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第六話 絶望の果てで交わる運命

 外門を破壊して町の中への奇襲に成功したザンテ達のゴーレム部隊は、向かってくる兵士を凪払い、我がもの顔で大通りを歩いていく。先に移動する箱の様なものが見え始めた。「ん、ようやくブルジャフ軍のお出ましか‥‥リカール! 歩兵を下がらせゴーレムを 前面に押し出せ。敵の前面は自動走行歩兵のシェルスティンガーとやらの様だ」

 ザンテはゴーレム”ブラウケ”の顔に当たる細い隙間から外を眺め、ゴーレム内部から外部へと通じる伝線管を通じて命令を下す。”分かりました隊長!”

 隣りのゴーレムが、片腕をあげる。隙間からシューと蒸気が洩れた。

”でも敵もかなりの数ですね‥‥大丈夫でしょうか?”

「メルロース閣下は大丈夫って請け負ったがな‥‥‥‥よし、頃合いだ、放てっ!」

 ザンテは目を細める。街頭には逃げる途中の市民の姿が見られたが、構わず脇のコックを緩めた。胴体部分の板が開いて、ピュー!と口笛の様な甲高い音が鳴り響き、何かが箱目掛けて飛んで行った。他のゴーレムもザンテに倣い、同時に発射する。発射されたその細長い物体の幾つかは狙いを外れてあらぬ方向に逸れたものの、大半はブルジャフ国の自動走行歩兵に命中した。

 ブルジャフの誇る兵器の一部は、爆音と共に吹き飛ぶ。中でバリスタをつがえていた兵士達は何が起こったのか分からなかった。

「‥‥何だまた爆発が!」

 正面で突然起こった爆発にジョニーは咄嗟に屈んだ。見えない壁が爆風を遮る。

「ジョニー!」

「大丈夫だ‥‥それより‥‥」

 立ち上がって辺りを見渡せば、呻き声をあげて這いつくばっている者が数名と、炎上するブルジャフの鉄の箱が見えた。

 立ち登る炎の揺らめきの先に、身の丈が五メートルを越す巨大なゴーレムの陰が写る。

「巨人‥‥そんな‥‥グリーンティアルの言い伝えの中にも、国を滅ぼす巨人が出 てくる‥‥あれってもしかして‥‥」

「違う」

 ジョニーはアプリケーションの(探査)を使って炎の向こうにあるものの正体を探る。パネルの中に写る人型の中には明らかに人とおぼしき反応が見られた。

「中に人間がいて人型を操ってる」

「それじゃ、あれもドラゴンなの?」

「‥‥どうだろう‥‥ドリィ」

《はいマスター》

 クルクルとつま先立ってドリィはパネルに現れる。

《紫水晶の波動は探知されません。エネルギー源は石化した植物が液状になった物に点 火し、その熱で水を沸騰させて生じる蒸気の圧力です。ドラゴンではありません》

「‥‥するとあれはジャロワク国の騎士団というワケか‥‥」

「ジョニー、来る!」

「!」

 リオの声でジョニーはパネルから顔をあげる。すでにリオはブレスを撃っていた。

 銃口から発射された細長い光は、針を紙に刺すかの様に抵抗らしい抵抗もなく、巨人の体を突き抜けた。

”な、ぎゃうあ!”

 駆動管が破裂したその巨人は、仰向けに倒れた。

「何だぁ?今の攻撃は?」

 ザンテは正面で起こった現象を怪訝な顔で見つめる。

”ブルジャフの秘密兵器でしょうか?”

 ゴーレムの顔が、ザンテのゴーレムに顔を向ける。

「‥‥さてね‥‥それにしては敵さん達の姿が見えないが‥‥リカール、しまっていけ よ!」

”分かりました”

 ズンズン‥‥と鈍重な動きでリカールのゴーレムが先行する。また先頭方面で爆発が起こった。

「‥‥光の矢?‥‥‥ブラウケの使う火薬と は違うな‥‥何なんだ?」

 ザンテは自らの歩みも早めた。





「どうしてこんなにいるのっ!」

 リオは向かってくる人型の群に次々と引き金を引く。両手を前に突き出した巨人は、穴だらけになりながらも、なかなか動きを止めず、前進をやめない。巨人の腹部からは火薬式の爆弾が間断なく投げられ、トライクエスターはその度に攻撃を中断せざるをえなかった。

「カバーしきれない」

 市街地図をパネルに映してジョニーは舌打ちする。ドラゴンは大通りの中央で陣取ってはいたが、脇道などから巨人や兵士が次々と市内に流れ込んでいた。

《マスター、バスターブレス臨界点です》

「よし、リオ!」

 リオは頷き、ジャロワク軍の中央に照準を定める。リオの持つ銃の動きに呼応して、ドラゴンの大筒も向きを変える。

《いつでもいけます》

「当たって!」

 リオは引き金を引いた。

”GOOOOOO!”

