「あれ?」
何て事を考えてる間に、いつの間にか先輩はゲーム台の椅子に座ってる。
「さあ、新たなチャレンジャーが現れました! 果たして彼は最強を打ち破れるのか!」
「やれー! やっちまえ!」
「俺たちに勝つ奴なんているわけないだろ!」
後ろで見ていたほとんどが、対戦相手の仲間みたい。応援と言うより、野次が飛んでくる。何か嫌な感じ。
ゲームは3人勝ち抜き。その嫌な感じの人は、私でも分かるぐらい、すぐに先輩のキャラクターをボコボコにしてしまった。
「は、やっぱりそうなるじゃん」
その人が笑うと、後ろの人達のほとんどが笑った。先輩も肩をすくめてる。
「じゃあ、次はUFOキャッチャーに‥‥」
=紅奈ねえ! デートした相手があんな事になって悔しくないの?=
=‥‥まあ‥‥でも、ゲームの話だし=
=そのゲームで、笑い者になってるのに‥‥呆れた=
=‥‥‥‥=
そう言われれば、そんな気もするけど、負けちゃったものは仕方がないじゃん。
=そうやってすぐ諦めるのが紅奈の悪い癖。こういう時はね、どうにか出来ないか、最後まで足掻くの!=
「‥‥‥もう負けちゃったし‥‥‥」
=まだ負けてない。仕方がない、ちょっと借りるね=
「‥‥‥‥」
その瞬間、私の目つきが鋭くなったのが分かる。もう完全に私は何も出来ない。
「次は私です」
そう言って先輩が座っていた椅子に座る。
「紅奈ちゃん?」
「‥‥‥‥」
まだキャラは二人残ってるので、続けられるって言えば、続けられるんだけど‥‥お姉ちゃん、出来るの?
=やってみなきゃ分からないでしょ? 最後まで足掻くの? いい?=
=‥‥うん=
「へえ、今度は彼女か‥‥」
「‥‥‥‥」
私は睨み返す(私じゃないの!)。
「おーおー、可愛い顔してやる気じゃん」
「‥‥‥‥」
マイクを持った人が開始の合図をした。
最初はなんだか苦戦してた。こっちの体力がどんどん減ってきてる。
でも、そのうちこっちの攻撃が当たるようになってきて、
=やっとコツが分かってきた‥‥見てなさいよ=
お姉ちゃんが調子づいてる。こうなったらもう誰にも止められない。
「な‥‥何だと!」
「‥‥‥‥」
何とか一人目をkO。これで二対二の同点。こっちの体力は少ないけど。
でも、今度はあっさりと倒しちゃって。
「この‥‥」
そして三人目‥‥最後の人、これで三人抜き。
チャンピオンと呼ばれる人で、さすがに強い、でも、お姉ちゃんの方が上手だった。
最後に、相手の体力のほとんどを持っていく技を当てて、華麗なる勝利。
その途端、今まで、チャンピオンさん達の事を応援してた人達は、手のひら返しで、私のおめでとうコールに変わったの。
「凄いね君、どんだけ練習したの?」
「何だよ、世界最強って言ってたわりに大した事ないな」
居心地が悪くなったのか、その人達はいなくなった。最後に私をすんごい形相で睨んでたけど‥‥私だけど、私じゃないのにね。
「‥‥‥ふう‥」
ため息が出る事で、体が戻った事が分かった。
「紅奈ちゃん‥‥こんなにゲーム上手だったんだ」
「そ、それは‥‥」
いかん‥‥どうやって誤魔化そう。
「‥‥えっと、たまたまで‥‥まぐれと言うか‥‥はは」
「そうなんだ」
それで納得してくれたなら、先輩も相当、天然だと思う。
まだ首を傾げてる間に、私は騒がしいこの場所から離れた。
もう! 結局、UFOキャッチャー出来なかったじゃない。
次に目指す先は最終目的地の街外れの岡にある展望台。そこから街が一望できる。
ロマンチックな場所。
何だかドキドキしてきた。
さっきまでの溶けたチョコレートの私とは違う。
一世一代の私の告白。絶対に成功させたい! 失敗は許されない!
=大丈夫。もっと自信をもって=
=そう言われても‥‥=
=言ったでしょ、紅奈はね、この完璧超人、柊翔子の妹なんだって=
=うん=
=‥‥もう時間がないの‥‥だからこれだけは言っておくけど‥‥=
「‥‥時間?」
何の事?
=紅奈、あなたはやれば出来る子! 足りないのはちょっとの自信だけ! それは忘れないで!=
「‥‥うん」
=‥‥じゃあ‥‥‥‥さよ‥‥なら‥‥=
「‥‥‥‥」
お姉ちゃんはそうやって傍観するつもりらしいけど‥‥
=でも、私がどうかしてしまったら、お姉ちゃん、また変わってね=
一応、言っておく。
そんな保険もあるから、失敗はしようがないんだけど。
凄い時間がかかったようで実は数分で到着した。
林の小道の奥、そこからベンチが何個かあって、絶好の展望スポットになってる。都合の良い事に他に誰もいないみたい。
今だ、今しかない!
「あの‥‥先輩」
木製の柵に手をかけてた先輩に、私は声をかけたの。
「どうしたの?」
「あの‥‥せ‥‥先輩の事が‥‥その‥‥す」
「‥‥す?」
「すすすす‥‥」
「‥‥‥‥?」
す‥‥その先の言葉がどうしても出てこない。
「?」
=お、お姉ちゃん、変わって!=
=‥‥‥‥=
=お姉ちゃん?=
返事がない。どうして? 今が一番大事な時なのに!
