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第二話 破壊の始まり、闇の竜の覚醒

『‥‥‥‥‥‥』

 生まれ育った町の滅びる様を、黒の外套を羽織ったフェリスはドラゴンの体内でじっと見つめ続ける。表情には何の感慨も伺えない。少女にとっては当然の行為をしただけの話であった。

『‥‥これで』

 額の銀色の金属製のサークレットから棒が口元まで伸びており、棒の先端に付いている丸いボールを通してフェリスは言葉を発する事が可能となっていた。

 素早い手つきで左右に浮かぶキーボードをカチャカチャと叩く。景色を映し出している球体の端に言葉と数字が浮き上がってきた。

《‥‥生命反応探査‥‥不能‥‥》

 復唱する形で言葉が四方から発せられる。

『それはどういう事だ?』

《‥‥核分裂ノ影響ノ為‥‥》

『復旧するには?』

 抑揚の無い言葉でドリューベンに語りかける。

《‥‥中和剤ヲ散布‥‥三十キロ四方ガスキ ャン可能ニナルマデ三時間四十分後‥‥》『却下』

 フェリスの言葉だけで、浮かんだ字が消える。

『そんな時間は無い‥‥早く次の町に‥‥』

 上の段から手を離し、下のキーボードに手を乗せて叩く。

 外の景色は消え、かつてはケルナの都と呼ばれていた窪地を中心とした地図が、視野一杯に広がる。地図が完成した後、ポツポツと赤い点が広がっていった。

『要所にブレスを落とすだけで、八割の人間は殲滅出来る‥‥』

 口元に笑みを浮かべながら、カカカ‥‥と素早くキーボードを叩き続ける。ドリューベンの現在位置から何本かの赤い光の線が地図上に走った。先には大きな赤い点の集合‥‥‥都がある。

『‥‥都市情報閲覧‥‥』

 照度が落ちて薄暗くなった地図の上に、横書きの字が浮かび上がる。内容は都市の名称、人口、成り立ちや歴史などであり、フェリスはざっと目を通して頭に入れる。

『‥‥王都‥‥大きすぎる‥‥これでは三割 は逃がしてしまう‥‥許さない‥‥何か良い策があるはず‥‥何か‥‥』

 楽器の鍵盤の様にリズムを付けてキーボードを叩き、様々な数値を入力する。

《ナイトシフトヲ実行。OK?》

 画面端にメッセージが現れる。

『‥‥‥‥』

 フェリスは最後に一際大きなボタンを押す。

”GIAAAAAAAA!”

 ドラゴンが一声嘶くと、その黒い三角形の巨体が波打つ様に揺らぎ始める。その三秒後には姿は完全に見えなくなっていた。





「‥‥‥く‥‥‥ぐ‥」

 ジョニーは自ら発した呻き声で意識を取り戻す。生きている事を確かめる様にゆっくりと目を開けていった。

「‥‥な‥‥んだ?‥‥これは?」

 仰向けで倒れており、すぐに空が見えた。そこは子供をあやす話に出す地獄の空さながらで、渦巻く暗雲が恐ろしい速さで刻々と動いている。ゴロゴロと雷の予兆は見られたが、雨は降ってはいない。乾いた砂を掴んだ手を持ち上げて見れば、何処かで切ったらしく、腕は血で真っ赤だった。