 竿の先から彗星の尾に似た光が撃ち出され、三列になって向かって来ていた巨人はその光の奔流に飲み込まれた。

「なっ?‥‥何!」

 ザンテはゴーレムブラウケの椅子から伸び上がった。

 得体の知れない眩しい爆発が、先行していた百程のゴーレムを包み込み、光が去った後には残骸だけが無惨に残っている。

「ぐ、リカールどうした、何が起こった!」

 伝線管の蓋を開けて外に怒鳴るが、返事はない。

「ちっくしょう‥‥本隊の半分がやられちまうとは‥‥んなのありかよ!」

 ザンテはブラウケの頭を開けて、立ち上がった。溶け残り、まだ赤く熱を帯びているゴーレムの鉄板がキラリとした光を投げかける。街道沿いの家もほぼ全壊しており、あちこちから煙があがっている。

「今のは武器なのか‥‥そんな‥‥」

 難を免れた他のゴーレムも、半球状の頭を開けて、中から兵士が顔を出していた。

「ありゃー?‥‥‥あれか!」

 細長い何とも形状しがたい物体の上にまたがっている二人の若い男女の姿を確認したザンテは、すぐに蓋を閉じてブラウケを始動させる。

「何者だ、貴様ら!」

 隊長機にしかない、ゴーレム用の一メートル程の斧を抜き、その鉄の腕を掲げる。

「ジョニー!」

「分かってる! どうしたドリィ!」

《パワーのオーバーフローにより、クルーズモードのアプリケーションの多くが強制的 にシャットダウンしました。指定された防御フィールドは実行出来ません》

 ドリィはペコリと頭をさげる。そうしてる間に鉄の人型が近づいている。

「このまま走って逃げる事は出来ないって事か。やるしかないな‥‥リオ、悪いが‥‥」

「分かった‥‥頑張ってねジョニー」

「ああ、任せておけ」

 微かな笑顔にリオは息を飲む。そんな心配げな顔で見つめるリオを見てるうちに、ジョニーは心の中に何か温かいものが広がっていくのを感じて戸惑う。以前とは何かが確実に違っていた。

「こんな時にどうかしてる」

 思いを振り切る様に出力をあげてトライクエスターを走らせる。敵巨人が目の前に迫った。

「バトルモード実行!‥‥ブレード、実行!」

 パネルの模様の一つを押して走行中にドラゴンを人型に変える。つんのめったかの様にも見えたが、クルリと一回転して重心を落とし、今度は二本の足でダッダッ‥‥と、走り始める。モードの変更が終了してすぐに、先行入力されていた紫色の光の剣がドラゴンの腕の甲から伸びる。

