「あぁ……♥ うじゃ♥ うじゃ♥ 湧いてきましたぁ……っ♥」
管狐は頬を染め、それから、牙を剥いた。
地下道と鬼は相性がいい。
古来より、鬼は洞穴に住むものだからだ。
西洋の伝承に残る
電車の侵入口から溢れる、鬼の群れ。
もつれあい絡み合い、金棒で仲間を潰しながらも湧き出る、おびただしい数の鬼。
それが、ホームの両脇から、飛び出してくる。
インドの電車も真っ青な人口だ。
「術者は俺がやる。管狐は……」
「はいっ♥ 雑魚を貪ればよろしいのですねっ♥」
「……そういうことだ」
性格こそ終わっているが、話は早い。
それが管狐の唯一といってよい長所だった。
あっという間に俺たちを取り囲む鬼の円環の中心で、俺はジャケットの内ポケットから索敵用の呪符を取り出し、天高く投げる。
天井に張り付く呪符。
そこから走る、無数の青白い線――俺の霊力網が、敵の位置を捉えた。
「上に行く。道を開けさせろ」
「がってん♥」
可愛らしく頷いて見せる管狐……に、鬼が襲い掛かる。
鬼の群れの中から頭七つは抜けて高い、巨大な赤鬼。振り下ろすは、全長3メートルはあろう金棒。
「ちゅっ♥」
金棒が――鬼の腕ごと、失われる。
「は……ぁあ……んっ♥」
管狐が姿を変える。
失われた鬼の腕が、金棒が、管狐の顎の中へ消えていく。
四足の獣。
全身を黒く塗りつぶされた、異界の獣。
狐であるかもわからず、黒い着物を漂う炎のように纏う、金色の瞳の獣。
顎から青白い血を滴らせ。
鬼の腕を咀嚼する。
『……すっかすかぁ……♥ 式の肉って、どうしてこう不味いんでしょう……?』
男も女も犬も猫も猿も狼も老人も赤ん坊も混ぜ合わせたような、背筋が恐怖に震える声で、獣は――管狐は、甘く囁いた。
「……式は霊力の集合体だ。
お前のような式神からしたら、良い栄養分の筈だが?」
『やっぱりお肉は生に限りますっ♥ ご主人さまぁ……晩ごはんはレバ刺しにいたしましょう?』
「やだ。腹壊す」
『えー』
獣が歩み出る。
鬼が俺たちに群がる。
管狐が顎を開くたび、影のような腕を振るうたび、青白い血が……式神を構成する霊力の飛沫が、散る。
『ご主人さまっ♥』
動きを止めたエスカレーターを俺の脚が踏む頃。
あれだけ居た筈の鬼の群れは、すべて、管狐の腹の中にしまわれた。
「どうした」
『思い出しました! なでなで♥ してくださっても構いませんよぉ♥』
「内容による」
『こいつらの味、ヤクザの事務所で食べたのと……同じ味がいたします♥』
俺は管狐の頭を撫でた。
「むふーっ♥」
頭を撫でられると、管狐は少女の姿を取り戻した。