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第3話 触れ合う心

 それから数日後。

 ピロンとスマホの着信音が鳴って、要は目を覚ます。

 ベッドから体を起こすと、周囲にはすっかり片付いた部屋が広がっていた。

 壮太と会ったあの日、食事から帰ると壮太はお礼にと要の部屋を片付けてくれたのだ。

 それでも、周囲には脱ぎ散らかされた普段着が散乱している。

「ちゃんと片付けないと、壮太君に怒られちゃうな」

 そう苦笑しつつも、要はスマホを手に取り画面を見つめていた。

 着信音はLINEのメッセージが届いたことを知らせるものだった。その証拠に、画面にメッセージが届いたと表示がされている。

 もちろん、相手は壮太だ。ここ数日、すっかり仲良くなった2人はこうやって連絡を交わし合うことが多くなっていた。

 壮太のメッセージは『おはようございます!』といったシンプルなもの。そこに可愛らしい猫のスタンプが付属されている。

『今起きたところ。おはよう』

 要もまた、壮太に返事をする。そして、壮太と同じ猫のスタンプをメッセージに付属するのだった。

 この猫のスタンプは壮太に勧められて買ったものだ。とても可愛いし、様々な種類のスタンプがあるので要はとても重宝していた。

『勉強どう? 捗ってる』

『昨日、バイトの休憩中に解いてたけど全然わからなかったです!』

「はは! 自信満々に答えることかな。それ(笑)」

 ここで壮太から、『だったら、勉強教えてくださいよ』というお願いのメッセージが送ら得てきた。『お願い』と前足を合わせて、こちらにつぶらな瞳を向けてくる猫のスタンプも付属されている。

 そのメッセージを見て、要はぎゅっと胸が押しつぶされそうになる。

 そして、数日前の壮太との会話を思い出していた。


「俺、医者になりたいんです」

 やって来たファミレスで食事をしている最中、壮太は要にそう告げてきたのだ。

 その言葉に、要は口を大きく開けて驚くしかできなかった。

 医者や教師と言ったエリート階層の仕事は、一般的にαの職業とされていることがほとんどだ。

 Ωのなかにもそう言った職に就く人々は少数ながらいるが、定期的に発情期を迎える彼らが責任のある仕事につくことは難しいとされている。

 でも、壮太の言葉を要は他人事とは思えなかった。要にも、かつて壮太のように叶えたい夢があったからだ。

「どうして、医者になりたいの?」

 そう尋ねる要に対して、壮太は曖昧に笑う。

「どうしても、医者になって助けたい人がいるんです。いや、人たちって言うのかな……。どうせ真面目に話しても、笑われると思いますけど」

 そう告げる彼は笑ったままだった。

 その微笑みが曖昧で、悲しげだったことが要は忘れられない。


 ピロンっとメッセージの着信音が鳴って、要は我に返る。

 画面を見ると、壮太からこんなメッセージが届いていた。

『また先生から、医者になるのは諦めろ言われました……』

「またか……」

 壮太のメッセージを見て、要は渋い顔をしていた。

 壮太はよく、医者を諦めろと言われなくなるにはどうしたらいいのか要にアドバイスを求めてくる。でも、要ですら壮太がΩなのに医者になることを目指していること告げられ驚いたのだ。

 周囲の大人が彼にどういっているかなんて容易に想像がつく。

『諦めるな。その言葉に耳を傾けて一番後悔するのは誰だい?』

 だから要は、いつも壮太にこんな感じのメッセージを送る。

周囲の言うことに耳を傾けるな。自分の夢を諦めるな。要はそう壮太にメッセージを伝え続けているのだ。

 裏を返せば、自分には壮太のためにそれぐらいしかしてやれることがない。

『ありがとうございます。俺、諦めません。絶対に!』

 壮太から心強いメッセージが返って来て要はほっとする。だが、次に送られてきたメセージを見て顔色を変えた。

『あと、俺を襲ってた先輩たちが、要さんのことを探してるみたいです。気をつけてください』

「嘘だろ。勘弁してくれよ……」

 ため息と共に、そう吐き捨てる。

 これは警察に相談に行くかと思っていると、また壮太からメッセージが届いた。

『要さんに何かあったら、俺があいつらボコりますから! なにかあったら、すぐに連絡くださいね!』

「いや、頼もしいな」 

 壮太の言葉に、顔がニヤけてしまう。

 要は嬉しいと思いつつも、壮太にこう返事をしていた。

『ありがとう。でも、俺は君の身の安全の方が心配だよ。あいつらには気をつけて』

『大丈夫。襲ってきたら、蹴り倒してやります!』

 壮太の返信に要は声を漏らして笑っていた。

「なんかな。壮太君らしいな」

 それでも、要には気になることがある。ここ数日、壮太が連絡を寄こす頻度がとても多くなっていることだ。

 自分以外に、身近な悩みなどを話せる人物がいないのか。そう思う事すら要にはある。

 そしてその予感は、壮太の送られてきたメッセで確信へと変わっていた。

『それより、解決しなきゃならないことが山のようにあるんで……』

「壮太君……」

 そのメッセージを見て、要は確信する。

 彼は、Ωである以外にも何かハンデを抱えているのではないかと。

『ねえ、壮太君。提案があるんだけど……』 

 そして要は、壮太にあることをしないかと持ちかけていた。


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