
恭ちゃんと平等に話が出来る人になりたいよ……。
けっきょくさらに落ち込んでしまい、そのテンションのまま放課後がやってきた。
「なんだよ、コイツ……悪口言ってんのに全然聞いてないぞ?」
「今、彩乃は抜け殻状態だからそっとしておいてやって」
「お、おお……」
良樹にまで気を遣われる始末。
「いい?彩乃、もう少し耐えてね」
「はい……」
あたしはそう返事をして、教室を出ていった。
放課後、家までの道のりをひとりで歩いている時、駅の近くである人物を見つけてしまった。
「あれは、恭ちゃん……!」
間違いない。
あたしの恭ちゃんレーザーがそうだと言っている。
ついに本物を見つけてしまったあたしは、耐えられなくなり恭ちゃんの後をこっそりつけることにした。
恭ちゃんがあたしの姿を見なければ、押してダメなら引いてみろ作戦は継続していることになるよね……?
恭ちゃんに視線をうつしてみると……。
「うわぁ……恭ちゃんすごい」
なんだかすごくエラい感じの社長さんと話している。
そういえば、学校の近くの駅には会社がたくさんあるって先生が言ってたな……。
恭ちゃんもこの辺に営業に行ったりするんだ…。
むずむずと心が会いたいと叫び出す。
少し、少しだけ……。
柱の陰に隠れながら、近くに行ってひっそりと聞き耳を立てていると、聞こえてきた声は難しそうなものばかりだった。
「次回のプロジェクトの件ですが……PB商品を全面的に宣伝したいらしく囲い込みを……」
「しかし、それでは既存ブランドとの軋轢が避けられません。既存ルートを無視すれば、小売側からの信頼を失うリスクがある」
ええっ。なにかの暗号?
何を話してるか全然分からない。
会社での恭ちゃんって、あんな感じなんだ。
ピシっと背筋が伸びていて、真剣な表情で敬語で難しい言葉を話し、笑顔を作りながら会話する。
昼休みに友達と話しながら笑っているあたしとはまるで正反対。
毎日一生懸命仕事して、頑張ってるんだろうな……。
そんなことを思って恭ちゃんを見ると、どこか遠い存在のように感じた。
近付きたくても近づけない。
どんなに追いかけても恭ちゃんはいつも先を歩いていなくなってしまう。
これが、大人と子どもの距離なのかな。
なんか、むなしい……。
あたしのしている作戦なんて小細工くらいで、恭ちゃんには何にも届いていない。
「帰ろ……」
ただ会いたくて、会いに行こうとしていた自分が幼くて、ひどく恥ずかしくなった。
本当に、このまま頑張れば恭ちゃんに追いつけるんだろうか。
背伸びすればいつかは届くのだろうか。
そんな気持ちを抱えたまま、私はさみしく自分の家に帰った。
あれからさらに1週間が経った今日──。
あたしは身なりを整えていた。
「髪型よし、化粧よし」
なぜ整えているかというと、今日は恭ちゃんに会いにいくから。
プロジェクトが終わったという話を昨日母から聞いて、今日の夜、久しぶりに会いに行くことにした。
「だいぶ大人っぽい化粧も馴染んで来たわね」
「だって麻美姉さんが教えてくれたんだもん。無駄にはしないっすよ」
恭ちゃんに会えない間の2週間。
げっそりしながらも、あたしは女磨きを頑張った。
今じゃ麻美から教わったことは、全部自分で出来るほどまでに成長した。
「けっ、そんなんしたって変わんねーよ」
意地の悪い良樹の言葉にまたケンカになりそうになるけれど、最近は麻美が庇ってくれる。
「とか言う割に、心配してたよね。彩乃のこと」
「な……っ」
「元気ないの、嫌だったんじゃないの?」
「そ、そんなことねぇよ」
どうやら良樹は麻美の言葉に言い返せないようで、固まったまま気のせいだろとつぶやいて自分の席に戻っていった。
「久しぶりに会う彩乃に恭ちゃんはどんな反応してくれるのかな?」
「分からない。恭ちゃんも忙しかったから、2週間なんてあっと言う間だったと思うし……ああ、いたのってくらいなんじゃないかな?」
「あら、めずらしく弱気じゃない」
この間の商談の様子を見てからあたしは自信を無くしちゃったんだよね。
「頑張って我慢したんだからさ、今日は作戦なんて忘れて楽しんできたらいいんじゃない?」
「麻美……」
麻美が励ましてくれて、あたしはこくんとうなずいた。
「ねぇ麻美、今日の放課後空いてるかな?恭ちゃんにクッキー作りたいんだけど、買い物付き合ってくれない?」
「もちろん、いいわよ」
恭ちゃんに出来ることがあるなら、あたしはそれを全力でしよう。
落ち込んでいても仕方ないもんね。
放課後は麻美が買い物に付き合ってくれて、あたしは家でクッキーを作っていくことにした。
クッキーはあたしが唯一作れる料理で、恭ちゃんもこれだけは美味しいと言って食べてくれるから、今日はそれを持っていこうと思ってる。
放課後、麻美との買い物を終えると私はすぐにクッキー作りにとりかかった。
ボウルにバターと砂糖を入れて、ゴムベラでぐるぐる混ぜる。卵を割り入れて、さらに混ぜ、小麦粉をふるいながら入れると、ふわっと粉の匂いが広がった。
だいぶ、生地がまとまってきたかな。
「こんなもんかな?」
手でギュッとひとまとめにして、ラップで包んで冷蔵庫へ。
30分後、生地を取り出して、めん棒でコロコロ伸ばした後に色んな形にくり抜いて、オーブンシートに並べた。
焼き上がるとうん、いい感じ!
