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第16話  諦められない人たち ②

 次の日の朝、目を覚まして身を起こすと、先に起きていたライト様が書き物机の引き出しを開けて、中から手紙を取り出しました。


「おはよう。渡し忘れていたものを今のうちに渡しておこう」

「おはようございます。誰からのものでしょうか」


 挨拶を返して手紙を受け取ると、ライト様は答えます。


「ビリーからの手紙だ」

「ビリビリにして良いんですか?」

「ビリーの手紙だけにな」

「しつこいですよ!」

「すまない」


 ライト様は口元に笑みを浮かべて謝ってきました。ライト様といると、なんだかリラックスできます。


 陛下の気持ちはいまいちわかりませんが、私はここに来れて幸せです。ここに来ることになるきっかけを作ったアバホカ陛下に感謝しなければなりませんね。


 そう思いながらビリーの手紙をビリビリに破いて、近くにあったゴミ箱に捨てたのでした。



******



 それから日は過ぎ、ライト様とのお出かけの日になりました。今日という日を楽しみにしていたのですが、残念ながら朝から問題が発覚していました。


 身支度を整えて、朝食をとるためにタイニングルームに向かうと、ライト様とセテさんが難しそうな顔で話をしています。


「どうかされたのですか?」


 尋ねると、ライト様たちは困ったような表情をして顔を見合わせました。

 聞いてはいけないことなのかもしれません。


「失礼しました。私がお邪魔でしたら朝食の時間をずらしますが……」

「いや、そんなことはしなくていい。だが、今日は屋敷でゆっくりするというプランに変更しても良いか?」

「かまいませんが、何かございましたか?」

「問題が起きた」


 それはそうでしょうね。


 心の中でそう思いつつ、ライト様に尋ねます。


「どのような問題でしょう? 私に関わることでしたら遠慮なく言ってくださいませ」

「……なら言うが、今日、街にシルフィーが現れる可能性があると報告があった」


 シルフィーの旦那様の領とアーミテム公爵領はかなり離れています。わざわざ、足を伸ばすということでしょうか。


「自分が住んでいる屋敷の近くではなく、こちらの繁華街に来るのはなぜなのでしょうか」

「シルフィーたちは君が結婚したと聞いて、君の姿を見たくてしょうがないようだ」

「私の姿を見たい、ですか?」


 意味がわからなくて聞き返すと、ライト様は頷きます。


「たぶん、シルフィーは君が不幸になっている姿が見たいんじゃないだろうか」

「私は不幸ではありませんよ」

「今の状態では駄目だ。今の君は冷酷公爵と結婚したということで、一部の貴族の間では可哀想な女性だ。その上、今の君の体形を見たら、今まで辛い思いをしてきたのだろうということが丸わかりだ。彼女はリーシャより、自分が幸せだと優越感に浸るだろう」


 ライト様の分析ですから、間違っていない気がします。


「私の元家族ってろくな人間がいませんね」


 ため息を吐くと、ライト様は私に近づいてくると、頭を撫でながら話します。


「君が幸せだとシルフィーに見せてやりたい。……というわけで無理なく太らせる」

「ど、努力してみます」


 どうしてライト様がシルフィーに私の幸せな姿を見せたいのかはわかりません。ただ、私もどうせ再会するなら、幸せアピールをしたいものです。


 この日から、半ば強制的に食べて適度な運動、読書や寝るだけの生活が始まったのでした。


  食べては読書、食べては散歩を繰り返しているうちに、私の中の仕事中毒という一種の病気は少しずつ治っていき、ダラけることが好きになってきました。

 やはり、ゴロゴロできるのは幸せですね。いつかは必ず仕事はしないといけないので、堕落しないうちに、この生活から抜け出したいものです。

 急激に太ったりはしていませんが、肌艶が良くなり、痩せすぎから痩せているくらいの体形になりました。

 食事をする時間や就寝、起床の時間も決めて、規則正しい生活を送っているからかもしれません。


 そして、ライト様とは寝室で毎日1時間程、話をするようになりました。


「出会った時よりもだいぶ、顔色が良くなってきたな」

「ありがとうございます。お肉もついてきた気がします」 


 ライト様は私が家で大人しくしている間は軍に関わる仕事をして、私が出かけられるようになったらお休みを取れるよう、ナトマモ陛下に頼んでくれました。その願いは許諾され、ライト様は毎日、城と家を往復しています。


 ナトマモ陛下で思い出しましたが、もう一人の陛下からは毎日手紙が届いていました。使いの人は手紙を受け取ってもらえないなら帰ってくるなと言われたそうです。気の毒ですので最近は手紙を受け取り、ライト様が中身を確認してくれています。


「今日の陛下からの手紙には、どんなことが書かれていたのですか?」

「答えても良いが、君はそんなことを聞いて何が楽しいんだ?」

「楽しいわけではなく気になるんです。また何かふざけたことを言ってらっしゃるのかなと思いまして」

「……まあ、そうだな。俺にはとにかく離縁しろの一点張りだ。それから」


 ライト様は言葉を止めると、サイドテーブルの引き出しから封筒を一枚出し、私に差し出してきます。


「読むか?」

「えっと……これは?」

「アバ陛下からの手紙だ」


 アバホカ陛下が短縮されて、アバ陛下になったようです。アホバカよりかは良いですかね。


「読む必要があるのですか?」

「わからん。彼は読んでほしいから書いたんだろう」

「……ライト様はお読みになったんですよね?」

「一応な」


 ライト様の手から手紙を受け取り、読むかやめておこうか考えます。 

 別に読む必要はないんですよね。かといって、ライト様がわざわざ見せるということは、何か気になることが書かれているのかもしれません。


 ちらりとライト様のを見ると、手を差し出してきたので、手紙を渡します。


「俺が要約しようか?」

「はい。お願いできますか?」

「わかった」


 ライト様は封筒の中から、手紙を出して話し始めます。


「どうやら、城内での仕事が上手くまわっていないみたいだな。次々と役職以外の人間が辞めていっているみたいだ」

「そうなんですね」


 皆が辞めるなんてよっぽどですね。無理して働くよりかは良いことですし、皆が仕事を辞めて幸せになっている事を祈らなければ!


「君と仲が良かったという男はまだ頑張っているみたい」

「シーンウッドですか?」

「名前はわからないが、手紙にはお前の大事な男は今でも頑張っているぞと書いてある」

「シーンウッドは大切なお友達の一人です。責任感の強い人でしたから、きりの良い所まで頑張ろうとしているのかもしれません」


 無理をして体を壊さなければいいのですが……。


 心配になっていると、ライト様が眉根を寄せて続きを話してくれます。


「その男が大事なら戻ってこいと書かれている」

「も、戻ってこい!?」


 私は間抜けな声で聞き返したのでした。


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