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第6話  国王の本音 ①

 無事に婚約破棄が成立したあとは、フローレンス様から聞いた話が事実かどうか確かめることにしました。半日だけ休みをもらい、家に戻ってお兄様に確認してみますと、お兄様は現時点でわかっていることを教えてくれました。


 夜逃げした両親たちはアッセルフェナムで戸籍を買い、しばらくの間は平民として暮らしていたようです。目立たず暮らしていくつもりだったのかもしれませんが、侯爵時代の言動が抜けず、地元の人たちとのトラブルが相次いだせいで、住む場所を転々としていたそうです。


 お姉様は両親たちとは別に、貴族が多く通う学園に半年間通っていたらしく、フローレンス様とはそこで知り合ったようです。


 フローレンス様はどうしてもアーミテム公爵と結婚したくなくて、アバホカ陛下に近付いたようです。

 妊娠しようと考えていたのかはわかりませんが、それくらいしなければ、陛下がのらりくらりと責任逃れをすると思ったのかもしれません。


 それにしてもそこまで嫌がるだなんて、アーミテム公爵はそんなに悪い人なのでしょうか。陛下よりも性格が悪い人なんて、そういないと思うんですが……。


「リーシャ! 嫁に行っちゃうって本当なの!?」


 半休後、城の執務室で仕事をしていると、陛下の愛人3人が揃ってやって来たので、仕事の手を止めて応対することにしました。


「陛下からの命令なんです。それに他国に多大なご迷惑をかけたのですから仕方がありません」


 フローレンス様も悪いとは思いますが、彼女の分は彼女のご両親が罰を受けていることでしょう。


 陛下の愛人たちは出るとこは出ていて引っ込んでほしいところは引っ込んでいるという、私からしてみれば理想の体形の持ち主であるだけでなく、三者三様の美人です。


「陛下のせいだからってリーシャが責任を取る必要ないでしょう?」

「アバホカ陛下が言い出したことですし、アッセルフェナムの国王陛下も了承していますので、私にはどうすることもできません。今まで大変お世話になりました」

「そんな寂しいこと言わないでよ! 陛下との婚約だって、あなたの姉のせいだったじゃない! リーシャばかり辛い思いをするなんておかしいわよ!」


 ありがたいことに、現在の陛下の愛人たちは私に好意的な人しかいません。3人共に働きづめの私の体を心配してくれる優しい人たちです。


 陛下と結婚することになっても、この3人となら良い関係を築いていけると思っていました。さよならしなければいけないと思うと寂しい気持ちもあります。


「陛下がリーシャを嫁に出すだなんて信じられないわ。リーシャのために私たちがいるはずなのに……」

「私のため、ですか?」


 首を傾げると、セミロングのストレートの綺麗な黒髪を持つモナさんは慌てて口を押さえました。


「ちょっとモナ! それは言うなって言われているでしょう! あのね、リーシャ。たぶんだけれど、あなたが嫌だと言ったらアッセルフェナムに行かなくても良いかもしれないわ」


 金髪碧眼の清楚な美人タイプのジェニーさんに、私は思わず眉根を寄せて尋ねます。


「国王同士が結んだ約束を、行きたくないからという理由で断れるとは思えません」

「別に陛下を庇うわけじゃないんだけれど、陛下はリーシャのことを大事に思っているのよ。だから今まで手を出さなかったの」


 モナさんが教えて下さいましたが、私は首を横に振って否定します。


「陛下は私のことを大事どころか駒か何かとしか思っていないでしょう。処女だから面倒なので手を出さなかったとかとも言っておられましたよ。大事に思っているのなら、そんなことは言わないでしょう」

「あなたに自分を好きになってもらってから手を出そうとしていたんだと思うわ。結婚を遅らせていたのもそのせいなのよ。結婚したら初夜を迎えるから、必然的にあなたに手を出さないといけなくなるでしょう」

「たとえそうだったとしても、他国に嫁に行けというなんておかしくありませんか?」

「だから、おかしいと思うって言ってるじゃない!」


 両拳を握りしめて言うモナさんにジェニーさんが言います。


「モナ、もう決まったことなんだからどうしようもないわ。それに、この国にいたらリーシャは過労死してしまうかもしれない」


 ジェニーさんは私の頬に手を当てて、今にも泣き出しそうな顔になりました。


「可哀想に。少し見ない内にリーシャったら頬がこけてしまっているじゃない。顔色も良くないわ。リーシャが無理を続けて倒れてしまう前に国外へ出してあげることが私たちに出来ることなんじゃないかしら」

「……そうね、そうかもしれないわね。陛下の自業自得だわ」


 モナさんは頷くと、私に言います。


「今やっている仕事を手伝うわ。どうせ、私たちがその内やらないといけなくなるでしょうしからね」

「ありがとうございます!」


 モナさんたちは陛下とは永年の愛人契約を交わしており、それによって彼女たちに与えられた権限を爵位で例えるとすれば侯爵家以上になります。私の仕事を引き継ぐには申し分ない立場です。今までも私の仕事を何度か手伝ってくださっていたので、彼女たちが協力してくれるのなら、とても心強いです。


 国のことは気になりますが、私だって幸せになる権利はあるはずです。冷酷公爵であろうとも、殺されないのであれば陛下の嫁になるよりかはかなりマシな気がします。


 気になるのは隣国には私とディルガ兄様を捨てた家族がいるということです。

 普通の人間なら、私に近付いてくることはないかと思いますが、あの人たちは普通の人間ではありませんので不安です。


 ……って、ウダウダ考えていても意味がありませんね!とにかく、少しでも早くアッセルフェナム王国に行き、今回の件について国王陛下たちにお詫びをしなくてはなりません。


 気持ちを切り替えて、モナさんたちに仕事の指示をしました。3人のおかげて少しだけ休憩時間ができたので、出国した際、国の内情について公表されていること以外は他言しないという誓約書を書いたのでした。



******



 それから五日後、このまま仕事を続けていてもキリがなく、出発できないということで強制的に私の出立の日時が決められました。

 そして十日後の今日、とうとう私はアッセルフェナム王国へ旅立つことになりました。


 モナ様たちに挨拶をしにいくついで、と言ってはなんですが、アバホカ陛下にもご挨拶に行かなかければならず、まずは陛下の部屋に向かいました。


「陛下、今までありがとうございました」


 部屋に入っても良いという許可が出ましたので中に入ると、今日は陛下とフローレンス様だけでなく、愛人3人もいらっしゃいました。


 陛下は不機嫌そうな顔をして言います。


「ありがとうございましたじゃねぇよ。本当に行く気かよ」

「本当に行くと言っているではありませんか。フローレンス様もお元気で」


 陛下とフローレンス様への挨拶は簡単に済ませて、モナさんたちに体を向けます。


「皆様のおかげで今まで頑張って来ることができました。本当にありがとうございました」

「リーシャ、私達のこと忘れないでね!」

「隣国に行ったらゆっくり休まないと駄目よ!」

「落ち着いたら家に呼んでよね! 幸せになって!」


 モナさんたちと円を組んで別れを惜しんでいると、陛下が叫びます。


「待て、リーシャ!」

「……何でしょうか」

「本当に行こうとするなんて馬鹿じゃねえの!? 絶対に行かせないからな!」

「はい?」


 私だけでなく、モナさんたちまでもが聞き返したのでした。



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