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私の中のお姉ちゃんが完璧超人すぎる件
私の中のお姉ちゃんが完璧超人すぎる件
chelsea
現実世界青春学園
2025年02月11日
公開日
1.5万字
完結済
 子供の時に死んでしまった姉の声が聞こえる天然女子高生、紅奈(クレナ)は、学校生活で起こる様々なアクシデントを、その声のアドバイスに従って乗り越えていく。好きな人が出来た紅奈は姉の声に恋愛相談をしていくが、なかなか嚙み合わない。

第1話

私には歳の離れた姉がいた。ううん、いた。つまり過去形。

 姉妹だったのは私が小学生だった時までで、高校生だった翔子姉ちゃんは亡くなってしまった。どうして死んでしまったのかははっきりとは覚えてない。子供だった(今でもだけどね)私は、ただお姉ちゃんの死っていうのが受け入れられなくて、ずっとひたすら泣いてたから。

 多分、理由なんてどうでもよくて、ただ、またいつもの様に、側にいてほしいって‥‥それだけだったんだと思う。だから聞きそびれてしまった‥‥って感じ。今さら詳細を聞くなんて出来るはずもなしで。

 同じ高校に通い始めて歳が追い付いちゃったから、そんな事をつい思い返してしまう。

 私はお姉ちゃん子だったから‥‥‥今もなんだけど。

 お父さんもお母さんも仕事が忙しかったから、私の側にいたのはお姉ちゃんだった。

 お姉ちゃんは、勉強が出来て、運動が出来て(何とかっていう武術の大会で優勝したらしい)、友達もたくさんいて明るくて。凄いなと思う。お父さんとお母さんは、今の私は、びっくりするほど当時のお姉ちゃんに似てるって言ってる‥‥。そう言われるのは、外見だけでも凄い嬉しい。髪型とか寄せてるんだけどね。

 実際の私はお姉ちゃんとは全く逆。勉強がいまいちで、運動は全くできない。友達は‥‥一人だけ、近所で一緒に遊んでいた同い年の紗久耶ちゃん。紗久耶ちゃんは私と違ってしっかりしてて、お姉ちゃんがいなくなって、毎日泣いてた私を、ずっと励ましてくれてた‥‥らしい(ごめんなさい。よく覚えてない)。

 今の私がこうして、学校に向かう途中の桜並木をお姉ちゃんと同じ制服を着て歩いていけるのは、紗久耶ちゃんのおかげ。ほんと、私って誰かに助けてもらってばかり。うん、毎日感謝してるんだよ。

 そんな紗久耶ちゃんも、お父さんの仕事の都合で遠くに引っ越してしまったのは、つい一月前の事。

「‥‥‥‥」

 だから登校中の今は一人。ちょっとだけ写真のお姉ちゃんより長くなった髪が、桜の枝と一緒に春の心地良い風に揺れてる。多分、お姉ちゃんも初登校はこんな感じだったのかなって想像してみる。

 でも、お姉ちゃんの事だから、友達と一緒に登校したと思うから、私とは違うか。

 =そうかな? 私もさすがに初登校は一人だったけど?=

「‥‥‥‥」

 私の頭の中に声が響く。それは翔子お姉ちゃんの声。覚えてないけど、それはお姉ちゃんの声だ。

 =ここまでは紅奈と一緒。紅奈は紗久耶ちゃんが今まで一緒だったからまだ良かったでしょ? 私は一人スタートだったし=

「‥‥‥‥」

 頭の中にこうしてお姉ちゃんの声が聞こえるようになったのは、高校受験が迫ってきた中学三年の夏休み前頃。

『絶対、お姉ちゃんと同じ高校に行くから!』

 って言って、お父さん達と先生と私が頭を悩ませてた時期。自慢じゃないけど、そこまで‥‥って言うか、平均ちょっと下ぐらいの成績で、高望みが出来る状況じゃなかったんだけど。

