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第3話

「あれ?」

 何て事を考えてる間に、いつの間にか先輩はゲーム台の椅子に座ってる。

「さあ、新たなチャレンジャーが現れました! 果たして彼は最強を打ち破れるのか!」

「やれー! やっちまえ!」

「俺たちに勝つ奴なんているわけないだろ!」

 後ろで見ていたほとんどが、対戦相手の仲間みたい。応援と言うより、野次が飛んでくる。何か嫌な感じ。

 ゲームは3人勝ち抜き。その嫌な感じの人は、私でも分かるぐらい、すぐに先輩のキャラクターをボコボコにしてしまった。

「は、やっぱりそうなるじゃん」

 その人が笑うと、後ろの人達のほとんどが笑った。先輩も肩をすくめてる。

「じゃあ、次はUFOキャッチャーに‥‥」

 =紅奈ねえ! デートした相手があんな事になって悔しくないの?=

 =‥‥まあ‥‥でも、ゲームの話だし=

 =そのゲームで、笑い者になってるのに‥‥呆れた=

 =‥‥‥‥=

 そう言われれば、そんな気もするけど、負けちゃったものは仕方がないじゃん。

 =そうやってすぐ諦めるのが紅奈の悪い癖。こういう時はね、どうにか出来ないか、最後まで足掻くの!=

「‥‥‥もう負けちゃったし‥‥‥」

 =まだ負けてない。仕方がない、ちょっと借りるね=

「‥‥‥‥」

 その瞬間、私の目つきが鋭くなったのが分かる。もう完全に私は何も出来ない。

「次は私です」

 そう言って先輩が座っていた椅子に座る。

「紅奈ちゃん?」

「‥‥‥‥」

 まだキャラは二人残ってるので、続けられるって言えば、続けられるんだけど‥‥お姉ちゃん、出来るの?

 =やってみなきゃ分からないでしょ? 最後まで足掻くの? いい?=

 =‥‥うん=

「へえ、今度は彼女か‥‥」

「‥‥‥‥」

 私は睨み返す(私じゃないの!)。

「おーおー、可愛い顔してやる気じゃん」

「‥‥‥‥」

 マイクを持った人が開始の合図をした。

 最初はなんだか苦戦してた。こっちの体力がどんどん減ってきてる。

 でも、そのうちこっちの攻撃が当たるようになってきて、

 =やっとコツが分かってきた‥‥見てなさいよ=

 お姉ちゃんが調子づいてる。こうなったらもう誰にも止められない。

「な‥‥何だと!」

「‥‥‥‥」

 何とか一人目をkO。これで二対二の同点。こっちの体力は少ないけど。

 でも、今度はあっさりと倒しちゃって。

「この‥‥」

 そして三人目‥‥最後の人、これで三人抜き。

 チャンピオンと呼ばれる人で、さすがに強い、でも、お姉ちゃんの方が上手だった。

 最後に、相手の体力のほとんどを持っていく技を当てて、華麗なる勝利。

 その途端、今まで、チャンピオンさん達の事を応援してた人達は、手のひら返しで、私のおめでとうコールに変わったの。

「凄いね君、どんだけ練習したの?」

「何だよ、世界最強って言ってたわりに大した事ないな」

 居心地が悪くなったのか、その人達はいなくなった。最後に私をすんごい形相で睨んでたけど‥‥私だけど、私じゃないのにね。

「‥‥‥ふう‥」

 ため息が出る事で、体が戻った事が分かった。

「紅奈ちゃん‥‥こんなにゲーム上手だったんだ」

「そ、それは‥‥」

 いかん‥‥どうやって誤魔化そう。

「‥‥えっと、たまたまで‥‥まぐれと言うか‥‥はは」

「そうなんだ」

 それで納得してくれたなら、先輩も相当、天然だと思う。

 まだ首を傾げてる間に、私は騒がしいこの場所から離れた。

 もう! 結局、UFOキャッチャー出来なかったじゃない。

 次に目指す先は最終目的地の街外れの岡にある展望台。そこから街が一望できる。

 ロマンチックな場所。

 何だかドキドキしてきた。

 さっきまでの溶けたチョコレートの私とは違う。

 一世一代の私の告白。絶対に成功させたい! 失敗は許されない!

 =大丈夫。もっと自信をもって=

 =そう言われても‥‥=

 =言ったでしょ、紅奈はね、この完璧超人、柊翔子の妹なんだって=

 =うん=

 =‥‥もう時間がないの‥‥だからこれだけは言っておくけど‥‥=

「‥‥時間?」

 何の事?

 =紅奈、あなたはやれば出来る子! 足りないのはちょっとの自信だけ! それは忘れないで!=

「‥‥うん」

 =‥‥じゃあ‥‥‥‥さよ‥‥なら‥‥=

「‥‥‥‥」

 お姉ちゃんはそうやって傍観するつもりらしいけど‥‥

 =でも、私がどうかしてしまったら、お姉ちゃん、また変わってね=

 一応、言っておく。

 そんな保険もあるから、失敗はしようがないんだけど。

 凄い時間がかかったようで実は数分で到着した。

 林の小道の奥、そこからベンチが何個かあって、絶好の展望スポットになってる。都合の良い事に他に誰もいないみたい。

 今だ、今しかない!

「あの‥‥先輩」

 木製の柵に手をかけてた先輩に、私は声をかけたの。

「どうしたの?」

「あの‥‥せ‥‥先輩の事が‥‥その‥‥す」

「‥‥す?」

「すすすす‥‥」

「‥‥‥‥?」

 す‥‥その先の言葉がどうしても出てこない。

「?」

 =お、お姉ちゃん、変わって!=

 =‥‥‥‥=

 =お姉ちゃん?=

 返事がない。どうして? 今が一番大事な時なのに!

