「迷惑な話です。それに私のお金など一つもありませんから期待されても無駄です」
「君のお金が一つもないということはない」
馬車に乗り込むと、レベッカの声は遠くなり、動き出した時には全く聞こえなくなりました。
「私のことをどうやってレベッカは知ったのでしょう?」
「君の名前は公表されているからな。さすがに自分の娘の名前くらい覚えているだろう」
「……そうですか」
今、レベッカがどんな状態なのかわかりませんが、私に助けを求めるということは辛い思いをしているのでしょう。どうせなら、シルフィーに助けを求めれば良いのです!
「ライト様」
「どうした?」
「シルフィーはレベッカが今どんな状況にあるか、知っていると思いますか?」
「知っていたとしても知らないふりをするだろうし、レベッカもそうだろう。娘に迷惑をかけたくないようだしな」
「レベッカは、そんなにもシルフィーが可愛いのでしょうか」
「みたいだな。小さい頃からそうだったんじゃないのか?」
ライト様が苦笑して私を見つめました。
「そうです。兄や私のことなど、どうでも良い感じで姉だけを優先していました。それはレベッカだけでなくビリーもです。身代わりに私を置いていくくらいですからね」
「近づけさせないようにしていたが、やはり無理だったな。申し訳ない」
「謝らないでくださいませ。レベッカのしてきたことを知りたくないだけで、会いたくないというわけではありませんから」
「ということは会いたいのか?」
言い方が悪かったようで、ライト様が無言でこちらを睨んで…、ではなく凝視してきました。
「会いたいわけではありません。ライト様のお気遣いには感謝しています」
「そうか。ならいい。会いたかったと言われたらどうしようかと思った」
「……ライト様はあんな両親から生まれた私を妻にして本当に良かったのですか?」
自分で言うのもなんですが、あんな親の娘を妻にしたいだなんて普通は思わない気がします。やはり、王命だからでしょうか。
「別に親が全てじゃないだろう。あんな親からでも君のように真っ直ぐな子は生まれているんだから」
「真っ直ぐでしょうか」
「融通がきかないと言ったほうが良かったか?」
「真っ直ぐで結構です。そのほうが褒められている気がします」
笑顔で頷いたあと、気になったことを聞いてみます。
「レベッカはどうなるのでしょうか?」
「今回は君に近づこうとしたから止めただけで、どうこうすることはないと思う。騎士が帰ってきたら、彼女がどんな様子だったかを確認しておくよ」
「ありがとうございます」
今更、レベッカに何かしてあげようというつもりはありません。もう二度と私には関わらない様にしていただきたいものです。
悪縁を切ってくれる神様がいてくれたら良いのに……、そんな風に思ってしまったのでした。
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屋敷に帰ると、待ちわびていたお兄様からの手紙が届いていました。早速読んでみると、城内は慌ただしく、新しい働き手を募集しているとのことでした。
シーンウッドは疲れてはいるけれど、過労にならないようにモナ様たちが彼の仕事を手伝ってくれているそうです。
そして、気になっていた宰相の件については、彼はなんと現在行方不明なのだそうです。他国の人間にこんなことを教えてはいけないのではないかと思いましたが、これに関しては、陛下から私だけになら伝えても良いという許可をもらっているそうです。
宰相はどこへ行ってしまったのでしょう?
逃げたとしてもどこへ、どんな理由で逃げたのでしょうか。
……私が考えることでもないですかね。そう思い、宰相のことは忘れようとしたのですが、それから3日後のこと。
ライト様が仕事に行かれている時間に、私に面会したいという男性が訪ねてきたのです。
「どなたでしょうか?」
「自分のことをノルドグレンの宰相であると申しておられます。宰相様となりますと、さすがに奥様に伝えたほうが良いかと思いまして……」
セテさんが困った顔をして言いました。
「教えてくれてありがとうございます。ライト様には」
「旦那様には今、使いを送っております」
「ありがとうございます。で、宰相は今はどうしておられます?」
「まだ、門の外でお待ちいただいております。主人の許可なしに屋敷の敷地内に入っていただくことは出来ませんので」
「では、私が行きましょう」
「奥様がですか!?」
アバホカ陛下の従兄弟だったから、宰相というポジションが与えられただけです。宰相のお父様やお兄様は普通の方なんですけどね。
とにかく、安全な場所で話を聞くだけ聞いてみることにしましょう。