 だから私が通う事になった高校はこの辺ではレベルが高い。

 =ほら、ここの桜並木は綺麗でしょ? あと十字路曲がった先に、ラテがおいしいカフェがあるの。紅奈も帰りに時間があったら寄ってみて=

「‥‥‥‥うん」

 紅奈‥‥クレナって言うのが私の名前。なぜか私を、頭の中でお姉ちゃんが話しかけてくる。

 受験勉強‥‥その字面だけ見ても嫌になるけど、その時は私も当然頑張った‥‥と思う。

 自分の部屋で一人で勉強してたんだけど、一人じゃなかった。

 =ほら、そこのXに、右下の式を参照して‥‥=

 =そこの英文の構文、間違ってるから‥‥そういう場合は‥‥=

『んんー‥‥‥‥』

 =もう、紅奈、真剣にやって=

『えーっと‥‥えへへへ‥‥』

 困る事があると、こうやって笑ってしまうのは悪い癖だとは分かってる。

 お姉ちゃんの声が、どんどん教えてくれるから助かったんだけど、最後の方は、もう頭の中が、ボールペンでグチャグチャに線を引かれて真っ黒になったみたいになってた。

 それが大体、半年‥‥奇跡的と言うか‥‥。その短い六か月という期間で、私の学力は飛躍的‥‥って言うのは大袈裟かなー。よくテレビの経済番組で、下げとまりの傾向から、緩やかに上昇しつつある、みたいな表現をしてるけど、だいたいそんな感じ。

 それでね。受験日当日はもう自信満々で会場に行ったの。

 模擬試験では大体合格圏内だったし、もし何かあればお姉ちゃんの声が教えてくれるから絶対大丈夫だって。

 向かってみれば私一人で意外に簡単に解けたので、ここはもう鼻高々。校門から出てきたとき、真っ先に誰にこの感動を伝えたいかと言うと、もちろんそれは、紗久耶ちゃん、それから頭の中のお姉ちゃんの声。あとお父さんとお母さん(後まわしでゴメン)。お姉ちゃんは見てたはずだから、言わなくても分かってるとは思うけど、とりあえず、ありがとうってだけは言ってみた。

 合格の通知が家に来た時、私は一人で部屋の中で大喜びしてた。

 =子供じゃないんだから=

『嬉しいから仕方ないの!』

 そんな経緯で私はお姉ちゃんと同じ、進学高に通う事になったってわけ。

 春休みが長かったから、私は図書館とかに行って、この声の正体が何なのかいろいろと調べたんだけど(私はインターネットとか苦手。紗久耶ちゃんは得意だったけど、聞くと引かれそう)。

 アナログを駆使して調べた結果、どうも私に聞こえるこの声は、イマジナリーフレンドとかいう現象が近いのかな。心の喪失感を埋める為に、脳がつくりだした虚像だとか、不具合だとか云々。虚像?‥‥私はそうは思えない。だってこんなにはっきりと話してくれるし、私の知らない事でも言ってくれる。

 結局、本当の所は分からないまま、私は入学に至ったってわけなの。

 うん‥‥もう別に理由なんてどうでもいいかな。

 =もうちょっと速く歩かないと遅刻するよ=

「え? あ、ほんとだ」

 こうやってお姉ちゃんを側に感じられるんだから。

 ただ、話してる所は他の人には見られないようにしないとね。

 初日は短いホームルームとクラス分けの説明だけで、先生とクラスメイトとの顔合わせが目的だったのかも。周りの人達はあっちこっちでお喋りしてるグループがあるけど、私は知り合いがいないので、一人ぽつんと座ってる。

 一人でいる時は何とも思わないけど、大勢の人の中にいる時は、すっごい孤独を感じる。嫌とかそういうわけじゃないんだけど。

 =お姉ちゃんは、こんな時、どうしてたの?=

 私から聞いてみる。これは心の中の私の呟き。

 =そうね。クラスに知り合いはいなかったけど、別クラスにはいたから、そっちに顔出してた。紅奈はいないの?=

「うーん‥‥」

 思いつかない。いつもおまけの様にお姉ちゃんとか、紗久耶ちゃんの後ろについていってて、話してる相手とたまに相槌をうったり、笑ったりするぐらいで、その人がどこの誰かはさっぱり覚えてない。

 =中一の時、同じクラスだったコがいるよ=

 =え? どこ?=

 =ほら、紅奈の右後ろ=

「‥‥‥‥」

 びっくりして後ろに急にグリ!って振り向いたものだから、真後ろにいた男子がビクっとして驚いてた。

「あ‥‥すみません」

 ヘヘ‥‥と笑ってごまかして改めて後ろを振り返る。

 ショートカットの小柄な女性徒。見覚えがあるようなないような。

 誰だっけ?