「‥‥ぐっ‥‥‥」

 痛む全身を鞭打ちながら体を起こす。学園の中庭だった面影は何処にもなく、ジョニーは荒れ地の真ん中にいた。

「おーい!」

 立ち上がって叫ぶが何の反応も無い。

「‥‥ネーッド!‥‥リティシアっ!」

 口に手を当てて可能な限りの大声をあげるが、二、三度響いたその声は虚しく消えていった。

「どうなってるんだ‥‥‥」

 建物の残骸すらない荒野を漠然と歩き出す。無味乾燥とした茶色の地平線と、暗黒の空は何処までも続いて果ては見えない。

 付近は完全に死の世界と化していた。

「‥‥じゃあ、俺は運が良かったって言うのか?」

 違う‥‥ジョニーは心の中で即答した。

 首からかけている紐を引いて折れた剣を取り出す。剣のドラゴンの瞳は緑の光を放ったままであり、触るとやや熱くなっているのが分かった。

「瞳が赤から緑に変わった‥‥この剣は俺を 所有者と認めた?‥‥剣の柄が俺を守った のか?」

 剣の溝の一つ一つにゆっくりと指を合わす。心なしシックリ収まった気がした。

「‥‥ん?‥‥あれは‥‥」

 見慣れた教会の赤煉瓦を見つけてジョニーは走り寄った。建物は完全に崩れ落ちており、原型を留めていない。瓦礫を一つづつ手で掘り起こしていくと、下敷きになった遺骸を三つばかり見つけて息を飲む。中の一人はジョニーが幼い頃から良く見知っている神父であった。

「‥‥どうして‥‥こんな事に‥‥‥」

 握りしめた拳に力を込めて細かく震わせた。この惨状の中、生きている者のいる可能性はほとんど無いと言って良かった。

 犯人は黒い三角形の飛行体。正体を推し量る事は出来ないが、あの物体の咆哮によって王都は死の大地と化したのは間違いない。恐らくはネッドもリティシアももういない。

「‥‥ぐっ‥‥」

 ジョニーは下唇を噛み締めて、暗雲を見上げる。

「‥‥なぜだ、なぜだ、なぜだっ!‥‥なぜ こんな事をしたっ!」

 厚い雲の向こうにまだ物体が止まっているかの様に、ジョニーは罵倒を続ける。

「貴様が何者だろうと、やった事に対する相応の報いを受けなければならない!」

 ぐっと剣を握りしめる。

”PI!”

「‥‥‥‥‥」

 呼応するかの様に折れた剣が警告音を発した。あからさまな拒否にあってはいないが、他に何の反応も無い。

「‥‥‥ドラゴンの剣‥‥もし‥‥俺を所有者と認めたなら力を貸してくれ‥‥俺は‥ ‥」

 剣のドラゴンの瞳が点滅を始める。間隔は次第に狭まっていく。

「無数の命を一瞬で消し去る、奴の如き存在を野放しにしておく事は出来ない。‥‥絶対に許しはしない!‥‥絶対に!‥‥俺に力を!」

 ドラゴンの瞳が眩しい輝きを発し、ジョニーは視力を奪われ思わず剣を落とす。やがて光が弱まり始め、いつの間にか現れ出た物体に目を疑った。

「‥‥な‥‥これは‥‥」

 現れた三メートル程の細長い物体は細長く、真っ白い体に赤と青の線が走っている。真下には前後に二つの車輪が付いていたが、見慣れた荷馬車の輪と違って色が黒く、押すと硬い弾力があった。中央部はくびれており、なぜかその部分だけは柔らかい。下の方には先に穴の開いた体の長さと同じ位の竿の様なものがあったが、それが何なのかは分からない。体の一方の片側には掴んでくれと言わんばかりに棒が出っ張っており、フカフカの場所をまたいで体を前傾させると、思った通り丁度手が棒に当たり、棒を握りしめる事が出来た。顔の正面‥‥握り棒の上にツルツルした黒い板があり、ジョニーは手を伸ばして静かに触れた。板が発光して字が浮き上がり、点滅を繰り返す。

”ユーザーID‥‥”

「‥‥‥?」

 何の事か分からず、ジョニーはその字に手を当てる。

”‥‥登録‥‥‥再起動シマス。ヨロシイデスカ?”