“いたいた、あのクソ生意気なガキだ”
「!」
気が付かなかったけど、周りは五、六人の男の人達に囲まれてた。
腰パンに、変なチェーンをジャラジャラ‥‥絵に描いたような輩の人達‥‥何処かで見覚えが‥‥。
「‥‥ったく‥‥あんな恥をかかせやがって」
あ、そうだ! さっき、ゲーセンで私(お姉ちゃん)に負けた人達だ。
「‥‥行こう、紅奈ちゃん」
先輩は私の手を掴んで離れようとしたんだけど。
「おい、待てよ!」
輩の一人に行く手を通せんぼされた。そしてまた典型的な輩笑い。
「シカトしてんじゃねえよ!」
「ぐ!」
先輩は突き飛ばされて倒れた。
「これは礼をしないとな!」
輩が近づいてくる。
=お姉ちゃん! 変わって!=
返事がない。こんな時に!
輩が近づいてくる! 何とかしないと。
え? 私が?
どうやって? 無理無理無理!
‥‥って、言ってても仕方がないのは分かってる。
逃げる‥‥ううん、それは無理、周りを囲まれてるし、先輩もいる。
だとしたら‥‥この場で何とかするしかない。
どうやって?
「‥‥‥‥」
手本は‥‥さっき見たじゃない。
お姉ちゃんがやった通りにすれば‥‥。
出来るかな‥‥じゃない。
私は出来る!
私は、完璧超人、柊翔子の妹なんだから! それが自信の根拠!
「‥‥‥‥」
私の目が吊り上げる。
私の意志で。
それと輩の手が伸びてくるのはほぼ同時だった。
「はっ!」
「?‥‥うわあ!」
私は輩の腕を掴んでひっくり返す。輩Aは、一回転して地面に転がった。
「‥‥なんだ?」
怪訝な表情の輩BとCが同時に近づいてくる。
「ふん!」
一人は掌底打ちでアゴを突き上げ。もう一人は膝でみぞおちを打った。
「ぎゃ!」
「ぐ!」
輩二人は同時に崩れ落ちた。
「‥‥‥‥」
私は片足で立ったポーズからゆっくりと足を下ろしていく。
それから残っている輩D~Fの三人に手の甲を向けて、それから、クイクイっとこっちに来るように曲げた。
それは完全な挑発。かかって来いやって意味なんじゃないの?
さっき画面で同じポーズを見た。
「ふざけんじゃねえぞ!」
「てめえ!」
「おらあ!」
案の定、頭に血が昇った彼らは、同時に殴り掛かってきた。
「‥‥‥‥」
一人目の拳が目の前に迫ったけど、私はスケート選手みたいに後ろに大きく体をのけ反らせ、拳が空振りした後、足の先で男のアゴを蹴り上げた。そこでその輩Dは転がり、戦線離脱。
「なに⁉」
別の輩‥‥多分、元チャンピオン(ゲーム)が後ろから殴ろうとしていたけど、私は倒れてる輩の背中を踏みつけて大きく空へと舞い上がった。
「ぐはっ!」
空から真っ直ぐに輩Eの頭を両足で踏みつける。輩は地面に顔を打ちつけ、そのまま動かなくなった。
「な‥‥なん何だ‥‥おご!」
思考停止中の最後に残った輩Fを回し蹴りで吹き飛ばした。
「‥‥‥‥」
私が目を閉じたので、視界が真っ暗になる。
「‥‥‥‥」
再び目を開けるとあちこちに倒れた輩がそのまま残ってて、少し離れた所で、先輩が口を開けてこっちを見てる。
やった‥‥のか?じゃなくて、やってしまった‥‥のか?
輩を相手に大立ち回り。
これはもう‥‥言い訳のしようがない。
どうしようか‥‥どう声をかければ‥‥。
「‥‥‥‥」
=‥‥お姉ちゃん=
やっぱり何も答えてくれない。
こんな時に!
そうやって、私が一人でやれるかどうかを試してるだろうけど‥‥意地悪だなあ。
でも‥‥今の事で自信がついたような気もする。
何の自信だかわからないけどね。
「あの‥‥先輩‥‥」
「‥‥‥‥」
「あの‥‥」
「驚いた‥‥紅奈ちゃんは‥‥強いんだな」
「え?」
「それに比べて、僕は腰を抜かしてただけで、情けないったら」
笑って立ち上がった。
私と先輩は顔を見つめてる。
何回か、髪を揺らしたぐらいの時間が経ったぐらいの頃、天使が二人ぐらい歩いていったぐらいとでも言うべきか‥‥。
「先輩‥‥私と‥‥付き合ってください」
何だか拍子抜けするほど、自然に、それでもって、あっさりと言えた。ほんとに、びっくりするほど力が抜けてる。
「‥‥その‥‥僕でよければ」
言えた! そして‥‥先輩は受け入れてくれた!
私は先輩を強く抱きしめたの。
優しい温もりに包まれて、私は幸せだった。
=やったよ、お姉ちゃん!=
「紅奈ちゃん、寒くなってきたし、そろそろ帰ろうか?」
「え、うん」
私は先輩と手を繋いで歩き始める。
一人で成し遂げた武勇伝‥‥からのー、告白大成功!
家に戻ったら、お姉ちゃんとお祝いしよう。
=もう、いつまで黙ってるの?=
そんな事を考えたら、何処からか、お姉ちゃんの笑い声が聞こえた気がした。