目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第54話 誰もあなたを求めていません、お引取りを

 元カノである池野先輩から連絡が届い翌日、少しの変化にも敏感に反応する杏樹さんは「うーん……」と唸るように俺を見ていた。


「あの、絋さん。何か私に隠していることはありませんか?」


 鋭い言葉に思いっきり顔を顰めてしまった。

 何で分かるのだろう? 


 実際は返信もせずにブロックをしたのだから、やましいことは何一つしていないのだが、報告をしていなかった事実に引け目を感じていた。


 俺は誤魔化すように「何のこと?」とシラを切った。


「絋さんの雰囲気、莉子さんと接触した時に似てるんですよね。私に対して申し訳なく感じている時みたい……」


 嘘だろ? 的確な指摘に逃れることができなかった。

 観念した俺は、白状して元カノから連絡がきた旨を伝えた。


「もう何年も連絡がきてなかったし、フォローされていたことにも気付いていなかったんだ。だから杏樹さんが心配するようなことは何一つも!」


 言い訳を連ねる俺に、杏樹さんだけでなく崇や千華さんまで呆れた顔で見ていた。


「絋さんって、何で学習しないんですか? バカなんですか?」


「ば、バカってそんな……! 流石にストレート過ぎじゃないっすか? 千華さん」


「いや、千華さんの言い分は最もです。むしろもっと言って下さい! 崇さんも我慢しないでぶっちゃけていいですよ?」


 最後の良心である崇に、俺は助けを求めるように顔を向けた。同じ高校に通っていて池野先輩のことも知っていた崇は、しばらく悩んだ上で俺の味方をしてくれることを選んでくれたようだった。


「今回のことは絋さんの言うとおりだと思います。鈍かった絋さんは気付いていなかったですが、池野先輩は回りの反応に人一倍敏感な人で、自慢する為に絋さんと付き合っていたような人だったので」


「じ、自慢?」


 知らなかった事実に、思わぬ流れ弾を喰らう羽目になった。


「池野先輩が大学に進学した後、更にハイスペックな彼氏に乗り換えたって聞いたので……。きっと今回の絋さんの活躍を見て、あわよくば……と思って連絡してきたんだと思うよ?」


 崇の言葉に、三人は愕然と言葉を失っていた。


「こ、絋さんって本当に人を見る目がないね」


 鋭利な言葉がハートを思いっきり貫いた。

 頼むからもう少しオブラードで包んで発言してくれ、千華さん!


 だが、千華さんの猛攻撃はここでは終わらなかった。続けて発せれた言葉に、俺も杏樹さんも警戒心を高めざるえなかった。


「そんな自己権力を誇示するような人が、簡単に諦めるとは思えないね。その内、絋さんに復縁を迫って押しかけてくるんじゃない?」


「え、いや……まさか、そんな」


 しっかりと上げられたフラグ。

 誰も願っていない展開を起こしてくれたのは、知り合いの中で最も空気を読まない男、慎司だった。


 ポーンっとメッセージが届く音が響く。もちろん送り主は慎司。そして内容も……案の定、池野先輩に関することだった。


『池野先輩から久々に飲もうって連絡が来たんだけどさー。もしかして俺に気があるのかなー? 美人な先輩だったよなー♡』


 …………俺にブロックされたからって、外堀埋めようとするのは酷すぎませんか?


 浮かれた慎司には申し訳ないが、分かりやすい愚行に、俺達は大きなため息を吐いた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?