クッキーは美味しそうなきつね色になった。
それを簡単にラッピングして、紙袋に入れた。
やっと久しぶりに会える!
頑張った恭ちゃんにお疲れ様って気持ちを込めて丁寧に作った。
お母さんもずっと恭ちゃんの家に行っていないことを知っているから、今日ばかりは小言を言って来なかった。
ただ疲れているだろうから早めに帰ってくるように、とのことだ。
家で夕飯を済ませて、時計が20時になるのを確認するとあたしは上着を着て、外に出た。
はやく、はやく。
自然と身体が弾む。
わくわくしながら恭ちゃんの家のエントランスにいくと、ちょうど別の人が出てきてドアが空いているところだった。
恭ちゃんのこと、ビックリさせたいし中に入っちゃお。
あたしは中へ入って恭ちゃんの住む階まであがる。
そして、家の前のインターフォンを押すと、中から部屋着姿の恭ちゃんが出て来た。
「恭ちゃん、久しぶり」
ニッコリ笑う。
しかし恭ちゃんが見せてくれたのは、いつもの呆れ顔でも笑顔でも無かった。
何を考えているか分からない顔で私を見降ろしている。
少しいつもと雰囲気が違って怖い。
「お仕事お疲れ様、あのね。クッキー作って……」
「帰れ」
「えっ」
恭ちゃんの目は冷たい。
いつも言う帰れとはまた別の、温かさを含まない言葉だった。
「わ、分かったよ!恭ちゃんも疲れてるもんね!一応……クッキー作ったからこれだけでも……」
袋に包んだクッキーを恭ちゃんに見せる。
すると、彼はその袋を振り払って言った。
「いらねーよ」
その手はクッキーの袋とぶつかって、床に落ちていく。
クッキーは無残にも割れてしまった。
「あ……」
ボロボロになったクッキーをあたしが拾うと恭ちゃんは言う。
「つかさ、お前彼氏いるクセに男の家来るとか無防備すぎんじゃねーの?」
彼氏……?
何言ってるの、恭ちゃん。
「恋愛対象外だから手、出さないだろうって?悪いけど、男はそんな甘くねーよ」
恭ちゃんの言ってる意味が分からなくて、ただただ何も言えずにいたら、彼はちっ、と舌打ちをしてあたしの手を引っ張った。
「きゃ、恭ちゃ……っ」
「分かんねーなら教えてやる。そうやって油断してるとどうなるか」
無理やり部屋の中に入れられて、ベッドに身体を投げられる。
あたしの持っていたクッキーは手からこぼれて、もう一度床に落ちていった。
そして、恭ちゃんが上から覆いかぶさって来る。
「きょ、恭ちゃん……!」
声をかけても答えてくれない。
冷たい目で私を見るだけだ。
「お前はそうやって、いっつも俺を振り回す。来ないならずっと来ないで良かったのに」
そして、小さくつぶやいたかと思ったら、恭ちゃんはあたしの口を手で塞いで、ぐいっと顔を近づけた。
「んむ……っ、んー!」
やめてって言う声も、恭ちゃんって呼ぶ声も全部届かない。
嫌なのに、やめてほしいのに、皮肉にもドキドキが収まらない心臓。
すると、あろうことか恭ちゃんは塞いだ手の上からちゅっとキスをおとした。
「……っ!」
──ドキン。
まるでキスしているみたいな感覚。
意地悪な表情であたしをみる恭ちゃん。
ちゅっと、ひとつキスを落とすと、もう一つ、もう一つと手の上に何度もキスを重ねる。
「んん……ぅ」
本当にされているわけじゃないのに、上手く呼吸が出来なくて、本当にされているみたいな感覚になってくらくらする。
「んーっ……ぅ」
大好きな恭ちゃんから、こんなことされたら、普通は嬉しいのに。
恭ちゃんの顔は冷たくて、さみしくなる。
嫌だよ。こんなの。
どうして怒ってるの?