「行かせない!」

 ジョニーがハンドルを引くとトライクエスターも剣を引いた。そのまま二回り以上大きなゴーレムに向かって走り続ける。

「何だ?」

 中でゴーレムを操っていた兵士が気づいた時には、すでにドラゴンは眼下で剣を構えていた。

「い、いつの間に‥‥‥さっきのは何処へ消えた?」

 兵士はレバーを傾けて腕をドラゴンに向けて伸ばした。

「そんなものがっ!」

 ジョニーは左ハンドルを一気に前に倒す。ゴーレムの腕が剣に触れた途端、手応えなく二つに割れた。使われていたネジがパラパラと地面の鉄板の上に降り注いで音を立てた。

「まだまだっ!」

 更に右のハンドルを突き出してゴーレムの胴体に剣を深々と突き立てた。

「‥‥ひ、た、助け!‥‥」

 兵士はゴーレムの頭を開けて中から飛び出して逃げて行った。直後ゴーレムは爆発し、破片が辺りに飛び散る。

《防御フィールドは正常に動作しています。歩行オートプレイを続けます》

「‥‥ん、近くに敵が!」

 屈んでいたトライクエスターは炎の中でゆっくりと立ち上がる。正面には巨大な斧を構えたゴーレムがいた。

「閣下はブルジャフにあんな人型があるなどとは一言も言ってなかったが‥‥しかし本当にあれはゴーレムなのかよ?」

 ザンテはレバーを引いて斧を持つブラウケの腕を上げた。

「何者かは知らないが、死んでもらうぜ! これ以上戦争するのはまっぴらだからな!」 シューと側面から湯気を放ち、ドラゴンの立つ方向へとゆっくり歩き出す。

 パネルの中にその姿が映し出され、ジョニーは両手をハンドルにかけたまま眉を潜めた。「‥‥あのゴーレムは武器を持っているな‥ 形も他とは少し違っている‥‥ドリィ、前 方の人型を探査してくれ」

 白い肩掛けエプロンを付けた妖精が、お辞儀をしてパネルに姿を表す。

《スキャンしました‥‥終了、相違点としてエネルギー係数が二十%高い程度で、基本的 には他の人型と構造は変わりません。武器を所持している事を併せて推測するなら、指揮官であるかと思われます》

「ならあいつを倒せばそれで事足りる‥‥バスターブレス!」

《チャージ開始します》

 背中から細長い銀の筒を引き抜き、グルンと振り回す様な大袈裟な仕草で小脇に抱える。ドラゴンの両足の踵が後ろに伸び、金属の爪が大地に楔を打ち込む。

《バスターブレス臨界点です》

「‥‥実行!」

 狙いを定めた途端、カシン!と先端が伸びた。

 ザンテは唇を噛む。

「あれは‥‥光を撃つ兵器か!」

 コックを絞めてブラウケの前進を止めた。

「こっちを狙っているのか!」

 ゴーレムは視野から外れようと脇へと歩き出したが、

”GAAAAAAAA!”