 “いたいた、あのクソ生意気なガキだ”

「!」

 気が付かなかったけど、周りは五、六人の男の人達に囲まれてた。

 腰パンに、変なチェーンをジャラジャラ‥‥絵に描いたような輩の人達‥‥何処かで見覚えが‥‥。

「‥‥ったく‥‥あんな恥をかかせやがって」

 あ、そうだ! さっき、ゲーセンで私(お姉ちゃん)に負けた人達だ。

「‥‥行こう、紅奈ちゃん」

 先輩は私の手を掴んで離れようとしたんだけど。

「おい、待てよ!」

 輩の一人に行く手を通せんぼされた。そしてまた典型的な輩笑い。

「シカトしてんじゃねえよ!」

「ぐ!」

 先輩は突き飛ばされて倒れた。

「これは礼をしないとな!」

 輩が近づいてくる。

 =お姉ちゃん! 変わって!=

 返事がない。こんな時に!

 輩が近づいてくる! 何とかしないと。

 え? 私が?

 どうやって? 無理無理無理!

 ‥‥って、言ってても仕方がないのは分かってる。

 逃げる‥‥ううん、それは無理、周りを囲まれてるし、先輩もいる。

 だとしたら‥‥この場で何とかするしかない。

 どうやって?

「‥‥‥‥」

 手本は‥‥さっき見たじゃない。

 お姉ちゃんがやった通りにすれば‥‥。

 出来るかな‥‥じゃない。

 私は出来る!

 私は、完璧超人、柊翔子の妹なんだから! それが自信の根拠!

「‥‥‥‥」

 私の目が吊り上げる。

 私の意志で。

 それと輩の手が伸びてくるのはほぼ同時だった。

「はっ!」

「?‥‥うわあ!」

 私は輩の腕を掴んでひっくり返す。輩Aは、一回転して地面に転がった。

「‥‥なんだ?」

 怪訝な表情の輩BとCが同時に近づいてくる。

「ふん!」

 一人は掌底打ちでアゴを突き上げ。もう一人は膝でみぞおちを打った。

「ぎゃ!」

「ぐ!」

 輩二人は同時に崩れ落ちた。

「‥‥‥‥」

 私は片足で立ったポーズからゆっくりと足を下ろしていく。

 それから残っている輩D~Fの三人に手の甲を向けて、それから、クイクイっとこっちに来るように曲げた。

 それは完全な挑発。かかって来いやって意味なんじゃないの?

 さっき画面で同じポーズを見た。

「ふざけんじゃねえぞ!」

「てめえ!」

「おらあ!」

 案の定、頭に血が昇った彼らは、同時に殴り掛かってきた。

「‥‥‥‥」

 一人目の拳が目の前に迫ったけど、私はスケート選手みたいに後ろに大きく体をのけ反らせ、拳が空振りした後、足の先で男のアゴを蹴り上げた。そこでその輩Dは転がり、戦線離脱。

「なに⁉」

 別の輩‥‥多分、元チャンピオン(ゲーム)が後ろから殴ろうとしていたけど、私は倒れてる輩の背中を踏みつけて大きく空へと舞い上がった。

「ぐはっ!」

 空から真っ直ぐに輩Eの頭を両足で踏みつける。輩は地面に顔を打ちつけ、そのまま動かなくなった。

「な‥‥なん何だ‥‥おご!」

 思考停止中の最後に残った輩Fを回し蹴りで吹き飛ばした。

「‥‥‥‥」

 私が目を閉じたので、視界が真っ暗になる。

「‥‥‥‥」

 再び目を開けるとあちこちに倒れた輩がそのまま残ってて、少し離れた所で、先輩が口を開けてこっちを見てる。

 やった‥‥のか?じゃなくて、やってしまった‥‥のか?

 輩を相手に大立ち回り。

 これはもう‥‥言い訳のしようがない。

 どうしようか‥‥どう声をかければ‥‥。

「‥‥‥‥」

 =‥‥お姉ちゃん=

 やっぱり何も答えてくれない。

 こんな時に!

 そうやって、私が一人でやれるかどうかを試してるだろうけど‥‥意地悪だなあ。

 でも‥‥今の事で自信がついたような気もする。

 何の自信だかわからないけどね。

「あの‥‥先輩‥‥」

「‥‥‥‥」

「あの‥‥」

「驚いた‥‥紅奈ちゃんは‥‥強いんだな」

「え?」

「それに比べて、僕は腰を抜かしてただけで、情けないったら」

 笑って立ち上がった。

 私と先輩は顔を見つめてる。

 何回か、髪を揺らしたぐらいの時間が経ったぐらいの頃、天使が二人ぐらい歩いていったぐらいとでも言うべきか‥‥。

「先輩‥‥私と‥‥付き合ってください」

 何だか拍子抜けするほど、自然に、それでもって、あっさりと言えた。ほんとに、びっくりするほど力が抜けてる。

「‥‥その‥‥僕でよければ」

 言えた! そして‥‥先輩は受け入れてくれた!

 私は先輩を強く抱きしめたの。

 優しい温もりに包まれて、私は幸せだった。

 =やったよ、お姉ちゃん!=

「紅奈ちゃん、寒くなってきたし、そろそろ帰ろうか?」

「え、うん」

 私は先輩と手を繋いで歩き始める。

 一人で成し遂げた武勇伝‥‥からのー、告白大成功!

 家に戻ったら、お姉ちゃんとお祝いしよう。

 =もう、いつまで黙ってるの?=

 そんな事を考えたら、何処からか、お姉ちゃんの笑い声が聞こえた気がした。



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