 =竹中詠葉ちゃん。陸上部だったコよ。紅奈も何度か話した事があるじゃないの=

 =よく覚えてるね=

 さすがはお姉ちゃん。でも私の中では、彼女はお初な人なんだけど。

 =さ、立って。エイハちゃんに挨拶に行くの=

 =え?=

 いや、それはちょっと‥‥初体面の人と何を話せば。

 =いいからいいから=

「‥‥‥‥」

 こうなるとお姉ちゃんは何も聞いてくれなくなるのを知ってるから、私は渋々と竹中さんの席に近づく。

「あ‥‥あの‥‥私‥‥昔々‥‥」

「?」

 しまった。緊張のあまり、昔話の語り口みたいになってしまった。エイハちゃんは首を傾げてる。私の事も憶えていないみたい。

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 しばらく無言の間があって。

「じゃ、じゃあ、そういう事で‥‥」

 笑っていつものように逃げ出そうとしたけど。

 =しょがないなあ=

 =!=

 突然体が動かなくなったの。目とか耳とか‥‥五感はあるんだけど、それだって、どこを見るとか、体の自由が全くきかない。

「こんにちは、竹中さん」

 =え?=

 私が急に勝手に話しだしてる。うん、私は何も言ってないよ。言ってるけど。

「私、中一の時、同じクラスだった、柊紅奈」

「え? ああそうか、思いだした。そう言えばいたような気が‥‥」

 エイハちゃんも記憶を手繰っているみたいだけど、私は目立たなかったからなあ。

「また一緒のクラスになったみたい。これからよろしくね」

 ニコって笑って私は手を出してる。もちろん、それは私の意志じゃないんだけど。

「私こそ!」

 エイハちゃんも笑って握り返してくれたとき、その体温があったかくて、こうして握手できて良かったって、ほんとに思ったの。

 手を振って別れて私は自動で席に戻った。そして何の前触れもなく、体のコントロールが戻ったんで、対応なんて出来ずにガクっと頭を机にぶつけそうになった。

「痛あ‥‥」

 いや、ぶつけてた。

 =ほら、こうやって友達を作っていくの。分かった?=

 =うーん‥‥=

 どうやら体がお姉ちゃんに乗っ取られてたらしい。

 おでこをさすりながら(絶対、赤くなってる)思う事は、さすがって事だけ。

 まだ友達じゃないけど、知り合いは一人出来た。それもあっと言う間に。

 =これから休み時間になったら、こっちから遊びに行くの。いい?=

 =うん=

 お姉ちゃんの言う通り、それから私はエイハちゃんの席に行って、お話を始めた。話が途切れると、その度にお姉ちゃんが変わってくれたから、そこはスムーズだった。

「クレナってさー」

「うん」

 知り合って一週間で既に呼び捨て、最近の女子高生のコミュ力は恐るべし(あ、いや私も同じ女子高生なんだけど、汗)。私の方はと言えば、やっと(エイハちゃん)って、下の名前で呼べる程度。まだまだだねー。

「クレナってたまに、表情ががらっと変わるよね」

「そうかな?」

「何て言うかさ。急に目力が強くなるって言うか、実際、釣り目になってるし」

「そ、ソンナコトナイヨー」

 いけない。キョどってしまった。

 そうか、自分では分からなかったけど、お姉ちゃんに体を貸してるときはそうなるのか。

「今は、真夏に車内で放置したチョコレートって感じだけど」

「え?‥‥それは‥‥」

 もしかして、でろーん‥‥って感じなんでしょうか?

 猫ではないから、そこまで液体ではないと思うんだけど。

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