それからしばらくして……。
「あ、あの……」
「ん? 何かね? 料理のおかわりなら沢山あるぞ?」
「あっ、そ、そうですね……? あ、ありがとうございます……」
「おい! おかわりだ! じゃんじゃん持ってきてくれ!」
アグニスギルド長の一声で執事や複数のメイドさんと思われる女性が数人がかりでテーブルに料理の入れ替えをしていく。
(確かに料理は美味しいからおかわりも欲しかった。でも、そうじゃない)
本当は「アグニスさんの職業がチャラ男って本当ですか……?」そう俺は聞きたかったんだ。
けどさあ、内容が内容だけに聞きづらいしなあ。
「……多分僕の勘だと「ギルド長の職業がチャラ男って本当?」って杉尾は聞きたいんだと思うよ?」
「レ、レノア! お、お前っ!」
「え? 違うの……?」
「ッ……」
そ、そうだけど……「執事やメイドさんとかも今いるだろうが!」とレノアに言ってやりたかった。
「ああ、なるほど、それで……」
アグニスギルド長は今しがた持って来たエビ蒸しの殻をはぎ、黙々と食べているが?
(こ、これは流石に色々とマズイのでは……?)
「答えを先に言うとだな杉尾君……。私も君と同じ職のチャラ男だ。早い話、私は君の先輩なんだよ」
「……え、ええっ⁉」
(み、認めた……?)
パラディンのように
チ、チャラ男だって?
「冗談なもんか……。おいシャール、ミノア、テノアレ、俺の職業は?」
「チャラ男」
「どう見てもチャラ男でしょ?」
「7人妻がいるしスーパーチャラ男」
「……は? えっ!」
執事やメイドさんの即答とその回答内容に俺は料理を食べていた手の動きが止まる。
(ま、満場一致のチャラ男っ? し、しかもっ、身内ではなく執事やメイドさんがサラッと述べたぞ?)
「はっはっは杉尾君驚いたかい? まあ、英雄色を好むというしね?」
アグニスギルド長は俺の反応に対し、滅茶苦茶嬉しそうに笑っていますが?
(な、なるほど、確かにチャラ男の片鱗が色々見えてきましたが……)
「杉尾、でもこの人、魔王幹部を1人討伐した英雄だからね?」
レノアはチャラ男……もといアグニスギルド長の席の後ろにある壁に持っていたフォークの切っ先を向ける。
それを追う先に鹿の首の剥製? ……い、いや、ねじくれた角が頭部に3つ生えた龍の頭? が飾られていたのだった!
「それはね【炎の化身炎龍ギノアス】……47年前に私達が討伐した7魔将の1人の首だ……」
「……え、ええっ!」
(や、やっぱスゲー人じゃんこの人……!)
よく見ると、炎龍ギノアスの剥製の横に立派な装飾剣が飾ってある。
(多分アレで倒したんだよな?)
その時、俺は田舎町の飲み屋でマギデ族のママから聞いた話を思い出し素直に感心してしまう。
嫁さんが7人もいるのは、強い後継者がいる方がギルドも安定するからだろう。
現代の日本は兎も角、昔の大河ドラマでも大名は同じ環境だったしね。
海外でも中世は歴史ではそうだった。
だから、別に驚く内容では無いのだ。
「どうだい? 少しは満足したかね?」
「は、はい! お腹もいっぱいになったし、何故ギルド長が俺を同門と呼ぶかも……」
「そうか、じゃ本題に入る前に軽い運動をしようか……?」
「は、はい……?」
(魔王幹部の7魔将を討伐出来る腕を持つギルド長の依頼か……。一体何なんだろうか……?)
当然俺は身構えてしまう……。
が、聞いて見ると予想に反してとても素晴らしい内容だったのだ……!
♢
……数十分後ここは【セカンドビーチ】……。
港町の南側に位置する、ちょっとした海水浴場だ。
雨が上がり天気が良くなった為、人もまばらにいる感じだ。
更には海がとても綺麗で、深い先まで透き通ったエメラルドグリーン色をしているのがとても素晴らしい。
浜辺にはいくつか海の家みたいなのもあるし、見張り台もある。
(それに何といっても現代と同じで、み、水着着ている人が何故か沢山いるんですが⁉)
辺りを見ると、大小の2盛の魅力的なオレンジ色のマンゴー、メロンなどフルーツがブルンブルン揺れているのが散見される。
(うーん! この町の果物は豊作だなあ……)
『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男スタイルレベル7】チャラ男道に少し近づく』
(……何かスキルが上がったけど気のせいだろう、うん……)
「どうかな? 驚いたかい? とてもいい景色だろ?」
「……ええ」
この絶景と緑色のアロハ海パンに着替えたアグニスギルド長の言葉に、俺はそう言うしかなかった。
当然俺もお揃いのを着ている。
ちなみにレノアは長旅のユニコーンの召喚で疲れているので、例の如く絶賛昼寝中だ。
「ま、元々私も転生者だからな?」
「ああ、それでこの素晴らしい環境を作られたわけですね?」
水着も海の家も一国の主と同等の力を持つギルド長の力を持てば簡単だろうしね。
それはおいといてと……。
「……あの? ちなみに俺に頼みたい事って?」
「そうだな、まずここの治安の管理を任せたい。頼めるかい? まあ、当然報酬は弾むよ?」
「え? ……は、はあ、その俺で良ければ」
「そうか、ありがとう! ちなみに報酬は今日同様の食事とギルドへの宿泊つきと報酬金額だ」
(ま、まあ、目の保養しつつ町人が喧嘩しないように話せばいいなら全然美味しいし。むしろ毎日やりたい)