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第2話:子どもと大人の扱い


 「恭ちゃーん、おはよーう!今日もお迎えに来たよ~ちゃんと起きてる?遅刻はダメだぞっ」


三谷と書かれたアパートの前にたって大きな声で恭ちゃんを呼ぶあたし。

すると、ガチャっと音を立ててドアが開いた。


中から出てきたのは、スーツ姿の恭ちゃんだった。


はあ、いつも見てもかっこいい。


男のスーツは2割増しって言うけれど、うーん4割、5割は軽くいくと思う。


「恭介ちゃんっ、おは……ふぎゃっ」


すると、あたしは突然鼻をつままれた。


「っるせぇんだよ、お前は。毎日毎日、朝から人の名前でけぇ声で呼んでんじゃねーよ!」


「ん”~~ご勘弁を……」


黒いオーラを放ちながら、悪どい顔をして容赦なく手に力を入れる。


そんな彼は恭ちゃんこと、三谷恭平(みたにきょうへい)

やわらかくふわふわした黒髪に前髪がほどよく目元にかかっていて、髪でかくれたその瞳は少し伏せられ、気だるげな表情を浮かべている。


と言っても気だるげなのはあたしの前だけか。


男の人なのに、肌もキレイで首筋から鎖骨にかけてのラインがキレイに見える。

そしてスーツの襟元から肌がチラっと見えるのが色気があってもう……めちゃくちゃにいいんだよね……。


恭ちゃんは、あたしの家の隣にあるマンションに住んでいて、母と意気投合(?)大学生になると同時にここでひとり暮らしを始めたそうだ。


今は社会人1年目で、年はあたしよりも6才上の22歳。

小さい頃から勉強を見てもらったり、遊んでもらったりと、何かとお世話になっていた。


そんな恭ちゃんを気づけば好きになっていたあたしは、高校生になった今だって、毎日恭ちゃんの顔を見に行くために、彼の家の前でお出迎えしているのです。


恭ちゃんもさぞかし嬉しいだろうと思いきや……。


「どけ、邪魔」


冷たくて……。

ピチピチの女子高生が起こしてあげているのに全然なびかないの。


「ひどいっ、せっかく家まで迎えに来てあげたのに!普通はこれで仕事頑張れるよって言うところでしょ?」


「いらねぇよ。つかそろそろ俺に構うな、うぜぇ」


出会った頃はすごく優しかったんだよ?


泣いてるあたしをなぐさめてくれたり、さみしい時は一緒にいてくれたり。それが、今となってはこんなにドSな男になってしまうとは……。


「全くどう間違えたらそうなってしまったのやら……」


「お前さ、俺に構ってないで早く彼氏つくれよな。ま、こんな色気ねぇヤツじゃ誰も寄ってこないだろうけど」


ふっ、と鼻で笑ってあたしをバカにする恭ちゃん。

あたしが恭ちゃんに一途だって知ってくるクセにこうやって意地悪なことを言うからズルいんだ。


彼氏なんかいらないもん。


あたしが好きなのは恭ちゃんだけ、付き合いたいのも恭ちゃんだけなんだよ?


「あたしには恭ちゃんしかいないの」


だから、そうやって何度も伝えるけれど、真剣に取り合ってもらえたことはない。


「バーカ。そんな無い胸で、俺に告るとか100年早いつーの。もっと成長してから言えよ、お子ちゃま」


恭ちゃんにとって、あたしは完全に恋愛対象外。

それでも絶対、振り向かせてみせるんだ。


「じゃあな、お子ちゃま彩乃ちゃん」

「あっ、待って途中まで一緒に……」


「行かねぇよ、ロリコンだと思われるだろ。ついてくんな」


うう。どうしたら、どうしたら……恭ちゃんはあたしのこと見てくれるんだー!


歳の差ってそんなに問題?

そんなの、愛があれば簡単に解決出来ると思うんだ!


