目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第4話 血塗れデートですっ♥

「あぁ……♥ うじゃ♥ うじゃ♥ 湧いてきましたぁ……っ♥」

 管狐は頬を染め、それから、牙を剥いた。


 地下道と鬼は相性がいい。

 古来より、鬼は洞穴に住むものだからだ。

 西洋の伝承に残る小鬼ゴブリンも、地獄に住まうという餓鬼も……であるから、地下鉄のホームでを召喚した敵の術師は、中々に道理をわきまえているらしいということが分かった。



 電車の侵入口から溢れる、鬼の群れ。



 もつれあい絡み合い、金棒で仲間を潰しながらも湧き出る、おびただしい数の鬼。

 それが、ホームの両脇から、飛び出してくる。

 インドの電車も真っ青な人口だ。


「術者は俺がやる。管狐は……」

「はいっ♥ 雑魚を貪ればよろしいのですねっ♥」

「……そういうことだ」


 性格こそ終わっているが、話は早い。

 それが管狐の唯一といってよい長所だった。

 あっという間に俺たちを取り囲む鬼の円環の中心で、俺はジャケットの内ポケットから索敵用の呪符を取り出し、天高く投げる。

 天井に張り付く呪符。

 そこから走る、無数の青白い線――俺の霊力網が、敵の位置を捉えた。


「上に行く。道を開けさせろ」

「がってん♥」


 可愛らしく頷いて見せる管狐……に、鬼が襲い掛かる。

 鬼の群れの中から頭七つは抜けて高い、巨大な赤鬼。振り下ろすは、全長3メートルはあろう金棒。


「ちゅっ♥」


 金棒が――鬼の腕ごと、失われる。



「は……ぁあ……んっ♥」


 管狐が姿を変える。

 失われた鬼の腕が、金棒が、管狐の顎の中へ消えていく。




 四足の獣。

 全身を黒く塗りつぶされた、異界の獣。

 狐であるかもわからず、黒い着物を漂う炎のように纏う、金色の瞳の獣。

 顎から青白い血を滴らせ。

 鬼の腕を咀嚼する。




『……すっかすかぁ……♥ 式の肉って、どうしてこう不味いんでしょう……?』


 男も女も犬も猫も猿も狼も老人も赤ん坊も混ぜ合わせたような、背筋が恐怖に震える声で、獣は――管狐は、甘く囁いた。


「……式は霊力の集合体だ。

 お前のような式神からしたら、良い栄養分の筈だが?」

『やっぱりお肉は生に限りますっ♥ ご主人さまぁ……晩ごはんはレバ刺しにいたしましょう?』

「やだ。腹壊す」

『えー』


 獣が歩み出る。

 鬼が俺たちに群がる。

 管狐が顎を開くたび、影のような腕を振るうたび、青白い血が……式神を構成する霊力の飛沫が、散る。


『ご主人さまっ♥』


 動きを止めたエスカレーターを俺の脚が踏む頃。

 あれだけ居た筈の鬼の群れは、すべて、管狐の腹の中にしまわれた。


「どうした」

『思い出しました! なでなで♥ してくださっても構いませんよぉ♥』

「内容による」




『こいつらの味、ヤクザの事務所で食べたのと……同じ味がいたします♥』




 俺は管狐の頭を撫でた。

「むふーっ♥」

 頭を撫でられると、管狐は少女の姿を取り戻した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?