「‥‥何だとっ!」

 目映い輝きはその歩みより遥かに素早くゴーレムを捕らえた。

「な‥‥馬鹿な‥‥なんで俺がこんな所で‥‥‥‥俺はまだ三十五なんだぜ!」

 ザンテはきつく目を閉じて両手で顔を覆う。ゴーレムは光の中に溶け込み、手足が千切れ飛んで消え去った。

「‥‥やったか?」

 ブレスの筒の先から小さな光の粒が余韻として飛び出している。ドラゴンはジョニーが命令を下す前に勝手に背中へと筒を戻した。

「ドリィ、今のでドラゴンへの影響は?」

《自己診断プログラム開始します》

 パネルに直立不動のトライクエスターの姿が映る。

《‥‥終了‥‥内部紫水晶の力が一時的に減少、復旧まで五時間十一分‥‥バスターブ レスは現在使用不可‥‥ブレード出力三十二%‥‥反応指数‥‥五%減少》

 パネルに表示されたドラゴン内部の機関が、ドリィの声に反応して赤く光る。

《通常ブレス復旧しました》

 ブレスバレットの部位が赤から青へと変わった。

「クルーズモード実行」

 ドラゴンが人型の形態を解く。ジョニーの周囲を覆っていたものがなくなり外気に晒される。視点が低く変わった。

「‥‥ジョニー!」

 遠くからリオが青ざめた顔で近づいてきた。

「町のあちこちで煙があがってる‥‥ゴーレムや兵士が町の人を‥‥」

「まさか‥‥早すぎる」

 探査をしてみればリオの言う通りであった。本城が占領されるのは既に時間の問題である。

「‥‥‥くっ!」

 不意にジョニーはブレスバレットを抜いて、引き金を引く。直線的な赤い棒は建物の陰に隠れていた兵士を倒れた柱ごと貫く。

「まだ襲って来る‥‥今倒したゴーレムは隊長じゃなかったのか‥‥これじゃ‥」

「どうするの?」

「!」

 続けざまにブレスを五、六発放つ。穴だらけになったゴーレムは歩みを止めた。後ろから迫る新手の部隊の姿が見えた。

「すでにジャロワクの兵士達は町の中に進入してしまってる‥‥これ以上ここでとどま る事に意味はない」

「‥‥そうね‥‥残念だけど‥‥」

 リオは静かにジョニーの後ろに座った。

「リオ乗れ!」

 トライクエスターは唸りをあげた。

「ジョニー?」

「何人いようが助ける」

「そう言うと思った‥‥」

 言われるままにリオはドラゴンにまたがり、ジョニーの腰に手を回した。

「行くぞ!」

 トライクエスターはキーンという甲高い音を立てて市内に向かった。





 ジャロワク城内に設けられた大聖堂の中央を正装したメルロースが厳かに歩き続ける。高い天井の窓からは目映い光が差し込み、薄暗い中で皇衣の白さを際だたせている。

「‥‥ふふ‥‥‥」

 メルロースは聖堂内の左右の席に座る無数の国の重鎮達を見遣り、声に出さずに笑った。メルロースの父は軍の下士官であった。彼は異常とも思える出世への欲望を持ってはいたが、上に上り詰める為には才能だけではどうにもならない事を悟り、息子を貧乏な貴族の娘と結婚させる事で自らの夢を果たしたのである。それまでの父の教育は苛烈を極め、そのせいでメルロースは片目を失った。いわばこの日の為にメルロースは存在していたともいえる。

「‥‥父をこの手で殺したあの日から三十余年か‥‥我ながら年老いたものだ」

 司教の一人が近づき、メルロースは嗤うのをやめて立ち止まった。

「メルロース様‥‥帯冠の儀、まことにおめでとうございます」

「うむ」

「メルロース様、議会は全面的に閣下を支持致します」

「ふん‥‥期待しておる」

 近づく人々を後目にメルロースは祭壇にの前に立った。それから背後の巨大な金の十字架を背にした。

「‥‥全てはこれから‥‥ブルジャフを滅した後‥‥‥」

 祭壇の上の王錫を掴み、天井に向けて高らかに掲げる。

「メルロース、フォン、ナルニスの命において、ジャロワク王家の滅亡を宣言する。かわってここにナルニス王家の樹立を宣言するものである!」

”おおっー!”

 賛同を意味する拍手が大聖堂内にわき起こる。居並ぶ人々は立ち上がり、新たな王の誕生を祝った。

「‥‥日和見連中め‥‥」

 今日の味方は明日には敵‥‥メルロースはその事を良く知っていた。

「人は力に靡く‥‥‥」

 万歳の波の中、メルロースは無意識に眼帯に手を当てた。

「余の元に力を集結せよ! 今の勢いを持ってブルジャフを‥‥んむ?」

 堂内がざわめき始め、メルロースは演説を中断した。見れば窓際の一部の者達が外を見上げて何かを喚いている。

「‥‥何だ騒がしい‥‥」

”閣下、空に!”

「?」

 晴れの儀式を中断されたメルロースは、眉間にシワを寄せてゆっくり歩いて、近くの窓から顔を出した。

「‥‥?」

 段々状の狭い土地に王都の鉄の町が広がっており、それは普段と何も変わらない都市の景観である。二百年に渡るブルジャフ国との戦争は両国の人口を極端に減少させ、連邦王国と呼ばれ、かつては多くの都市を従えていたジャロワク国も今はこの町一つを残すのみであるが。

”GAAAAAOOOON!”

「‥‥な‥‥なんだ‥‥あの声は‥‥」

 一点の陰りが一瞬にして空全体に広がり、黒雲の渦の中心から揺らめく様に何か現れた。三角形をした城よりも巨大なその物体は、雲の黒さよりも更に黒く、闇そのものであるかの様である。広げた三角の翼の輪郭が水色に輝き、再び咆哮を放った。

「‥‥がっ!」

 大地が激しく揺れ、メルロースは側にあったカーテンの裾にしがみつく。祭壇の十字架が倒れ、装飾が粉々に砕け散った。

「あれはドラゴン‥‥グラムファーベル!‥‥‥グラムファーベルは何処におるか?」

「メルロース様、ここは危険です! 早く脱出を!」

 副官が叫ぶ。その声で堂内は出口を求めて殺到する人々で騒然となった。

「‥‥く‥‥‥この場は致し方ない‥‥ゴーレムを‥‥」

「閣下、あれを!」

「ん!」

 副官が空を指さす。まだ中に残っていた人々は反射的にそちらの方を向いた。

 空から黒い球体が落ちてきていた。

「‥‥あれは‥‥」

 その球は空の一部をくり抜いたかの様に、黒かった。

 ゆっくりと落下し続ける球体が、地面に吸い込まれたその瞬間‥‥。

「!」

 目を閉じて再び開けるまでの僅かな時間で球体は町全体を包み込む程に膨らみ、直後に発生した爆発は都市を完膚無きまでに粉々に砕き、吹き飛ばした。

 ジャロワクを廃し、新王国成立を宣言してから僅か五分後‥‥メルロースの国は滅亡した。




 強襲したジャロワク軍は初戦においてはゴーレム部隊が、ブルジャフの機械化騎士団を壊滅させ、王城を陥落させるなど、圧倒的な優勢を誇ってはいた。だが隊長のザンテを失った事による指揮系統の乱れと、トライクエスターの参戦により、序々に押され始め、日暮れ近くになる頃には市民兵に対してほとんどのジャロワク兵が降伏していた。