「恭ちゃんのバカー!!」


取り残されたあたしはそんな事を叫びながら学校へ向かったのだった。


教室に着き、いちに、いちに、と胸を張りながら身体を左右にひねって動かす。


うん、いい調子。

これは毎日の日課だ。


すると、あたしの親友の麻美が話しかけて来た。


「おはよう、彩乃」

「おはよう」


自己紹介が遅れたけれど、あたし、宮原彩乃(みやはらあやの)

高校2年生。絶賛片想い中。


肩のあたりでふんわりと揺れる髪に、ぱっちりと開いた瞳。

ここまでは褒められることが多いんだけど、子ども体型で素朴な感じなのがもどかしい。


中学の頃の友達に会っても変わらないねって言われることばっかりだし……。


あたしはあたしなりに化粧とか頑張ってるのに!


とはいえ仲のいい友達もいて、学校生活楽しくて、後は恋愛の方がうまくいけば絶好調なあたしの人生なんだけれど……。


「あ、あんた……何やってんの?」

「え?バストアップ体操」


その恋愛こそがうまくいかないのです。


「なに~?また例のお隣さんになにか言われたの?」


麻美はマスカラをまつげを伸ばしながらあたしにたずねてくる。


「うん、胸がないって……」

「確かに、無いよね」


「…………。」


そりゃないけど!

麻美ねぇさんに比べたらないですけど!


そればっかりはしょうがないじゃんっ!


この傷口に遠慮なく塩を塗ってくる彼女はあたしの大親友、川上麻美(かわかみあさみ)


胸元まで伸びたふわふわの巻き髪に、パッチリとした目。

すらっと伸びた足。


モデルと間違えられるほどの白い肌に美貌を持った彼女は男子からも女子からも目を引く存在だ。


だけど性格はサバサバ女子。

裏表無くてすごく好きだけれど、なんでもズバっと言ってしまうところは、もう少し配慮がほしい所。


「でも、彩乃も懲りないよね~そんなに何回もフられてるんだから諦めればいいのに」


「それが出来たら苦労しないよ……」


もうあたしの片想いはかれこれ3年くらい続いている。

正確に意識し始めたのが中学に入ってからだから、ホントはもっと長いかもしれないけど。


「だってさ、叶わない恋を追い続けるよりさ、彼氏ほしくないの?」

「欲しいよ!」


そう、あたし。実は片想いをこじらせ過ぎて、中学、高校とも誰ともお付き合いをしたことがない。


「でしょ?だったら諦めなよ」

「いーや、恭ちゃんを彼氏にするの!」


「うちらなんか今が旬なんだよ。若いうちに遊ばないでどーするの?」


麻美の強い眼差し。

それでもあたしは負けじと言う。


「恭ちゃんのためなら枯れ果てても構わない」


その言葉に麻美は呆れ顔であたしを見た。


いいんだもん。

誰になんと言われようと頑張るもん。


無理だって言われたって、絶対、恋愛対象の中に入ってやるんだから!

あたしが頑張れば、強引に入り込むことは出来るはずだ!


だって男はみんな単純って聞いたし!


