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第23話 英雄たちに祝宴を

 小鳥の可愛らしい鳴き声が何やら聴こえて来る……。


 俺は水魔龍エウムの迫り来る姿を見て急いでベッドから飛び起きる!


「はあ……夢か……」


 俺は深いため息をつき、借り部屋をで、いつもの食事室に向かう。


「おお、おはよう! で、調子はどうだね杉尾君?」


 ドアを開け食事室に入ると、いつものようにギルド長がテーブル席から俺に挨拶をしてくれる。


「え? ええ……いつも通りよく寝れました」


「そうか、まあ3日も寝ていたらね。あの水魔龍エウムを倒した後だし無理もない。今日は食事を取ってレノアとゆっくりと遊ぶといい」 


 ……どうやら夢オチじゃなかった模様。


「よ、良かったあ……。俺夢かと……」

「はっはっは! 事実だよ、事実! ささ、食事を終えたら早くセカンドビーチにいきたまえ!」


「は、はいっ!」


 俺はいつもより早く食事を済ませ、即着替えしてダッシュでセカンドビーチへ向かうっ!


「おーい! 杉尾君こっちこっち!」 


 声をする方向を見ると、いつものオレンジ色のビキニを着たウィンフィルさんがいた。


(うん、相変わらずのセクシーダイナマイトだ。素晴らしい……) 


 て、んん? 良く見るとウィンフィルさんがいる近くのヤシの気に、何やら人影が……?


「ほら! レノア。恥ずかしがらないで!」

「う、うん……」


 するとヤシの木の陰から、何とウィンフィルさんと全く同じ格好をした素敵なダークマギデ族の女性がいるではないか!


 俺はその魅力的な姿に度肝を抜かれビックリ仰天してしまう!


(……何だあの2盛のバレーボール……⁉ い、いや、超規格外の完熟ネットマンゴーは……?) 


 ウィンフィルさんも大概だけど、レノアのはもうはちきれんばりでネット、もとい水着が意味をなしてないんですが?


「ど、どうかな?」


 レノアは顔を赤らめ、透き通る金色の瞳で俺に訴えかける。


「え? あ、あの色々スゴイなって……」


 ひと言で言うと、いきなり一発のアウトのゲームセット。


(いや、アウトというかホームランかな) 


 野球じゃなくゲームで例えるなら、クリティカルヒットの最大ダメージ状態だ。


「あー2人ともじれったいなあ……。ホラ、レノアは杉尾にサーフィン教えて貰いたいんでしょ?」


(え? マジ? いきなりデートですか? 昔のワン公レノアとは違い、外見は全くの別人なので俺は色々とカッチカチなんですが?)


 でも嬉しいし、断る理由は1つもない。


「あ、あの……。そ、その俺でよければ、喜んで」

「ほ、本当? じゃ、まず泳ぎ方からお願いします!」


(あ、それでコイツ、今までサーフィンには来なかったわけか……) 


 俺は色々察した。


「じゃ、邪魔者は消えるねー。2人とも頑張ってー」


 ウィンフィルさんは気を使って颯爽さっそうと町に向い去っていく。


(じゃあ折角なんで、真面目にやりますか……) 


 泳げないなら、サーフィンをボード代わりにしてクロールから教えた方がいいか……。


「じゃあさ、サーフィンの基本パドルから教えるな」

「うん」


「まず、サーフィンボードを浮かべる。うつ伏せでそれに乗る。んで俺みたいにクロールの手だけで泳ぐ。じゃやってみて!」

「はいっ!」


 レノアは俺のやる内容を真似てサーフィンボードにうつ伏せに乗る。


「ねえ? この手をグルグル回すのが分からないから杉尾が手を引っ張って教えてよ?」


(あ、そっか……。こいつ乗馬は出来るけど、他の運動はサッパリなんだろうな) 


 職業も召喚士だし。


 俺はレノアの横に立ち、手を引っ張って回していく。


「ここで、腕をこう回すんだ。そう上手上手……」

「えへへ……私初めて泳げてなんか嬉しいな……」


(そっか、そうだったな……) 


 俺も初めて波に乗れた時はスッゲー嬉しかった記憶がある。


(最も水魔龍エウム討伐時の数十メートル越えの超ビッグウェーブは二度と御免だけどな) 


 その時、俺はふと気が付いてしまう。


 前方から結構大きい波が来ている事に!


