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第15話 俺が俺であるために

「お、何の話で盛り上がっているのかい?」


 タイムリーな事に、海パン姿のギルド長が俺達の話に入っていく。


「ち、ちょっとギルド長! 7魔将討伐メンバーに俺が入っているのは何故ですか? 俺、最近上級冒険者になったばっかりのペーペーですよ?」


 しかも、そのメンツは何故か21人しかいないらしい。


(これは色々とマズイ……) 


「私と冒険者ギルド評議会のメンツで決めた事であり、満場一致の可決だ。当然誰も何も言わんよ?」


「……え?」


 これには流石に言葉が出ない。


(ま、満場一致⁉ な、何故っ?) 


「前にも言ったが人には役割がある。私や評議会の連中、それにここで君を見ていたギルドのメンツ達全員の意見を吸い上げた結果なのだ。そして私は君のその本来の生真面目さと優しさ、それに天運である777スキルに期待しているのだよ」


 生真面目さと優しさは昔から周囲の人がなんか言ってたから、そうなのかもしれない。


「って、えっ! 何故ギルド長は俺の777スキルの事を知って?」

「……私も転生者である事は君も知っていると思うが、私も【700スキル】を持っているのだよ?」


(あっ! な、成程、ギルド長も俺の類似スキルを持っていたのか……) 


「だから君にしかできない事があるのを私は知っていたから、レノアに君を迎えに行かせた」

「……納得出来ましたけど、俺この777スキルは運がいいことくらいしか理解出来てないですよ?」


「発動には条件があるのだよ。だが、しかし最も君の場合私のより複雑だろうから、それを察して私が条件を整えさせたのだけどね」

「な、成程……」


 よくよく考えたら、このギルド長は人格者であり、感情には流されない効率的な事を好む方だ。


 7人のギルド評議会のメンツに親族を一人も入れてないのがその証拠。


 この前マスターに昇格したレノアも入っていたしな。


(血より純粋な能力の高さ、特に伸びしろを評価するようだしね) 


 ファンタジー世界ではいい意味で珍しい思考の持ち主かなと俺は思っている。


 だからこそ俺はギルド長を信頼しているのだが……。


「すまんがこれだけは言える。私が成し遂げたい事と君がやりたい事は全く別だ。ただし、7魔将である水魔龍討伐は結果的に君の願望に繋がるということを覚えていて欲しい」

「え? それって……」


(討伐報酬としてダークマギデ族のコンパが待っているのは分るが、ギルド長の話の内容だとまだなにか深い理由があるってことか?) 


「……き、来たぞっ! デビルシャークの襲来だ!」

「な、何ッ⁈ 最近来襲らいしゅうの周期が短くなってきてないか?」


 セカンドビーチでくつろいでいたギルドメン達も、慌ててそれぞれ対応に向かう。


「杉尾君っ、話は後だ行くぞ!」

「は、はいっ!」


(確かに今はそれどころではない) 


 俺は近くに置いていたリュっクから装備一式を取り出し、慣れた手つきで素早く装備する。


 いい意味で環境に順応出来てるんだと自分でも思う。


 ……1時間後、デビルシャークの襲来周期が短かったからか、あっという間に討伐は完了してしまう。


 そんな最中、俺は一緒に仲良くデビルシャークの遺体を抱えているウィンフィルさんに話しかける。


「あの、なんでまた、こいつらの来襲周期が短くなったんですかねっ……と?」

「ん? あ、そっか杉尾君はこちらの世界の事はまだあまり詳しくなかっねっと!」


 俺達はクソ重いデビルシャークの遺体を処理場の大穴にいっせっのせ、で投げ捨てる。


「……ふう、ですね」

「えっとね、答えから言うと、理由はギルド長達が封印していた水魔龍エイムが復活しかけているから。で、その手下のデビルシャークや他の海洋系モンスターの動きが活発化してるってわけ」


(ああ、成程ね) 


 ギルドやこの港町の治安を守る任があるギルド長はきっと水魔龍エイムを討伐したいのだろう。


 封印していたって事はなんか理由があるはずだし、今度こそ完全討伐をしたいから新たな討伐メンツを募ってるわけか……。


 正直、魔王とか平和とか言われてもピンとこないけど。


 でも、俺もこの町に思い入れが出来ちまったしな。


「あ、あの、ウィンフィルさん! ギルド長は一体俺に何を期待してるんですかねっと……?」 


 俺はウィンフィルさんと一緒に死体処理場に2体目のデビルシャークの遺体をぶん投げながら問う。


「ふふ、そうね。運や機転とかもだけど、一番はそういうとこかな?」

「へ?」


(そういうとこって何だ? ウィンフィルさんの言いたい肝心なとこがさっぱり分かんねえ……) 


「そこが、貴方のい・い・と・こ・ろ!」


 意味深な内容を鼻歌交じりで歌いつつ、楽し気に砂場をかけていくウィンフィルさん。


(……はあ、女性って訳が分かんねえ……) 


 そんな事を考えつつも、何はともあれ、ギルド長を周りの皆をそして自分自身の今までの行動を信じて前に進むしかないなと思う俺でした。


 そう、俺が俺である為に……。

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