そんなに冷たい顔しないで。
泣きそうな顔で恭ちゃんにうったえたら、やっと伝わったのか、恭ちゃんは我に返ったように、抑えていた手を放した。
「けほ、けほ……っ」
急に開放されて、一気に酸素が流れこんで来る。
その衝動であたしは咳き込んでしまった。
「悪かった」
そして静かに謝った。
「恭ちゃ……」
「でもこれで分かったろ?彼氏いるやつが他の男の家、来ちゃ行けねーの。分かったら早く帰れよ」
なんで。
「ついでにもう一生来んなよ」
なんでよ。
「んで……っ、そんなこと言うの?」
恭ちゃんのために一生懸命作ったクッキーはボロボロでもう食べられる状態じゃない。
「ずっと恭ちゃん家に行くの、我慢してたのに……」
ポロポロと涙がこぼれていく。
行きたくて、でも迷惑になったら嫌だって思ったから我慢した。
恭ちゃんの、疲れが少しでも取れたらって、気持ちを込めてクッキーも作った。
それなのに、もう来るななんてひどすぎるよ。
あたしは落ちてたボロボロのクッキーを拾うと恭ちゃんに投げつけた。
「恭ちゃんのバカ!」
「痛って、」
「……彼氏ってなに、あたし恭ちゃんのこと好きだって何度も言ってるじゃん!」
いつになったら、私の期待した言葉を言ってくれるんだろう。
いつになったら、恋愛対象に入れるんだろうか。
いつだって私の真剣な告白はこれっぽっちも恭ちゃんに伝わっていないんだ。
それがひどくむなししくて、私はぎゅっと目をつぶると恭ちゃんに背を向けて、部屋を出ようとした。
しかし。
「待てよ」
ーーぐい。
その腕はしっかりと掴まれて、私は恭ちゃんによって引き戻される。
「こないだ会った男と付き合ってるんじゃねーの?」
恭ちゃんがさっきから何を言ってるか、全然分からない。
こないだ会った男って良樹のこと……?
「付き合ってないよ!付き合うわけないじゃない!」
「マフラー……お前のじゃなかった」
「貸してくれただけ。……てか今日の恭ちゃん変だよ!」
あたしがそういうと、恭ちゃんは頭を抱えながら小さく言った。
「本当。悪い。マジで変だわ……なんか疲れて頭おかしくなってたのかもな」
はぁっと深いため息をつくと、そのままソファ―に身体をあずける。
すると、床に落ちていたクッキーの袋を取って、袋から開けはじめた。
「もうそれ食べられないよ。恭ちゃん、あたしの作るクッキーは唯一美味しいって言ってくれるから、頑張って作ったのになぁ……」
「分かってるよ、お前のことはなんとなくな」
恭ちゃんは欠片になったクッキーをつまむとそれをパクッと口の中に入れる。
そして遠くをみながらつぶやいた。
「分かってるつもりだったんだけどな……」
恭ちゃんは、今何を考えているんだろう。
冷たい目をしたり、切なそうな目をしたり、今日は本当によく分からない。
それでも恭ちゃんはパク、パクっと粉々になったクッキーを口に運んでいく。
「いいよ、それ……無理して食べなくて」
「うめぇな。相変わらず、クッキーだけは。他のものはからっきしなのにな」
恭ちゃん、あたしの話聞いてる?
相当疲れているんだろうか?
すると彼ははポツリと言う。
「お前ってさ、来て欲しくない時に来て、居て欲しい時にいないよな」
え……。
それってどういう……?
「きょ、恭ちゃん……あたしが側にいて欲しい時なんてあるの?」
「あるんじゃね?本当ごくたまには」
何それ。そんなの知らなかったよ。
あたしは恭ちゃんに呼ばれたらすぐにでも飛んでいくのに。
「そういう時は、今度からはちゃんと呼んでよね?」
「絶対呼ばねぇ……」
けっきょく呼ばないんじゃんか。
「じゃ、じゃあ……今日は?」
恐る恐る聞いてみると、彼は目を逸らしながら小さな声でつぶやいた。
「もうちょい、いれば?」
恭ちゃん……!
あたしは顔を見ると、改めて彼に言った。
「恭ちゃん、プロジェクトお疲れ様」
「ん。すげぇ―疲れた」
本当に疲れているのか、恭ちゃんはぐったりしている。
でも、優しい笑顔が戻って来て安心した。
「恭ちゃん、そのクッキーもう粉だよ?」
気づけばクッキーの欠片は全て無くなっていて、後は指で掴めないほどの粉になっていたけれど、恭ちゃんはその袋を丁寧にたたむとキッチンにおいた。
??
「何するの?」
「明日牛乳に混ぜて食うわ」
「えっ、それはどうかと……」
「作ってくれたんだろう?お疲れ様って思いながら。じゃあこれっぽっちも無駄にできねぇだろ」
もごもごと決まりが悪そうに口を動かす恭ちゃん……!
あたしはその言葉にぱっと顔を明るくさせた。
そして恭ちゃんに飛びついて言う。
「好き!大好き!」
「うるせぇ、ひっつくな!うぜぇ」
いつも通りだ。
久しぶりの恭ちゃんは、少し変だったけど、やっぱり優しくて温かかった。