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第21話 道しるべ

「ギ、ギルド長は怖くないんですかっ?」


 俺はその超ビッグウェーブの凄まじい圧にガクブルしながら、ギルド長に問う。


「え? あーそうだな……。どっちかというとワクワクするかな?」

「え、ええっ⁉」


(い、意味が分からない……) 


 これくらいの超ビッグウェーブだとのまれた場合、軍用船でもお陀仏だぶつだろうに……。


「……よく考えてみてごらん? こんなビッグウェーブ二度とお目にかかれないかもなんだよ?」


(そ、そりゃそうだろうけど) 


「だからさ、多少は私も恐れはある。けど、乗りこなせれば最高じゃないかなって。そんなことよりも、今を楽しみたいって、俺の本能が叫んでるんだ」


 ギルド長は俺に向い、親指を立て、爽やかな笑顔を見せる。


 その時、空の月から眩い光が届き突然ギルド長の体を照らし出す!


「明るく、楽しく、努力を忘れず、理路整然と生き、驕ることなく、勇気を持って、自ら行動すること。これが俺の700番の恩恵の発動条件なんだ……。なおスキル効果はかなり運が良くなる!」


(な、成程、普通なら乗れない波を運で解決するって寸法か……) 


 ギルド長ならスキル発動しなくても乗りこなせそうではあるが、100%にしたいって事なんだろう。


 それにしても、7つの心構えか……。


(そ、そうか、ギルド長はサーフィンが心底好きだから。最後の心構え【楽しく】で発動したのか……) 


 それはいいけど、超ビッグウェーブが徐々に迫って来る……。


(ま、まずい……)


「お、俺のはどんな感じ何ですか?」

「わからんが、多分心構えの何かが足りないのだと思う。レノアの話では私の心構えとは違うらしい」


(ええっ! じゃ、……こ、このままじゃ、死ぬ……) 


 刹那、ふと俺の脳裏では走馬灯のように記憶が蘇り走る……。


『えっとウィンフィルさん。ギルド長は一体俺に何を期待してるんですかね……』

『ふふ、そうね。運や機転とかもだけど、一番はそういうとこかな?』


 これは【仁】、徳の1つ。


 最初から俺が持っているもの……。


(そうか、今思えばウィンフィルさんは鳳凰司祭。司祭は神に仕える身。だから何となく分っていたのかもな……) 


 次……。


『……ギルド長! 俺水魔龍エウムを倒したいんですが、どうしたらいいんですか!』

『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男スタイルレベル7】光のチャラ男道に少し近づく』


 これは【義】、わが身の利害をかえりみずに他人のために尽くす人……。


(これは皆の期待に応えたい俺の気持ちなのかもな) 


 次……。


『うん、じゃ俺についてこい。飯おごってやる』

『た、助かります……』


 俺は弱った子供をおんぶして宿屋に連れて行く事にした。

 丁度飯食べようとしていたし、あの人の良さそうな婆さんなら文句言わんだろうしな……。


 これは【礼】、道徳的な規範……。


(懐かしい、これがレノアとの最初の出会いだったよな) 


 小声で「ありがとう……」ってアイツが何か言ってたのを覚えている。


(という事は成程、法則性が分ったぞ!) 


 おそらく仁義八行の仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の8つのうち7つが俺の設定されたスキル発動の心構え。


 仁と智は最初から俺が持っているので、義・礼・忠・信・孝・悌が必要だってわけだ……。


 消去法で素早く消していくと、残り忠・信・孝・悌。


 ギルド長の言いつけは守ってここまでついて来てる。


 なので、そっち関係の忠・孝・悌は当然消える。


 残りは【信】。


 意味は、いつわらないことや誠実さ……か。


 でも、俺……理想の彼女が欲しいって心の底から思ってるんだけどな。


(……となると、もしかして誰と言う具体性が無く、深い思いが足りないからカウントクリアしてないと?) 


 よくよく考えれば自分でいいなと思った女性は複数いる。


 まずシスター。


 でも、聖職者なんで×。


 次に、レノア。


(行動は一番長くして、性格もいいんだけど、体の大きさがね……) 


 いちお一緒に数日間野宿した仲だけど、彼女は俺の中じゃ可愛いワン公ポジなんです。


 次に、ウィンフィルさん。


 性格・スタイル・能力グンバツ。


(でも人妻です。しかもギルド長の(血涙)……) 


 次にコンパ予定のダークマギデ族の女性。


 おそらく例の飲み屋のママにナイススタイルが加わってウィンフィルさんに近いと思われる。


「杉尾――――――っ! ぼ―っとするな!」


 その時、遥か上空からレノアの激が聞こえて来る。


 おそらく風龍エグゼニに乗っているんだろうが……。


 さっき気になる女性候補に入っていたことを俺は思い出し、一瞬赤面してしまう。


「ああ、ありがとよ!」


 その時、俺はふとレノアと目が合う。


 相変わらずの、褐色のナイスボディに金色の綺麗な瞳……。


(……せめてこいつがウィンフィルさんやダークマギデ族みたいに……) 


 ……ん?


「あ、あの? ギルド長? あのレノアに似た声を出す素敵な女性は一体?」 

「ん? あ、ああ、あれは水魔龍エウムの呪いが解け本来の姿に戻ったレノアだな」


 ……?


(あ、あのちっこかったレノアが実はダークマギデ族っ⁉) 


 俺の頭の中は激しく混乱していた……。


「杉尾っ! 死ぬなよ!」

「馬鹿ッ⁉ レノア危ないっ! 此処にいたら巻き込まれるぞ!」


 レノアと一緒に登場しているドラネスさんの言葉が聞こえ、風龍エグゼニは遥か上空に飛び去って行く。


「……あ、あのギルド長。もしかして、コンパの相手って?」

「ふふふ、そうだ、今のレノアだ……。ふふ、スマンがお陰で更に楽しくなってきた!」


 俺の驚く顔を見て、心底楽しそうに笑っているギルド長。


 俺はふとあいつに出会った時のことを思い出す……。


 驚いた顔した子供が、金色の瞳でこちらを見つめている……。


 澄んだその瞳に少しドキッとする俺。


『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男の勘レベル3】にアップ! ???』


 ……。


(そうか、成程、これはレノアを解呪する道しるべ……) 


 即ち、俺の理想の彼女へと導く道しるべだったんだな……。

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