「レ、レノア退避っ!」

「えっ? 僕泳げないんだけど?」


(ああっ! くそっ!) 


 俺は急いで、レノアをオンブし、安全な砂浜へと退避する。


「あ、あのっ……」

「ああっ? 何だ?」


「あ、あの……オンブ……」


(今更何言ってんだコイツは?) 


「あの時もお前を俺がオンブしたじゃねえか?」

「……うん、そうだね……」


 俺のその言葉に反応したのか、レノアは俺を力強く抱きしめる。


(そうそう、あの時もそうだったよな……) 


 空腹のガキを俺がおぶって。


(今も……) 


 その時、俺はとある違和感を感じてしまう。


 背に何か柔らかい物が当たっていることに……。


(あ、サーフィンを夢中で教えていて忘れていた) 


 今はコイツがダークマギデ族のボディになってるって事を。


「ご、ごめん! 俺お前が元の姿に戻ってる事をすっかり忘れちまってて」 


 俺はそれを意識してしまい顔が真っ赤になる。


「ううん、いいんだ。僕が杉尾の事が気になったのってこれがきっかけだしね」

「え? そうなの?」


「うんそう。僕達ダークマギデ族ってさ、触れてる人の思考がある程度分ってしまうんだ」

「え? じゃあの時のオンブや野宿した時に俺の腹に乗っかって寝ていたのって?」


「そう。それに宿屋での杉尾の態度で、ある程度気を許したってのもあるかな?」

「ああ、あのポーション加工とエリクサーの材料加工の件な」


「ゴールドリリーを杉尾が一発で見つけたのを見て、ああ杉尾はパパにそっくりだなって!」


(そっか、俺はレノアのパパにそっくりなのか……) 


 レノアが俺の事を気に入っている理由が何となく理解出来た。


(ダークマギデ族の直感は俺ら人間じゃ理解出来ないところだし、ま、いっか……) 


 お互い長らく付き合って、相性が良ければくっつくだろうしな。


 それはそうとして……。


「なあ? レノアのパパって……」


「おーい杉尾君! そろそろ上がって! 昼から予定通りパーティをやるから!」


 その時、めかし込んだ姿のギルド長がこちらに向かって手を振って来る。


 隣を見ると同じくドレス姿のウィンフィルさんと、もう一人レノアによく似たドレス姿のダークマギデ族の素敵な女性の姿が見えた。


「ハパ! ママ!」 


 レノアは俺の背から離れ、ギルド長の元に走っていく……って?


「あ、あのレノアさん? も、もしかしてパパって?」

「うんそう、ギルド長だよ?」


「……あ、あはは……な、なるほど」


 どうりでギルド長と仲がいいはずだ。


 もう、ギルド長関係は驚かない……よ?


「杉尾さん数日前はお世話になりました。改めてご挨拶を」

「いえいえ」


(レノアのママだろうけど、俺この人に会った事あったっけ?)  


「私の名前はレイン=ニア。あの時とは姿が違うけど雷が得意な魔導士です」

「あ、水魔龍エウム本体討伐メンバーで共闘した、あの時の……!」


 あの時はレノア同様ちっこくて分らなかったからね。


 レノアと仲が良かったのは母子だからか……。


「挨拶はこれくらいにして、じゃ行こうか! 2人とも服装はこちらで揃えてるから着替えて!」


(ところでパーティって? 何の?) 


 そう思いながら俺はギルド長の言葉通り、冒険者ギルドに着替えに戻る。


 俺はギルド長とお揃いの黒の貴族服であるプールポワンに着替え、再び冒険者ギルドの外に出る。


 なにやら太陽が真上に上がり、ギラついて眩しい。


 そんな中、黒門をくぐると何やら町人たちが騒いているが……?


 これがパーティの何かだろうと俺は推測する。


「魔王の腹心、7魔将水魔龍エウムを討ち取った英雄に敬礼っ!」


 その途端何やらギルド長の大声と、町人の大歓声が聞こえて来る。


「彼、杉尾は777番目の転生者であり、見事その身を粉骨砕身し、私達と共に水魔龍エウムを見事に討ち取った! この私を含む20人の水魔龍エウム討伐メンバーがその証明である!」

「水魔龍エウムの角を砕いた英雄杉尾に皆敬礼を!」


 良く見ると、めかし込んだレノアやウィンフィルさんら水魔龍エウム討伐メンバーが俺に向い敬礼をしている。


 途端、物凄い大歓声が上がり、それを合図として町中から花火が上がる。


 あっけにとられた俺に対し、オレンジ色のドレスを着たレノアが俺の前に立つ。


(……えっと? 一体何が?) 