「相手6歳も年上でしょ?うちらは良くったって向こうは子どもにしか見えないと思うけど。しかも、彩乃ってどちらかというと童顔だし……」


「そ、それは……そうだけど」


くやしいことに、麻美のように大人っぽいわけでもなく、たまに中学生に間違われることもあるくらいのベビーフェイスの持ち主。


でも、それでも、あたしは思う。


「恋愛に年の差なんて関係ないのよ」


麻美を指さしながら、ビシっと言い放つと格好ついた気がした。


「じゃあ、タイプが違ったら?向こうのタイプが大人っぽい人だったらどうするの?」


「あたしが大人っぽくなればいいだけの話」


「高校生は子どもにしか見えないって言われたら?」

「色気をつける!どうにかして」


「どうにかって……めちゃくちゃ無策じゃない」


麻美はあたしのことを見て「はあ」とため息をこぼした。

でもあたしの強い気持ちに、ついに麻美は折れたらしい。


哀れな目であたしを見ると、今度は優しく言う。


「ホント、そのお隣さんにぞっこんだよね。あんたなら、彼氏くらいすぐ作れると思うのに~まっ、そんなに一途なら応援してあげるけど」


「み、認めてくれるの!?」


「だって他のこと見えてないくらい真剣なんだもん」


麻美、分かってくれたんだね。


真剣だよ。

いつも考えるのは恭ちゃんのことばかり。


他のことなんて、全然見えない。


そのくらい真剣だよ。

だからいつか、それが伝わればいいなって思うの。


「そしたら恋愛テクニック、麻美お姉さまに聞いちゃおうかな」


なんたってうちの麻美お姉さまは文化祭のミスコンに出場して優勝経験までもっている。


どんな男も麻美お姉さまに一度は惚れてしまうほどの美貌を持っているの。


「はいはい、じゃあまず相手の好みとか聞いてきなさいね。好みから外れてたらいつまでたっても恋愛対象外だから」


手を机の上について、頭を下げると、彼女はさっそくアドバイスをくれた。


「なるほど……」


あたしが恭ちゃんの好みになったら、恭ちゃんはあたしのこと、恋愛対象として見てくれるのかな。


そしたら、好きだって伝えた時、真剣に返事をしてくれるのかな。


「よーし、今日聞いてくるね!」


あたしは気合いを入れながら、バストアップ体操の続きを行ったのだった。


そして、放課後──。

あたしは、一度家に帰ると、慌ただしく制服を脱ぎ、鏡の前で軽く髪を整えながら私服に着替えた。


外はもうすっかり冬の空気に包まれていて、厚手のコートを羽織っても、冷たい風が肌を刺すような天気だ。


恭ちゃんが帰ってくるであろう時間を見計らい、家を出る。


薄暗くなり始めた家の周り景色を眺めながら歩いていると、白い息がふわりと空気に溶けていった。


「ぅう……寒い……」


震える声がもれる。

手をぎゅっとポケットに突っ込み、足元で小さく跳ねるようにして体を温める。


「恭ちゃん、まだかな」


時折、寒さに耐えきれず足踏みをするけれど、冷たい空気がコートの隙間から入り込んできて、ぶるりと震えた。


アパートの前で待つこと、かれこれ1時間。

道を通る人を何度か顔をあげてみたけれど、恭ちゃんが帰ってくる気配は一向になかった。


遅いなあ。

いつもはこれくらいの時間に帰ってくるのに……。


もしや残業ってやつ?

それとも飲み会とか?


時期は12月。

さすがに外に1時間もいると身体が冷え切ってしまっていた。


恭ちゃんの住むマンションの前にしゃがみこみ、手をこすり合わせてはぁっと息を吐いて温める。


もっと温かい恰好してくれば良かったな。

そんな風に思った時。


──カツ、カツ、カツ、カツ。


革クツが地面とぶつかる音がした。


あれは、恭ちゃんの足音……!

へへん、あたしくらいになると、恭ちゃんの姿を見なくても恭ちゃんの足音が分かるのさ。


ついに恭ちゃんが帰ってきた!


「恭ちゃん!おかえりなさい」


あたしが立ち上がって、声を出したら真っ白な息が出る。


「お前……こんなところで、何やってんだよ!」

「恭ちゃんの事、待ってて……っくしゅ」


「バカか、また家のカギ忘れたのかよ!こっち来い」


別に家のカギを忘れたわけじゃないんだけど……まぁいっか!


