「……こりゃまた正面から見ると立派なこったな」
「うん、だってここは冒険者ギルドの総本山だからね!」
俺達は宿屋からぐるりと回って、冒険者ギルド総本山に来ていた……。
(……って、おい!)
「え、ええ? そりゃどーゆう……?」
「まあ、そこはギルド長に聞くのが早いと思うし、行くよ?」
俺はギルド、というよりは立派な大豪邸入り口前にある黒門前で立ち尽くしていた。
理由は、門前でガタイのいい屈強な男が2人、門番として静かに佇んでいたからだ。
1人は光り輝くダイヤモンドの鎧に槍を装備している。
(見た感じ、なにかしろの上位の騎士ってとこか?)
もう1人は佇まいからして、なにかしろの武術を得意とするマスタークラスの武道家とみた。
(なんか赤帯を締めた、ボロイ胴着を着ているしね)
「レノアか……」
その内の1人、屈強な武道家がのしりと進み、レノアに話しかけて来る。
「うん、数時間前に連絡した通り777番目を連れて来たよ!」
(ん? ……連絡していた? ……まあ、どうせ風魔法か召喚獣で連絡ってとこだろうけど)
ファンタジー系の知識が潤沢にある俺はそんな事で別に驚かない。
想定内だしね。
(そんなことより、どうやらこの門番と顔見知りの様だが?)
「なるほど、だが一応決まりだ。そうだな、今日の質問はだな、ギルド長の好きな魚料理は?」
(……なるほど、変化の魔法や変装対策で関係者共通認識の合言葉ってやつか)
「気分屋なんで、その日で変わる」
「……正解だ。保険でもう1つ質問するとしよう。ギルド長の形式職はパラディン、本当の職業は?」
「チャラ男っ……!」
「……ふむ、間違いない。本物のレノアだな、通れ……」
「はーい!」
……ふう、面倒な合言葉の試しも終わりやっと中に……って、ギ、ギルド長の職がチャラ男だとっ⁉
(い、今この門番とんでもない事言った気が……?)
「レ、レノア? こ、これは一体……」
レノアは俺の口を手で遮る。
「僕よりも本人から聞いた方が正確な情報が入るでしょ?」
「……あ、まあ……」
(し……しかし芝生の上にカラフルな花で飾られたフラワーロードか……。何とも贅沢な)
俺はレノアの後を屋敷の風景を見ながらついていく。
真正面にはフランススタイルの西洋建築の邸宅が見え、その両脇には100年は経つであろう立派な針葉樹が対になって植えられている?
(……じ、実際に見て見ると、迫力あるな……)
この屋敷と門番の感じ、ギルド長は1国の領主並みの力を持ってそうであるな。
レノアの奴が冒険者ギルド総本山って言っていたしね。
俺らはヨーロッパ式である綺麗な庭園のフラワーロードを通り、そんな大豪邸の中へ入っていく。
入るとカウンター前に接客用のソファーが配置されているのが見え、天井には
(い、田舎町のギルドにはこんなもの無かったよな)
俺達は一階の冒険者ギルドカウンターの受付嬢に軽く話をし、そのまま2階に進んでいく。
階段を上がり、正面の装飾入りの豪華なドアを開き、その中に入るルノア。
……俺も当然その後をついて行く。
広々とした部屋の中に入ると、そこには大きい長方形のダイニングテーブルが見え、なんと様々な海鮮料理などが潤沢に並べてあったのだ!
よく見ると、その一番奥に黒の貴族服であるプールポワンを着こなした初老の……が、しかし
「ギルド長失礼します! レイン=ノア、777番目を連れ
レノアは
「おお、長旅ご苦労……! うむ、私の想定より早かったな? 流石は優秀な召喚士だ」
威厳を感じられる、高く優しい声が広い部屋に響き渡る。
「は、はい! 有難いお言葉ありがとうございます!」
「はは、まあ、座りなさい……。そこの777番目もだな? まあ、美味しい食事をしながらゆっくり話そうじゃないか?」
「は、はい、し、失礼します……!」
俺はギルド長の雰囲気に気圧されながら、ゆっくりと慎重に椅子に座る。
俺はギルド長の姿と声を聞き、一発で感じ取る。
(こ、この人間違いなく偉人だ……!)
現在で例えるなら、二刀流で奮闘している某野球選手。
若いのに多数の将棋タイトルを持つプロ棋士……。
オリンピックのメダリスト達……。
様々な有名映画監督、一流企業の社長等々……。
そんな輝かしい雰囲気をこの人は持っているのだ!
ギルド長とレノアは黙々と美味しそうに料理を食べて行っているが、俺は緊張の余りそんな気持ちになれない。
「ああ、そういえば、自己紹介がまだだったね? 私は700番目の転生者セブン=アグニス、ここのギルド長をしているものだ。以後よろしく……」
「……えっ! 貴方も転生者なんですね? お、俺は杉尾といいます。最近転生したばっかりで右も左も分からないですが……」
「そうだ、私と君は色んな意味で同門なのだよ……? まあ、というわけでだ、そう硬くならず、仲良くしようじゃないか?」
「は、はい」
そうは言ったものの、俺はガチガチに緊張しており、手はすっかり止まっている状態だ。
「どうした? 折角の美味しい料理だ、冷めないうちに早く食べてもらいたいのだが?」
「そうだよ杉尾! 早く食べないと僕が全部食べちゃうよ?」
「あ……」
おそらく俺の緊張をほぐす為にこの話をしてくれたんだろう。
(いい人だな……)
何というか、地位が高いだけでなく人格者だなと俺は感じた。
という事で、俺はお言葉に甘え料理を頂くことにした。
「で、では、いただきます!……て、このエビの料理う、うまっ!」
「はは、まあ、ゆっくり食べるといい。幸い時間は沢山ある……」
アットホームな雰囲気に楽しい食事、威厳と人格を備えた立派なギルド長か……。
……だからこそ、俺は信じられなかった……。
この人の本職がチャラ男だってことが。