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第21話  公爵令嬢からの招待状 ②

 次の日の夕食時にライト様が調べてくれた結果を教えてくれたのですが、私の勘は当たっていました。


「お茶会の件だが、シルフィーも来るかもしれないがどうする?」

「……シルフィーですか」


 1人の相手するだけでも面倒ですのに、2人も相手にするのは面倒ですね。敵前逃亡するのは嫌ですが、面倒くさいという気持ちが勝ってしまいます。


「お茶会に行かなければならないでしょうか」

「いや。お茶会は大変な場所だと聞く。君はもっとゆっくりしていたほうがいい」

「ありがとうございます。では、今回はお断りしようと思います」


 公爵家の誘いを断るのですから、他の方からの誘いも今回はお断りしたほうが良いという話になり、何日かはお詫びの手紙を送る作業に追われました。それが終わったあとはのんびりした日常が続くと思っていたのですが、サマンサ様は思った以上にしつこかったのです。


「奥様、今度は個人的なお誘いのお手紙が届いています」


 マーサが眉尻を下げて渡してくれた手紙を読んでみますと、大人数ではなく、私と2人で会いたいと書かれていました。

 少しの時間でも良いからどうしても会いたいと書かれていたことや、2人で会うのであればシルフィーと顔を合わすこともありません。面倒くさがってもどうせいつかは乗り越えなければならない試練です。覚悟を決めた私は、ライト様に相談したあとサマンサ様とお会いすることに決めたのでした。



******


 約束の日、指定された時間よりも少しだけ早い時間にジィルワ家にたどり着くと、執事の服を着た男性が出てきて歓迎の言葉を述べると、中に通してくれました。

 屋敷の中に足を踏み入れるとすぐ、案内係はメイドにバトンタッチされたので、持ってきていた手土産を渡すと、執事はお礼を言って屋敷の奥に歩いて行きました。

 応接室に案内され座って待っていてほしいと言われたので、お言葉に甘えて座って待っていますと、しばらくして扉がノックされ、ジィルワ公爵家の次女であるサマンサ様が中に入ってきました。


 サマンサ様は背が低くぽっちゃりした体型で、白のドレスに金色の髪。頭にはバレッタでしょうか。大きな赤いリボンがついていて、とても可愛らしいです。


「本日はお招きいただき誠にありがとうございます」


 立ち上がって挨拶をすると、サマンサ様もカーテシーをして挨拶を返してくれます。


「はじめまして、サマンサ・ジィルワと申します。気軽にサマンサと呼んでくださいませ。本日は足を運んでいただきありがとうございました」

「こちらこそはじめまして。リーシャ・アーミテムと申します。リーシャとお呼び下さいませ」

「それでは早速、お言葉に甘えますわね。リーシャ様のお噂はお伺いしておりますわ」

「そうなのですね」

「ええ。とても苦労されているとお聞きしておりますわ」


 きらんとサマンサ様の青い瞳が光った気がしました。座るように促されたので腰を下ろすと、サマンサ様は向かい側に座り、メイドにお茶の用意をさせてから、また私に目を向けました。


 この時、どうして私がここに呼ばれたのかわかった気がしました。


 サマンサ様は私の不幸話が聞きたいようです。過去の話もそうですが、ライト様は世間では冷酷公爵として通っていますから、夫婦生活もさぞかし上手くいっていないと思われているのでしょう。

 お出かけも買い物に出かけた一回きりで、結婚式も挙げていませんし新婚旅行にも行っていませんから、不仲説が流れてもおかしくはない気がしてきました。

 それだけ、アーミテム家の使用人達の口が固いということですよね。


「そうですね。元々は、私はアッセルフェナムの人間ではありませんでしたし、勝手が違うこともありますので」


 とにかく、こういう方には私がどれだけ不幸で、聞いてくださるサマンサ様がどれだけ幸せであるかという話をしなければいけません。ライト様とは上手くいっていますが、私は過去が幸せではありませんから、不幸話でしたら過去の話がたくさんあります。身内の恥ずかしい話ではありますが、どうせ知られていることです。

 私が話せば話すことにより、シルフィーの評判も落ちれば、それはそれで良いですしね。


 そういえば、サマンサ様はシルフィーが私と姉妹だったことを知っているのでしょうか。少しずつ探りを入れていきましょう。

 そう思っていると、サマンサ様が話しかけてきます。


「ノルドグレンはとても素敵な国だと聞いていますわ。国民は食べるものに困ることもなく、医療も充実しているのだとか」

「はい。病院は24時間体制ですし、医療費も無料でした」

「まあ、なんて羨ましいことでしょう!」

「ですが、病院にまで病人を連れていかなければなりませんから、遠くに住む人は不便だと思います」

「それはそんな病院がある国の方だからこその贅沢な悩みですわ。アッセルフェナムにはそんな病院はありませんもの」

「ですが、サマンサ様のお家には名医がいらっしゃるのではないですか?」

「あら、ご存知でいらしたのですか!?」

「はい。社交界に詳しい侍女から聞きました」


 笑顔で答えると、サマンサ様はにんまりと微笑みました。


 このことについてはリサーチ済みです。サマンサ様は若くて外見の良い医者を屋敷に住まわせていて、そのことを自慢したくて仕方がないようです。


「あら、社交場でそんな噂が流れているのですね。嫌だわ、お恥ずかしい」


 サマンサ様は困ったような言い方をされましたが、笑顔で医者についての話をしてくれました。こちらとしては、私から話さなくて良いので、とても楽でしたが、その話のネタも尽きてしまい、私に話題をふってきました。


「で、どうなんですの? 新婚生活は? 結婚式もされておられないし新婚旅行にも行かれていないと聞きましたわ」

「ライト様のお仕事が忙しくて、なかなか難しいのです」

「あら、お可哀想! 普通は結婚式を挙げるのは当たり前ですし、新婚旅行に行くのも当たり前なのですよ?」

「……そうなんですね」

「あら! 呑気にしている場合ではありませんわよ! 女は愛されて美しくなるのですから」


 そう言って、サマンサ様は綺麗な髪をサラリとかきあげて誇らしげな顔をしました。


「私の場合は政略結婚のようなものですし、そんな扱いでもしょうがないとは思っておりますが、ライト様のことを悪く言うことだけはおやめくださいませ」

「あら! 私はあなたの味方をしているのよ!!」


 気を悪くさせてしまったのか、サマンサ様がすごい剣幕で叫んでこられました。


 ああ、サマンサ様は相手が自分の旦那様のことを褒めたり庇ったりすると、ご機嫌が悪くなるのでした!

 彼女の気を逸らすために、慌てて話題を変えます。


「ところで、サマンサ様はシルフィー様をご存知でしょうか」

「ええ。もちろんよ! あなたのお姉様で、たしか侯爵令息の次男に嫁入りされましたわよね。ですけれど、あの方の旦那様、長男が爵位を継がれましたら平民になりますから大変ですわねぇ」

「……はい!?」


 シルフィーが幸せそうにしているだなんて知りたくもなくて、詳しくは調べておりませんでしたが、まさかの情報に思わず大きな声を上げてしまったのでした。 






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