冷えすぎて、くしゃみが出たあたしを恭ちゃんは慌てて家の中に入れてくれた。


恭ちゃんは優しいんだ。


そういう所が好きなんだよね……。


口は悪いけど、なんだかんだあたしのことを考えてくれる。


彼はふかふかの掛け布団をあたしに投げると、スーツのジャケットを脱いで、それから温かいココア用意してくれた。


「ん」

「ありがと」


恭ちゃんは、あたしがココアを好きなのを知っていて、自分は飲まないインスタントのココアを置いておいてくれるんだ。


「 恭ちゃんも仕事お疲れさま~」


あたしが答えると、短く「ん」と返事をする。


「お前のおばさん、今日仕事か?何時頃帰るわけ?」

「ん?仕事じゃないよ?」


「はぁ!?カギ忘れたから外で待ってたんだろ」

「違うよ、一回家帰ったし……」


「よく見りゃ私服だな……」


でしょ?と言いながらあたしはご機嫌に返す。


「で、じゃあなんで外で待ってたわけ?」


自分が飲むコーヒーを作り、あたしの隣に腰を掛けると恭ちゃんは、ちょっと不機嫌そうに聞いて来た。


「さぞかし大事な用だったんだろうな?」


ど、どうしよう……。


ただ好みのタイプが聞きたくて外で待っていたなんて言えない雰囲気だ。


「んーっと、勉強で分からない所がありまして……」

「ふぅん。勉強道具も持たずに、か?」


──はっ。

手ぶらで来ていたことを今思い出した。


「お母さんから恭ちゃんに伝達がありまして……」


「お前の母ちゃんなら、絶対直接俺に言ってくる。お前に信頼を置いてねーからな」


「う“……」


「正直に言えよ、正直に」


ニッコリ笑顔を見せて、じりじりとあたしに迫る恭ちゃん。

その笑顔、めっちゃくちゃ怖いんですけど……。


もう言い逃れすることは出来ないと悟ったあたしは仕方なく、怒られるのを覚悟で彼に言った。


「恭ちゃんの好みが知りたくて……」

「あ”?」


ひぃいっ……めちゃくちゃ怒ってらっしゃる!


眉間にシワをよせ、鋭い目つきであたしを見ている。


「その……、どんなタイプの女性が好きなのかなぁと……」


あたしは視線を泳がせながら、次第に声が小さくなるのが自分でも分かった。

恭ちゃんは、一瞬驚いたような顔をした後、深いため息をつく。


「はぁ……バカには付き合いきれねぇ」

「むっ! あたしにとっては大事なことなの!」


頬を膨らませると、恭ちゃんはそんなあたしをじっと見つめ、ふっと口角を上げた。


「じゃあ、教えてやるよ」

「え?」


その瞬間、ふわりと視界が揺れる。

ベッドに座っていたあたしの肩を恭ちゃんの手が掴み、次の瞬間、背中が柔らかいソファーに沈んでいた。


え、え、え?

なに、この展開!?


頭の中が真っ白になる。


大好きな人にこんなことされて、キャーキャー言っちゃうような展開だけれど、いきなりこんな事をされたあたしはパニックだ。


「きょ、恭ちゃん?」


かすれた声でたずねると、恭ちゃんの顔がすぐそこにあった。

近い。近すぎる。


すると、恭ちゃんはあたしの耳元で甘ーくささやく。


「俺の好きなタイプ。まず、胸ないやつな」


ギシっとベットのきしむ音がする。


恭ちゃんがゆっくりとあたしを見下ろす。


彼が目の前に、こんなに近くにいることに心臓がおかしいくらい音を立ていた。


「それから、ココアが好き」

「……あ、あの……っ」


恥ずかしくて、目が見られない。

それでも恭ちゃんは真っ直ぐにあたしを見つめた。


顔があつい。

全身が一気に熱くなってどうにかなってしまいそうだ。


期待するようにドキンドキンと心臓が音を立てると、恭ちゃんは続けた。


「それから、寒いのにずーっと家の前で待ってるようなバカなやつ」


恭ちゃん……っ。

それって、もしかしてあたしのこと……。


恭ちゃんも、あたしのこと好きだったの!?


ドキドキと期待が入交じり、キャパオーバーになりかけるあたし。


恭ちゃんになら、いいよ……?


あたしはゆっくりとあたしに近づいてくる恭ちゃんを受け入れるように目をつぶった。


お母さん。あたし、恭ちゃんと幸せになります。


そう思った瞬間──。

──ぎゅむっ。


「はれ、いひゃい……」


あたしの元に降って来たのは甘いキスなんかじゃなくて、力強く頬を引っ張る恭ちゃんの手だった。


「と、真逆の女。」

「へ?」


「だから、そういうことするバカ女はタイプじゃねぇってことだ。分かったか?」


ちょ、ちょっと待って。どういうこと?

今まで言ってたタイプとは全部真逆!?


すっかり冷めてしまった身体の熱。

だけどまだ心臓はドクンドクンと音を立てている。


「あたしがタイプじゃないってこと!?」


「ったりめーだろ」


「ヒドイよ、そんなの。あたしのこと期待させて……」


「あのなぁ、俺はそもそも年上がタイプなんだよ。胸があって、頭良くて、美人で騒いだりしないヤツな」


わ、あたしと真逆じゃん……。

バッサリ切り落とされたあたしは、がっくりと肩を落とす。


心の奥でじんわりと広がる失望感。それでも負けたくなくて、唇をぎゅっと噛んだ。


「恭ちゃんのバカ!アホ、エロ、むっつりスケベ!」


涙目で言ったあたしの言葉に彼はあきれ顔で答えた。


「そういうムキになっちまうところがガキなんだよ」

「ぐ、う……」


言い返せなくてぐっと黙ってしまう。


くやしい……。

やっぱり勝ち目ない。


何も言い返せなくて、ぐっと黙り込んでしまう。


あたしとまるで正反対の人がタイプなんて、どうやって近づいたらいいの?

