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第13話  元家族の現状 ①

「信じられません! それにジョージを捨てるのはまだわかりますが、親まで捨てますか!?」


 恋人を捨てるのもやってはいけないことですが、自分のために身分を捨てた親との関係を切ったことに驚いて尋ねると、ライト様は頷きます。


「シルフィーの相手は貴族だろう? 彼女の身辺調査をして、親と縁を切るなら結婚できると言われたんだそうだ。だから、彼女は親と縁を切って結婚した」


 よくもまあ、そんなことができたものです!縁を切っても平民であることに変わりはないでしょうに!


 シルフィーに捨てられたビリーたちはある意味、私と同じ、いえ、もっと辛い思いをしたでしょうけど自業自得ですね!ジョージだってそうです。


 捨てられた人間の辛さを思い知れば良いんです!


「先にシルフィーのことを話すが、シルフィーとフローレンスは学園では仲良くしているように見えてライバル関係だったらしい」

「……ライバル、ですか?」

「ああ。どちらがより美しいか、水面下で競っていたらしい」

「性格は2人共最悪なので勝ち負けがつくのでしょうか」

「外見だけの話だろう。中身は君が言うようにどっちもどっちで酷いからな」


 シルフィーが幸せに暮らしていると思うと嫌な気分になります。人の幸せを喜べないということは、私も性格の悪い人間になってしまったのでしょうか。


「君の性格は悪くない。悪いことをした人間の幸せを手放しで喜べないのは普通の感情だろう。特に君は被害者だからな。善人は何でも許すかもしれないが、許せないものは許せなくていいと俺は思う。それが気になるなら、性格が良いと自分で言わなきゃいいだろう」

「ありがとうございます!」


 何も言っていないのに私の考えたことを当てた驚きよりも、気持ちを肯定してもらえたと喜んでいると、ライト様は満足げに頷きます。


「全てを諦めているのかと思ったがそうではないんだな」

「……諦めていたつもりはないのですが、そう見えましたか?」

「まあな。アバホカ陛下と結婚しようとする人物だから、人生がもうどうでも良くなっているのかと思い込んでいた」

「陛下との結婚が決まったのはシルフィーのせいですし、私が望んだわけではありません。ところで、フローレンス様は、どうして私のことをビリーたちに話したのでしょうか」

「……俺に嫌がらせをしたいんだと思う」

「どういうことですか?」


 意味がわからなくて聞いてみると、ライト様は答えてくれます。


「実は俺と彼女の結婚は1年前を予定していたんだ」

「1年前と言いますと、アッセルフェナムは隣国と戦争をしていましたよね」

「ああ。その戦争に出征することになったから、そのせいで結婚は延期になったんだ。だから、シルフィーよりも先に結婚できなくなった」

「ま、まさか。結婚が遅れたという理由で逆恨みですか?」

「そういうことらしい。自分よりも戦争を優先したということも気に入らないんだろう。結婚は大事なことだから、腹が立つ気持ちもわからないでもない」

「それはおかしいです! ライト様は国を守るために戦いに出られていたんです! シルフィーに先に結婚されようが、ライト様が無事に帰ってくることのほうが大事なはずです!」


 興奮して声を荒らげると、ライト様は小さく頷きます。


「仲間や使用人、ナトマモ陛下たちもそう言ってくれたよ。今思えば、俺の出征を決めたのは陛下だから、婚約者がいなくなった俺に、どうにかして婚約者を用意しようと思ったんだろうな」

「私との結婚を強制しようとしたのは、そういうことだったのですね」


 聞きたかったことはとりあえず聞くことができました。これ以上仕事の邪魔をしてはいけないと思い、私は執務室をあとにしたのでした。


******



 ライト様の執務室を出たあとはメイドたちと一緒に庭園を散歩したり、部屋で本を読んだりお茶を飲んだりと、ゆっくり過ごしました。その間にビリーたちのことも頭に浮かび、ライト様に言い忘れていたことを思い出し。夕食時に伝えることにしました。


 ダイニングルームは私の実家も広いと思っていたのですが、公爵邸はそれよりも広く五十人程が一度に会食できることになっているそうです。

 大きな四角の長いテーブルには白のテーブルクロスがかけられ、その上には等間隔にフルーツが載った皿が置かれています。


 ライト様は扉から一番奥の席に座っていて、私を見てぎこちない笑顔を見せてくれました。


「ゆっくりできたか? 好きな所に座ってくれ」

「ありがとうございます」


 私はライト様の左斜め前の席に座り、早速話しかけます。


「あの、お話があるのですが」

「どうした?」

「ビリーの手紙をビリビリに破っても良いでしょうか?」


 ライト様は目を見開いた後、口元に笑みを浮かべます。


「ビリーの手紙をビリビリ」

「掛けたわけではありません! 無意識に言っただけですのに、どうしてそんな意地悪を言うのですか」

「意地悪ではないが、俺は冷酷公爵だからな」

「私はそうは思いませんけれど」

「……ありがとう」


 私が言葉を返す前に料理長たちが挨拶に来て、今日は胃に優しい料理をコース料理の様に出していくと教えてくれました。


「好きなもののほうが多く食べられるだろうが、好きなものを混ぜつつバランスの良い食事をとらないとな」


 ライト様はそう言って、あとで好きな食べ物や嫌いな食べ物などを確認するように料理長に指示しました。


 料理長が出ていくと、運ばれてきた料理を食べながら、ジョージについての話をすることにしました。


「ビリーからの手紙でジョージのことは何か書かれていたのですか?」

「ああ、ジョージは君に悪いことをしたと思っていて謝りたいと言っているから会わせてあげてほしいって書いてあった」

「後悔だけでしたらどうぞご自由に、というところなのですが、会いたいと言われると迷惑ですね」

「とりあえず無視しようか」

「それでお願いします。……それにしても、ビリーとジョージはどうして一緒にいるんでしょうか。シルフィーがいなくなったのなら、ジョージは用無しですよね? それに元母のレベッカはどうなったんでしょうか」

「ああ、それも聞きたいのか?」


 ライト様は眉根を寄せて私を見つめました。


 何か言いづらいことでもあるのでしょうか?


「ご迷惑でなければぜひ」

「……先に聞くが、君は母のことをどう思っていたんだ?」

「酷いことを言いますが、好きではありません。私のことを可愛がってくれていたわけではありませんし、特にどうこう思うことはないです」

「……そうか」


 それでも言い出しにくそうにしているので、話を引き出すことにします。


「あの、もしかして亡くなったとか、ですか?」

「いや、生きているとは思う。詳しくは調べていないから何とも言えないが」

「何かあったのですか?」

「言うが、ショックは受けるなよ?」

「そんなことを言われますと聞きたいような聞きたくないような…、ですが、聞きたい気持ちのほうが強いのでお願いいたします」


 促すと、ライト様は食事の手を止めて重い口を開きます。


「君の母のレベッカだがビリーに売られたんだ」

「はい!?」


 う、売られたとはどういうことなのでしょう!?

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