 下にYESとNOと書かれた小さな四角が浮かんできた。YESを指で押すと、一瞬画面の光が途絶えて黒に戻ったが、再び白く光り始める。板には意味不明の数字が横書きに並び、何か数字を刻んでいる。

”POW・CHECK‥‥”

「‥‥なんだ‥‥これは‥‥‥」

 数字が消えた後、板の中に人の姿が映った。

《あなたの名前を教えてください》

「ジョニー‥‥ジョニー、ウェイン」

《ようこそ、ドラゴン、トライクエスターへ。このドラゴンは、不可能を可能にする夢のドラゴンです》

 その人物は青色の髪の長い十四、五歳ぐらいの女の子で、橙色のメイドの服の上に白いエプロンを付け、背中には蜂の様な筋のある半透明の翼が生えている。

 少女は一息にそれだけ言うと小首を傾げてニコっと笑った。

「誰なんだ‥‥君は?」

 馬鹿馬鹿しいと思いつつ、ジョニーは板の中の少女に問いかける。

《私はこのドラゴン、トライクエスターに寄生している妖精でドリィといいます。ドラ ゴンの運行、その他、何でも聞いて下さい》

「‥‥ドラゴン‥‥これが?‥‥それに‥‥ 妖精?‥‥あの童話に出てくる?‥‥どう してそんな板の中にいるんだ?」

 棒から手を離して体を起こし、またがっている物を見下ろす。皮膚というよりは金属で、どう見ても伝説の中に登場するドラゴンと同種であるとは思えなかった。

《質問は二つですね。まずドラゴンについて説明します》

 板が真ん中で二分割され、左側に妖精のドリィの顔、右側には線だけで構成されたドラゴンの立体図が表示される。

《現在トライクエスターは、クルーズモードになっています。通常移動する時はこの形態を維持します。戦闘時にはバトルモードに変形する事により、クルーズモードでは使用不可であった様々な攻撃が可能になります》

 ドリィが笑うと右の図は消えて、再び画面一杯に少女の全身が映る。

《質問の二つ目です。一頭のドラゴンには必ず一人の妖精がついて、ドラゴンの操者であるマスターを補佐する事になっています。妖精はこの画面の中でしか実体化出来ません》

 ドリィから色が消え、黒い背景の上に白い光の線だけで構成された存在となり、少女のサイズを示す様々の数字が脇に添えられる。

「‥‥そう‥‥なのか‥‥」

 ジョニーは分かった様な、分からない様な複雑な表情で画面を睨む。ドリィに再び色が付いた。

「しかし、本当にあの剣はやっぱり勇者の剣だったんだな‥‥ドラゴンを呼び寄せるなんて‥‥しかしどうして俺を認めたんだろうか‥‥」

 その問いにドリィは答えない。

《今の言葉は質問ですか?》

「‥‥え?‥‥ああ」

《少々お待ち下さい》

 ドリィは思考中と分かる様に大袈裟に横に首を振る。

《質問は、なぜドラゴンのマスターとして選ばれたのか‥‥という事ですね?》

「そうだ」

《回答します。以前の所有者は期限切れになってしまいました。ドラゴンの原動力である紫水晶は人の強い感情に引きつけられる事から、マスターの思いがトライクエスターを呼び寄せました》

「‥‥強い感情?」

《強い感情を定義しますか?》

 ジョニーが頷くと、ドリィの下に浮かんだYESの字が点滅した。

《主に、怒り、憎しみ、絶望、嫉妬、いわゆる負の感情》

「‥‥怒り‥‥確かにな‥‥」

 つい今し方経験したばかりの破壊衝動を思いだして唇を噛んだ。

「紫水晶の事を教えてくれ」

《回答します。紫水晶は強い負の魂を持つ人間の魂によって創られる鉱石です。強大な力を有してはいますが、人間が直接扱う事は出来ません。唯一の例外はこのようなドラゴンという形で初めて可能になります》

