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第12話  新婚夫婦はゆっくりできない ②

「陛下からの手紙は何通も来ているのですか?」

「ああ。君が出発してから毎日送ってきているんだと思う」

「早馬で運ばせているから、私よりも速くに付いているのですね」


 私をライト様の妻にと言い出したのは、あの方です。それなのにどうしてこんなことをするのでしょうか。


「ナトマモ陛下に報告はしているし、君のためにもやるだろうから、気にせずに結婚するように言われたんだ」

「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」


 私はフォークを置いて、深々と頭を下げました。


「君が謝ることじゃない。俺と結婚したことがわかれば、何か言ってくる可能性がある。君を守るつもりではいるが、向こうが王命だと言い出せば、公爵の俺では断ることが難しい」

「それは仕方がないことです。ライト様は気になさらないでくださいませ」

「ありがとう。ナトマモ陛下も出来る限り要求を断るようにはしてくださるだろうが、絶対とは言えないみたいだ」

「尤もな理由をつけられたら断るわけにはいきませんものね」


 頷くと、ライト様は眉間のシワを深くして言います。


「次にもう一通の手紙の話だが、君の家庭環境は複雑なんだよな」

「はい。ノルドグレン王国では兄以外の家族は亡くなったも同然の扱いです」

「では手紙の主は君の父をかたる男ということにするか。ビリーと呼んでもいいか?」

「結構です」


 ビリーというのは父の名前です。もう私と関係のないはずのビリーが何を言ってきたのでしょうか。


「君にとってビリーは赤の他人だ。手紙の内容を無理に知る必要はないと思うが、どうする?」

「ビリーが私に接触しようとする可能性はありますか?」

「絶対にないとは言えない。向こうは君と話したがっているからな。だが、この家から一歩も出ることがなければ、その心配はない」

「では、家にいる間は仕事をさせてもらえますか?」

「君は仕事以外にしたいことはないのか」


 大きなため息を吐いて、ライト様は頭を抱えました。

 なんだかすごく悪いことをしてしまったみたいな気がします。


「食べることも好きなんですが、最近はあまり食べていなくて胃が小さくなっているので、たくさんは食べれないのです」


 目の前のケーキを全て食べたいという欲求はありますが、一口サイズのケーキを3個食べた時点で満腹です。


「君の場合は、量を増やすというよりかは食事の回数を増やしたほうが良さそうだな。寝る前に食べるのは良くないから、それ以外の時間だな。あと一気ににたくさん食べると君の胃がやられそうで心配だ」

「吐いてしまっては意味がないですし、美味しく食べないと食事自体が嫌いになってしまうと思います」

「それはそうだな。で、他に好きなことはあるのか?」

「仕事です」

「仕事以外と言っただろう」

「では、逆にお聞きしますが、ライト様は何がお好きですか?」


 すぐには思い浮かばなかったので尋ね返すと、ライト様は暫し悩んでから口を開きます。


「寝る」

「寝る?」

「ああ、寝ることは好きだ」

「お昼寝とかですか?」

「いや、昼寝はあまりしない。夜に寝たい」

「長時間寝たいということですね」

「そうだな。で、君は?」


 結局、こっちにボールが回ってきてしまいました。


「特にないんです。今まで仕事ばかりでしたから、それ以外にしたことがないからわからないというのが正しいのかもしれません」

「遊びに出かけたことはあるだろう?」

「家族がいなくなるまでは友人と出かけたりはしました。友人と一緒だったからお出かけも楽しかったんだと思うんです。この国には友人はいませんし、強いて1人で出かけるなら買い物くらいでしょうか」

「なら、買い物に出かければいい。侍女と騎士を付けるから、散財してくるんだ」

「でも、ビリーが接触しようとしてくるかもしれませんよね」


 ライト様は眉間を押さえながら答えます。


「近づけさせることはないが、叫んだりして君の注意を引こうとする可能性はある。その時は聞こえないふりをしてほしい」

「承知いたしました。アバホカ陛下のおかげでスルースキルは身についておりますので大丈夫だと思います」

「……どんな生活をしていたんだ」


 訝しそうにするライト様に今までの出来事を話すと、眉尻を下げます。


「家族以外のことでも苦労してきたんだな。その分、ここで幸せになってくれ」

「ありがとうございます」


 ライト様の優しさに気持ちが温かくなったところで尋ねます。


「あのライト様、ところでビリーからの手紙にはどんなことが書かれていたんでしょうか?」

「聞いても不快になるだけだと思うが、気になるだろうから話しておく」


 ライト様は紅茶を一口飲んで、喉を潤してから続けます。


「君を育てたのは自分たちだと」

「昔はそうかもしれませんが、捨てたくせによく名乗り出てこれましたね」

「君のことは可愛い娘だと」

「それは絶対にありえません!」

「今まで寂しい思いをさせただろうから一緒に住みたい」

「何ですか、それ!? 手紙ありますか!? ビリビリに破ります!」

「……ビリーの手紙をビリビリ?」

「ビリーと掛けてませんからね!!」


 私はいつからこんなツッコミキャラになってしまったのでしょう。ライト様が思っていた以上に純粋な方だからでしょうか。


「それは済まなかった」


 コホンと咳払いをして、ライト様は続けます。


「ビリーからの手紙は君と俺との結婚が決まってから来ているんだ。結婚が決まったのは最近のことだ。多くの貴族には知られているが、ビリーのような平民には知らされていない。俺の領民にも結婚はすると伝えてはあるが、相手の名前までは伝えていないんだ」

「……ということは、ビリーは貴族の誰かと繋がりがあるということですよね」

「そうなる」


 一人、思い浮かぶ人物がいます。


「それって……」

「そうだ、フローレンスだ」


 私と元家族を関わらせようとするなんて、フローレンス様はそんなことをして、何が楽しいのでしょうか。


「ちなみに、君の元婚約者のことだが」

「元婚約者? ……もしかしてジョージのことですか」

「ああ。彼も君に会いたがっているみたいだ」

「実は彼とは年が離れていることもあって、あまり交流していないんです。特に裏切られたというショックもありません。それにジョージには私の元姉のシルフィーがいるはずでよね。それなのに何か言ってきているのですか?」


 シルフィーと駆け落ちしておいて私に会いたいだなんて、よくもそんなことを言えたものです。


「シルフィーは玉の輿にのった。ジョージは捨てられたんだ」

「はい!?」

「シルフィーは親と元婚約者を捨てて、侯爵家の次男と結婚したんだよ」


 シルフィーは一体、何を考えているんでしょうか!


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