「い、一体、何があったのでしょうか」
困惑して尋ねると、ライト様は説明してくれます。
「最初は持ち逃げした金があったから裕福に過ごせていたビリーたちだったが、今まで家事をしたことがなかっただろ? だから使用人を何人か雇っていたんだ。散財もしていたし、家計が苦しくなっていった」
「家を出た時にかなりのお金を持っていったはずです。それに宝石などを売れば何とかなったのでは?」
「それでも金が足りなくなったんだ」
「……なんと計画性のない」
いえ、先のことを考える人たちなら、地位を捨てて夜逃げなんてしませんよね。
「ところで元母の話なのですが……」
「レベッカはシルフィーが学園の寮に通っている時に、使用人の男と恋仲になったんだ。それがビリーにバレて」
「――っ! も、もういいです。いくら身内じゃないと思っていても冷静に考えれば血が繋がっておりますので、これ以上聞くと自分のことも嫌になりそうです」
これ以上聞くのが怖くなって首を横に振ると、ライト様は頷きます。
「わかった。聞きたくなることがあったなら声を掛けてくれ」
「ありがとうございます。自分から聞いておいて申し訳ございませんでした」
「謝る必要はない」
別にレベッカが何をしていようと私の知ったことではないと思っていました。でも、もう聞く気にはなれません。
だって、話の続きは予想できますし、こんな人が母だったのかと再認識するのも嫌だったんです。
私は私。
親は親。
そう言っても、あんな親に育てられた子だから出来ない子だとレッテルを張られ続けてきた私は、生きていても良いのか自信がないのです。
だって、あんな親の子がまともなわけがないですよね。
「おい」
とんとんとテーブルを叩く音が聞こえ、いつの間にか下げてしまっていた顔を上げると、ライト様が睨んでいました。
「どうしてそんな辛そうな顔をしている。さっきまでの元気はどうした?」
「申し訳ございません。自分の親が思っていた以上に酷いものだったと実感して、私もいつかそうなるんじゃないかと思ってしまったんです」
「……悪かったな」
「どうして謝られるのです?」
「聞かないほうが良い話だっただろ。俺が知らないふりをしていれば良かった」
そんな風に謝られてしまうと困ります。
「大丈夫です! 仕事をいただければ元気に」
「駄目だと言ってるだろう」
「どうしたら仕事をさせてくれるんですか?」
「太れ」
「太れ、ですか!?」
「せめてガリガリから痩せているくらいにまでなってくれ」
眉根を寄せていますが、たぶん、これは私の体を心配してくださっているのですよね。
「大丈夫ですよ、旦那様」
背後から声が聞こえて振り返ると、見守ってくれていたキヤさんが笑顔で言います。
「奥様は無理ない程度に、わたくし共が太らせてさしあげますから」
「お任せ下さい!」
メイドたちも真剣な表情で拳を握りしめて言いました。
「頼む」
「ありがとうございます」
気持ちに感動してお礼を言ってから、また前を向いて食事を続けます。
皆、優しいです。
優しいといえば、城の皆さんも優しかったです。
お兄様も、城の皆も元気にされているでしょうか。
……あ、お兄様がいてくれたから、私はこんな性格なんですよね。ということは、親に似ることはないのかも?
明るい気持ちになっていると、キヤさんかわライト様に話しかけます。
「ところで旦那様」
「何だ?」
ライト様が不思議そうに聞き返すと、キヤさんは衝撃発言をします。
「今晩から寝室を奥様とご一緒するということでよろしいのですよね?」
「は!?」
ライト様が驚いた顔で聞き返しました。
そのお気持ちはわかります。
私だって今、思い出しましたんですもの。
結婚したということは、一緒に眠るということですよね!? 昨日が初夜でしたが、二人で一つの部屋に寝るのは今晩が初めてです。
ところで、初夜ってどんなことをするのが一般的なのでしょうか。