「ではこのドラゴンは誰がつくった?」

《創造者はオリジナルドラゴンです》

「‥‥何だそれは?」

《神界に住むドラゴンの事です。人間の定義では神と呼ばれています》

「‥‥神界に住む?‥‥神?‥‥でもここは人間界とやら何だろ?‥‥どうやって移動した?」

《移動の方法は記録にないので不明です》

「まあいい‥‥俺には関係ない事だ‥」

 ジョニーは前屈みになって棒を握りなおした。

「ドリィ、君に言えばこのドラゴン‥‥トライクエスターは動いてくれるのか?」

《オートモード可能です。私に目的地を指示してくれればハンドルから手を離しても勝 手に走って行きます。シートの上は重力結界が効いているので向かい風などは全く気にしなくても大丈夫です。ですが、なるべくならマスター自身で操作する事を勧めます。進行を指示したままだと何かあった場合に反応が鈍くなります。それは危険な事です》

「まだ良く分からないが、そういう事なら自分でやる‥‥最初にどうすればいい?」

《ハンドル‥‥角に手をかけて下さい。パワーモーションコントロール‥‥PMCによ って制御されているので、ハンドルに僅かな力を加えるだけで楽に任意の進行方向へと変える事が出来ます。ハンドルの右が出力、左がアプリケーションの選択で、人差し指の先に当たる突起が決定ボタン、ハンドルの端の出っ張りがキャンセルボタンです。口頭でも指示可能で、画面上に 現在使用可能なアプリケーションの一覧が 表示された後に、使用したい‥‥‥》

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

《はい、待ちます》

 ドリィはパネルの中で目を閉じて下を向いた。画面が薄暗くなる。

「悪いんだがドリィ‥‥何が何だかさっぱり分からない。俺はただ‥‥」

 ジョニーは暗雲に包まれた森の彼方に顔を向ける。

「奴を倒したいだけなんだ」

《倒すという事は分かりました。奴‥‥という言葉の範囲をもう少し限定して言い直し て下さい》

「そうしたいのは山々なのだが、俺にも奴が何者なのか分からない。ただ突然現れて消えてしまった」

《しばらくお待ち下さい》

 ドリィは人差し指を立てて顔を横に振る。

《提案です。ドラゴン操作の実習を兼ねてその”奴”を追跡するのはいかかでしょう?》

「いい考えだ」

 ジョニーは足元の金具に足を乗せ、ハンドルを掴んで奥に思い切りグイと回転させた。

”UOOOON!”

 ドラゴンが吠えた。

「‥‥おわっ!」

 パネルの数値が零から一気に百二十まで跳ね上がる。ドラゴンは真下にある二つの車輪を回転させる事により、予備動作も無しに加速を始め、解き放たれた矢の様にひたすら大地を駆けていく。

「‥‥く‥‥‥」

 全ての光景は瞬時に後方に流れ、前方の視界はどんどん狭まっていく。ハンドルに掴まるジョニーの手は千切れんばかりに引っ張られた。速度を表していると思われる数字は三百を超えており、もしバランスを崩して横転したならばもちろん命はない。