恭ちゃんのタイプにあたしはなれるの?


弱気な言葉が頭をよぎる。


でも、それじゃあダメだって、自分に言い聞かせて、払拭するようにあたしは恭ちゃんに言い放った。


「恭ちゃんはそのうち、あたしにぞっこんになる!」


勢いよく宣言してみるけれど、やっぱり彼は簡単な言葉であたしをあしらった。


「ぞっこん?はいはい、口で言うのはただだからな」


知らないんだから。

あたしのこと好きになっても。


もし恭ちゃんが、あたしのこと好きだって思うようになってもちょっと意地悪して、好きじゃないフリしちゃうんだからね。


そうやって心の中で言い返して、少し冷めたココアをあたしは一気に飲み干した。


「ごちそう様でした」


音を立ててマグカップを置くと、あたしは掛け布団をたたんで恭ちゃんに返した。


「おこちゃまなのによく出来ました!」

「うるさいもんっ!また来るから!」


「はいはい、今度は年上美女になったら家入れてやるよ」


年上になんかなれるわけないじゃん!


恭ちゃんのバカ。


むすっとしながら玄関でクツを履く。

すると、彼は言う。


「家入るまで見ててやるから気をつけろよー」

「……っ」


大人ってズルい。

何事にも余裕があって、落ち着いてて、感情的になったりしない。


どんなに怒っていても、すぐ隣なのにこうやってあたしのことを心配してくれるからやっぱり好きだって思ってしまう。


嫌いなれないのは、恭ちゃんのせいなんだから。


ドアノブをつかむあたし。

すると彼はあたしに向かって真剣な顔で言った。


「あ、彩乃……一言だけ」


──ドキン。


えっ。

もしかしてさっきのはウソだよって言ってくれる!?


本当はあたしのことを好きだけど、強がっちゃっただけだ、とか……?


恭ちゃんの言葉に振り返る。


何を言うの?


ドキドキとしながら彼を見つめた時。


「美人な大人は甘いココアを一気に飲みほしたりしねぇよ?」


意地悪に笑う恭ちゃんの顔が見えた。


やっぱり恭ちゃんなんて嫌い!!


「もう家入るまで見守ってなくていいから!」


ふんっと顔をそむけて、あたしは勢いよく外に出た。


「はぁ……はぁ、はぁ……」


走って家に帰る。

その勢いのまま自分の家のドアを開けるとお母さんが驚いた顔をして立っていた。


「ビックリした、って、あ……!アンタ、また恭平くんの家行ってたでしょ?もう、迷惑なんだからやめなさいよ。恭平くんだって仕事で疲れてるんだからね」


「分かってるよ!」


恭ちゃんが仕事で疲れていることも、あたしが行くことで迷惑になることも分かってる。


本当なら、恭ちゃんの疲れを癒せるような、支えてあげられるような人になりたいのに、高校生のあたしにはまだまだそんなこと出来なくて、いつも世話をやいてもらってばかり。


いつだって、誰からだって子ども扱い。

隣に並びたいのに、どうしても追いつかない。


対等にはなれないの。


なれるものなら、大人になりたいよ。


だからせめてもの、強がりとしてあたしは背伸びする。


あたしはキッチンに立つと、戸棚にしまってあるインスタントのコーヒーを取り出した。


まだやって見なかっただけで、あたしだって甘くないコーヒーを飲むことくらい出来るもん!


もちろん、砂糖も牛乳も無しで。


インスタントコーヒーをコップに出し、お湯をそそぐ。

湯気がゆらゆらと立ち上る。


そしてゴクゴクと無理やり飲み込むと、口に苦味が広がって顔をしかめた。


「うえっ……苦……っ」


初めてのブラックコーヒーはあたしの、上手くいかない恋のように苦かった──。




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