「‥‥どうだ?」

 ジョニーはドラゴンを止めて、流れる汗をぬぐった。

《周囲に稼働中のゴーレムの反応はありませ ん》

「やった! 俺達は、町の人々を守れたんだ!」

 ジョニーはパチンと指を鳴らして後ろのリオに笑いかけた。

「‥‥どうしたリオ?‥‥あまり嬉しそうじゃないな?」

 心なしリオの顔が青ざめて見えた。

「町を守れた事は嬉しいけど‥‥けれど、その為に何人が犠牲になったんだろうと思っ たら‥‥素直に喜べなくて。私達も一つ間違ったら同じ様にやられてたのよ」

「そうはならない。このドラゴン、トライクエスターは力がある‥‥負けはしない」

 ジョニーは笑って硬いパネルを指で撫でた。

「‥‥それは‥‥そうなんだけど‥‥」

「どうしたんだリオ? 何をそんなに心配してるんだ?‥‥奴を倒すには力が必要なん だ。その力がある事が証明されたのは喜ぶべき事だろう?」

「そうなんだけど‥‥分かんない‥‥何だか分からないけど不安なの」

 リオはピタとジョニーの背中に顔をくっつけたままモゴモゴと話す。

「不安‥‥か‥‥」

 瓦礫と化した町並みが夕闇に染まっていた。頭の後ろに手を組ませられ、後ろから剣を突きつけられて無理矢理歩かされているのは、敵であったジャロワクの兵士達である。破壊されたゴーレムをほじくり返して何かをやっている者、荷台を引きながら鉄屑を運んでいる者‥‥一度に多くの人々の姿が目に飛び込んでくる。

 ジョニーは丘の上に視点を移した。王城から吹き上げる煙は、半日を経過した今になっても収まる気配が見られない。王を始めとして城にいた主立った者はすでにない。事実上ブルジャフは滅んだのだ。

「指導者を失ったこの町はこれから混乱するだろうな‥‥今度ジャロワク軍が攻めてきたら防ぎきれるだろうか」

 リオに顔を向ける。

「約束は果たした。リオ、ここが君の住む町だ」

「それは‥‥そうなんだけど‥‥ね、ジョニー‥‥‥だったらさ‥‥ここで‥‥」

 背中から顔を起こしたリオは、何かを言い淀む。

「何だ?」

「ここで‥‥私と‥‥く、暮らさない?」

「何だって⁈」

 聞き返すと、リオの顔が真っ赤になった。

「だから‥‥仇討ちなんてやめて‥‥ここで‥‥」

「これは俺一人の問題じゃない。グリーンティアルにいた人々全員の仇討ちなんだ‥‥ リオだって両親の仇を取りたいと言っていたじゃないか。あれは本気の言葉じゃなかったのか?‥‥俺は絶対に奴を倒すのを諦めない。その為には何だってするさ」

「あの黒いドラゴンが、このドラゴンより力があったらどうするの?‥‥もっと強い力を手に入れるの?‥‥私は怖い」

 リオは両手を握りしめて細かく震わせる。ジョニーはその手を取った。

「大丈夫だ、俺は負けはしない」

 リオの小さな頭をジョニーは優しく引き寄せた。

「ジャロワク軍の動向をしばらく見張る必要がある。それまではこの町にいるつもりだ ‥‥‥」

「じゃあやっぱり!」

「ただしずっとじゃない。ジャロワク軍が攻めて来る気配がなくなったら出発する‥‥ それまでの間だけな」

「‥‥また条件付き?」

「まあね」

 二人は顔を見合わせてクスと笑う。

「じゃあ、新生グリーンティアルの王宮を見つけに行こうか」

「うむ、苦しうないぞ」

 普段の明るさを取り戻したリオを見て、ジョニーは肩をすくめた。




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