「水魔龍エウムを倒した勇敢なる英雄よ! 私セブン=アグニスはギルド長の地位を持って貴殿の戦果に対し、レジェンド冒険者であるSSの称号を貴殿に授与する」

「おめでとう! 杉尾!」


 ギルド長の世辞が終わり、レノアが俺に銀のペンダントを首にかける。


 そのペンダント良く見ると、女神様の顔が彫っている。


「あ、ありがとう」


 夢心地の中、理解出来た事はこのパーティが俺達水魔龍エウム討伐の祝いだってこと。


「続いて、水魔龍エウムの分身を討伐したものを……」


 更には戦果を挙げた者の授与ってことを……。


 ギルド長の世辞が続く中、レノアと俺は喜びを分かち合う。


「や、杉尾君!」 


 そんな中、タキシード姿の長身銀髪好青年が俺の前に姿を表す。


(声はなんか聞いたことあるけど誰だっけ?) 


「あ、ドラネス!」


 レノアがその青年に反応するが……?


「え? ドラネスさん?」

「そうだよ? あ、まあいつも兜を被っていたから分かんないか」


 なるほど……。


「まあ、君がレノアとくっつけば、俺達は家族になるからな! よろしくな兄弟!」


 そう言うと、ドラネスさんは別の人のところに移動していく。


「あ、どうも……って? え? レ、レノアと兄弟?」


 めっさ驚く俺。


「あ、当然お母さんは違うよ? ドラネスのお母さんは司祭サラニス。ホラ、あの人も銀髪だったでしょ?」

「あ、な、なるほど……」


(こ、この感じだと、あの討伐メンバーに沢山のギルド長の家族が入ってそう……) 


 しばらくすると、ギルド長の祝辞が終わり各自勝手に騒ぎ出す。


 周りを見るとカップル数人が流れている音楽に合わせ、陽気にダンスをしているではないか。


「杉尾! 僕達も踊ろう!」

「あ、俺踊り知らねんだけど?」


「じゃ、今度は僕が踊りを教えてあげる!」

「お、おう……」


「じゃ、手は私の腰にまわして……」

「こ、こうかな?」


 俺はドギマギしながらレノアの華奢な腰に手をまわす。


 それはそうとして、何点かに落ちないことがあるんだよな。


 俺はレノアと楽しく踊りながらそれを訪ねることにした。


「なあ? お前達ダークマギデ族が小さくなった呪いって?」

「うん、祠にいた水魔龍エウムの分身2体をほぼ同時に倒さないと解呪出来なかったの。前回は倒し方が分からなくて、断念し封印することになったってわけ」


(ああ、それで……) 


 水魔龍エウムの分身が、呪文を唱えていた恰好で石化していたのはその為か。


(更にはレノア達別動隊は宝物庫にいるもう一体を倒しに行ったってとこか?) 


 俺はレノアを強く抱き寄せながら、更に問い詰める。


「なあ? 何故に宝物庫にダークマギデ族を助けに行くなんて嘘を俺に教えた?」

「え? そりゃ、パパと私が杉尾の驚く顔を見たかったから?」


 成程、よく理解出来た。


 ギルド長の場合、俺が驚くのを見て楽しめ、自分のスキル能力の底上げ使えるからな。


 娘のレノアもそんなところがあるんだろう、きっと。


「ところで何故に水魔龍エウムはダークマギデ族だけに呪いを?」

「ギルドやこの町への経済活動の抑止目的。ダークマギデ族の飲み屋はこの港町だけしかないから、世界的にもの凄い需要があるの。で、その売り上げの何割かはギルドへ上納されてるの」


 納得した。


 経済活動の抑止って、水魔龍エウムって結構頭脳プレイしていたんだな。


 俺はちょっと感心してしまう。


「へ? 何故にギルドへ上納してんの?」

「飲み屋のママがね、私のニアママなの」


 な、成程、何故ニアママが強力な司祭や神官になっていないか理解出来た。


 神に仕えたら、飲み屋のママとか出来ないしね。


「……じゃ、スッキリしたし続きを踊ろうか?」

「うん! じゃ、このままゆっくり曲に合わせて……」


 結局この日はこんな感じで、夜まで飲めや歌えやの大騒ぎでスゲー楽しかったな……。

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