一先ずシェアハウス退去後のビジョンが現実味を帯びてきた俺達は、不動産を巡ったりサイトで探したりと忙しくなった。
とは言っても、杏樹さんは大学受験を控えている身なので、主に動いているのは俺になる。
彼女に気に入ってもらえるように、様々な立地、内装の部屋をピックアップしなければと奮闘していた。
「中古の物件を購入して、リノベーションするのも有りなんだよな……。賃貸で借り続けるよりも、将来性もあるし」
だが、それはあくまで
大体、一度身体の関係を持っただけで、結婚まで考えが飛躍するなんてキモいだろう、俺……。
「あー……その点、崇と千華さんが羨ましいな。アイツらはどうすんだろ?」
結婚を前提に付き合って、すでに両親にも挨拶済みだと報告されている。俺なんかと違って、確実に前に進んでいる友人が羨ましいし、それと同時に尊敬の意も抱いていた。
「いやいや、考えても仕方ねぇし。一先ずは同棲からだ」
改めて物件を探そうとスマホを開いた時だった。SNSに一つのダイレクトメールが届いていることに気付き、俺は首を傾げながら確認した。
案件の依頼か? それとも——……
開く前に送信者を確認したが、その人物に俺はおもむろに顔を顰めた。
「嘘だろ? マジかよ……」
持っていたスマホを投げたくなるほど気分が悪くなった。
それもそうだろう。
メールを送ってきたのは高校の時に数週間だけ付き合っていた元カノの
フォロワー以外のメールは受け取れないようにしていたので、届いたことに驚いていたが、別れてからずっとフォロー外していなかったんだと気付き、自身の頭を抱え込んでしまった。
嫌な予感しかしない。
有名になってから声をかけてくる知り合いほど、信じられない人間はいない。そう、きっと池野先輩もその類に違いない。
(俺が画像編集とか好きだったことを知ってたし……とは言え、別れた後もフォローしていたとは思っていなかったけれど)
何の用だろう?
メッセージを見るのが恐いのだが、未読のままスルーするのも、それはそれで恐い。
震える指先でボタンを押して、思い切って開いてみた。そこに載っていた内容は——案の定、復縁を願う言葉が綴られていた。
あぁ、何でだ? せっかくの甘酸っぱい思い出を綺麗なまま残してくれないのだろうか?
『一之瀬くん、久しぶりだね♡ 覚えてるかな? ずっと君が頑張ってきた姿を見ていたよ。夢が叶って良かったね! 実は今度、地元に帰ろうと思っているんだけど、久しぶりに会えないかな?』
『ちなみに、今でも私は一之瀬くんの一番のファンのつもりだよ?』
——いやいやいや、どの口が言ってるんだ?
たまたまフォロー外し忘れていただけだろう?
こういう人に限って、元社畜無職だった俺を見下して蔑んだ目で見るに違いない。
一先ず成功を祝ってくれていることにだけは感謝して……会いたいとか、一番のファンって箇所に関してはお断りの文章を添えておこう。
あまり公にしたくないとは言いつつも、杏樹さんのことは隠したくない。
「応援してくれるのは嬉しいけれど、個人的に女性と会うのは彼女に悪いので控えさせて頂きます……っと」
この時の俺は、隠さずに誠意を込めて対応することが正しいと思っていたのだが、その認識が甘かった。
元カノである池野先輩は、俺が思っていた以上にしつこくてネチネチした性格だったようだ。
そう、昔の俺は全く女性を見る目がなかったようだった。
————……★
「魔の手が忍び寄る。うん、絋。ご臨終でした(チーン)」
「いや、勝手に殺すな。死んでねぇよ?」