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第14話 フィーアを迎えに②

小鳥のさえずる声で目を覚ました亜紀は体にかけている布団の上にちょこんとAlice.が止まっているのを見つけ、そちらへと手を伸ばす。Alice.は飛びさらずにそのまま亜紀の手の甲にのってくる。小さな足の爪が昨夜亜紀が火傷をしたところにあたったが、痛みはもうなかった。

佑の持っているものとは違い、今ここにいるのは本物の小鳥そっくりに造られており、去年の亜紀の誕生日に透がプレゼントしたものだった。指にふれる鮮やかな青い羽毛はやわらかく、首を左右にかしげる動作がとても愛らしい。その嘴が折りたたまれた1枚の紙をくわえていた。亜紀が紙を受け取って書かれた文字に目をとおす。透からの書き置きだった。



こんな早朝からでも開いているとは思わなかった。地下層の博物館に先に到着した透は瀬名を待つ間、最初に来た時は見れなった過去の遺物が展示されたガラスケースの列を端から端まで見てまわる。そうしてあの展示物の前で足をとめた。今の時代よりはるか昔に作られたCDプレーヤーと同じ年代に発売されたアルバムが数枚。そのどちらも透は持っていて、よく知っていた。今夜帰宅したら久しぶりに引っぱりだして聴いてみようか。


「おはようございます、小松博士。ずいぶんお早いですね、お待たせしてしまいましたか?」

『おはよう瀬名くん。いいや……私も少し前についたばかりだよ。時間があったから展示物を見ていたんだ』

「そうでしたか。一応フィーア博士に今からご自宅へうかがうと連絡いれますね」

『ああ』


瀬名は透と同じジャケットから自分の携帯を取りだすとフィーアにかけた。


『……もしもし?どうされましたこんな朝早くに』

「おはようございますフィーア博士、瀬名です。もしかして寝起きでしたか?」


ふあ、とフィーアの眠そうな欠伸が聞こえる。瀬名は謝りながらも要件を伝えた。


『ああ……もう近くまで来てるんですねえ。すみません、昨晩は遅くまで起きていたもので、まだ眠くて』


フィーアが再び欠伸をする。瀬名はこのまま話し続けるのは悪いと思い、通話を切り上げた。


『それでドクトルはなんと?』

「ええと、どうも徹夜されてたようで寝起きのご様子でした。今からうかがうことは伝えました。すぐに準備に取りかかられるようです」

『なるほど。なら私たちも行こうか』

「はい」



《いや、すみませんねえ。本当にいただいていいんですかこれ。RUJの職員証じゃないですか。まさか……偽造されたとか?》

「いえ、そちらは社内で発行された正規品です」


目の下に濃いくまをつくったフィーアは瀬名から手渡されたネックストラップ付きのカードホルダーの中身を確認する。白い光沢のある名刺サイズの紙に銀色の文字で印刷された自分の名前と社員ID、顔写真を見てうなずく。


《なるほど。これがあれば私はこれから地上層に出入り自由なわけですな。それはいいとして、グラウはどうします。お2人で運ぶのはちと大変かもしれませんよ?》


フィーアはかたわらに立っているグラウのほうを見やる。瀬名は透から指示されたとおりに持ってきたピンポン玉くらいのボール状にしたブラックボックスを上着から取り出して床に落とし起動させる。


《おう、これは用意がいい。誰にも怪しまれずに運べますな。では早速……グラウや、この中へお入り。落ち着いたら迎えに行くから小松博士のお宅で大人しくしてるんだよ》


グラウは何も言わずにただうなずくとフィーアに従い、ブラックボックスの黒い棺のような箱の中に横たわる。静かに胸の前で両手を組み合わせると本物の死者のようだった。


《……では、グラウをよろしくお願いします》

『ええ。責任をもって家でお預かりいたします』

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