……それからしばらくして……。
「どうだ、レノア……?」
「うん、間違いない! 敵が数体来てるね! ドラネスっ!」
どうやらギルド長とレノアが敵を感知した模様。
(レノアの視線を追うと、帆の上に誰か昇っている⁈)
「おいっ! 敵襲だっ! ……クラーケン1体とデビルシャークの群れだ。しかもクラーケンはいつもの奴よりデカイっ!」
見上げるとダイヤモンドの透明な鎧が月光で光輝いて見え、その者の手には同じ素材と思われる二メートルはある巨槍を持っている。
(ん? この人もしかして、あの時2人いたギルド門番の1人か?)
レノアの激とほぼ同時に、ドラの音が船内にせわしく鳴り響く!
途端、周囲の全員が素早く戦闘態勢を整える。
前衛は武器を抜刀し、後衛は魔法の詠唱を始めている。
「デビルシャークは勝手に死ぬだろうが、巨大クラーケンは厄介そうだな……」
装飾両手剣を持つギルド長の重い言葉に、緊張感漂う空気が周囲に生まれる。
と、同時に何かが船底に激しくぶつかる感覚が振動として伝わって来る!
「ギ、ギルド長っ、こ、この振動は何ですか⁉」
「船底に仕掛けてあった対デビルシャーク専用のスクリューにそいつらが砕かれている振動だろう。時期やむ」
(な、成程っ……!)
と、その時、高波……? い、いやっ⁈ 海中から何かが顔を出す!
……黒い漆黒の巨大なそれ……。
「で、デカイっ……」
「25メートルはあるな……」
「キングデビルクラーケン……。水魔龍エウムの腹心か……」
「皆っ! ギルド長とドラネスに強化魔法を!」
ウィンフィルさんの言葉と同時に後衛の司祭などが強化魔法を優先的に2人に唱えていく!
「女神アステラよ! 【月光の加護】を前方の戦士達に与えたまえ!」
「皆ッ、呪文の詠唱が完成するまで、手あたり次第弾幕を!」
レノアの言葉通り、俺達はありったけの矢を無造作に放っていく!
「雷槍よ!」
「氷矢よ!」
他の後衛も弾幕目的の詠唱が早い呪文を唱え、
対してキングデビルクラーケンはくぐもった気持ち悪い叫び声と共に、お返しとばかりにその太く長い無数のおぞましき触手を船内に向け放つ!
が、俺らは幸い先日デビルクラーケンとの戦闘で大体の行動と射程距離は把握済みのだったりする。
(最も、こいつのがデカくて攻撃は鋭いけどね……)
なのでその攻撃は俺らには当たらない!
逆にギルド長はじめとする猛者達は、その攻撃をよけると同時に各々の武器で切りつけていたりする。
キングデビルクラーケンはそのカウンター攻撃にたまらず悲鳴を上げる!
「今だっ、ドラネスっ!」
ドラネスはギルド長の大声と共に月光下を華麗に飛翔する……。
強化魔法【月光の加護】を受けているからか、その姿はまるで闇夜に飛翔する小型の光龍のようで……。
ドラネスは鋭利な槍をデビルクラーケンに向け、大空を猛スピードで急降下していく!
が、キングデビルクラーケン、多少怯んだものの名前の通り流石はキング! 残った2本の触手を器用に操り、ドラネスを叩き落とそうする!
「あ、危ないっ! ドラネスさんッ!」
俺は
が、多少は効いて怯んだものの、悲しいかな2本の触手でドラネスを振り払ら……。
……。
(……え? ド、ドラネスさんの姿が見えないっ?)
海に落ちたいたら波しぶきが見えるはずだが、それはない。
い、一体何処へ?
気が付くとキングデビルクラーケンの唸るような凄まじい悲鳴が聞こえて来る!
何と良く見るとキングデビルクラーケンの巨大な右目にドラネスさんの巨大な槍が深々とぶっ刺さっているではないか!
「流石はドラネス、【風龍に選ばれし騎士】。相手も空中で人間が
(な、成程、こ、これは凄い……!)
しかも今の攻撃はかなり効いている模様。
デビルクラーケンは実際苦しそうにのたうち回っているしね……。
「良し、皆っ! 今がチャンスだいけーっ!」
「おおーっ!」
ギルド長の激と同時に皆がありったけの攻撃を叩きこんでいく!
「神の雷よ! 御身の一撃を我に預けこの愚かなるものに神罰を下したまえ!」
「うおらあっ!」
後衛は必殺の呪文を唱え放ちの繰り返し、前衛はその隙を見て必殺の一撃を叩きこんでいく!
……ほどなくして、鎮まる海に静かに浮かび上がる巨大な巨大な黒い物体……。
一つ目のそれは焦点の合わない濁った目で月をまるで見つめているようで……。
「……や、やったぞ!」
「ああ、キングデビルクラーケンを倒したぞーっ!」
「お、おおーっ!」
俺達はありったけの喜びの感情を込め、勝利の雄叫びを月夜に向い放つのだった……。