「‥‥おい‥‥ドリィ‥‥何とかしてくれ!」

《 “何とか”の言葉を詳しく定義して下さい》

「く‥‥」

 荒野の向こうに被害を免れた森が緑の線となって現れ始める。このまま森に入り、密生した太古の木々を避けて走り続ける事は不可能だった。

「‥‥速度を落としてくれ‥‥これだと‥‥‥」

《それでは右のグリップを手前に戻して下さい》

「‥‥そうか‥‥出力というのは、そういう事か‥‥」

 言う通りにすると、トライクエスターは静かにスピードを落とし始める。反動でジョニーは前方に飛び出しそうになった。

 バランスを崩して左右に激しく揺れる。

「‥‥ぐあっ、くっ‥‥ドリィ!」

《何でしょうか?》

「さっき言ってたオートモードとやらに、変えてくれ! 君が操ってくれるんだろう?」

《分かりました》

 パネルに浮かんでいた手印の小さな模様が消えて、ドラゴンの顔の模様が現れる。

「‥‥‥」

 ハンドルは勝手に右、左と動き続け、ドラゴンはまだ走り続けている。

《オートモード起動、重力結界作動します》

 途端に体にかかる全ての圧力が一度に消えた。どれほど傾いてもまたがっているドラゴンが上に感じられる事から、ジョニーにとっては景色の方が傾斜している様に見えた。

《目的地を指示して下さい》

 何事も無かったかの様に、ドリィはスカートの上で手を重ねたままの姿勢で聞いてくる。「‥‥そうだな‥‥‥」

 ジョニーは落ち着く為に深呼吸する。

「王都ティアルノアへ向かってくれ。そこに‥‥親父達がいるはずだ」

 あの黒い三角板が何処に飛んで行ったのかは分からなかったが、もし王都に行ったとすれば両親の身が危ない‥‥そう考えると、いても立ってもいられずにそう指示した。

 パネルに付近の地図が表示され、その上を何度か赤色の線が走り、ケルナの町と王都が繋がった途端、青色に変わった。

《現在の速度での到達予定、一時間、二十三分後‥‥よろしいですか?》

 ジョニーがうなづくとドリィがお辞儀をしてパネルから消えた。森へと入ると風の音はサワサワという穏やかなものに変わり、辺りにはドラゴンの走るキーンという音だけが響き渡る。

 その時ジョニーの胸中は友と町を葬った者への復讐、両親の安否の気遣い‥‥そのどちらが重きをなしていたのか自身にも分からなかった。





 グリーンティアル王国の北西に位置するジャロワク国は、大陸の四分の一近くを席巻する大国である。古くから工業が盛んではあったが、同じ大陸にあるブルジャフ国との覇権争いにより国土は疲弊し、繁栄はもはや遠い過去のものとなっていた。鉱物資源を始めとした天然資源は枯渇しかかっており、このまま争いを続ければ共倒れになるのは明らかであった。が、ここに至りジャロワク国は”ゴーレム”と呼ばれる人型の蒸気式兵器の開発を始めたのである。ゴーレムが前線に投入されれば、長きに渡っている膠着状態を崩す事が可能であった、が、時のジャロワク首長バルガスは開発が息詰まりを見せるとゴーレムの研究を停止させた。

 そんなジャロワクの首都、キルケヒに一人の黒ずくめの人物が降り立った。




「これが、ジャロワクとやらの首都か」

 頭から黒のコートを羽織った人物は、静かに辺りを観察した。地面は土の部分がなく全てが銀色のブリキで覆われていた。無数の高い煙突が黒い煙を灰色の空に垂れ流している。行き交う人々は一様に黄土色の作業着を着ており、うつむいた顔はどれも暗く沈んでいる。「‥‥ここだけでもかなりの人間がいる‥‥ あの人間の小娘にはせいぜい働いてもらわねばな」 

ふふっと口元に笑みを浮かべて首長のいる宮殿に足を向ける。

「待て、ここから先は立ち入り禁止だ!」

 教会の様なアーチ状の門をくぐろうとした時、二人の衛兵に槍で制された。

「私はここの国の長に用がある‥‥人間の国の中ではまだしも見込みがありそうだと思 えばこそ、ためになる話を持ってきたのだ、邪魔をするな」

「待て、勝手に城内に入る事はならん!」

 再び槍で阻まれた。

「‥‥下等な人間どもめ‥‥」

 頭から被っていたロープを取ると、逆立てた銀髪と赤い目が露になった。その異様な風貌を至近で目にしただけで二人の衛兵は竦み上がった。

「‥‥‥な‥‥あ‥‥足が‥‥」

 ペキペキと足先が白く固まっていき、石へと変わっていった。

「‥‥た‥‥助けてくれ!」

「埒もない」

 銀髪の男は断末魔の悲鳴を上げる衛兵達には一瞥もくれずに、門をくぐった。

 廊下ですれ違う人々は驚いて壁を背に張り付かせる。男はそれが快感ででもあるかの様に、堂々と首長の執務室へと向かった。

「‥‥ここか‥‥人間は無意味に屋内を仕切りたがる‥‥時間の無駄だな」

「何だ貴様! 何処から入って来た!」

「‥‥この上まだ手間を取らせるか‥‥度し難い‥‥」

 男の瞳が光った。




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