それから俺達は町の冒険者ギルドにて登録手続きを終え、複数のクエストを受注し、その目的地の場所へ向かう事になった。
ちなみに俺は宿屋でリュックに入っていた、冒険初期装備に着替えていたりする。
なお、女神様がリュックに入れてくれていた物は①金貨1枚②冒険初期装備の緑の麻服上下③始まりの町ファースト周辺地図の3点セットであった。
俺とレノアはユニコーンに跨り、その地図を頼りに大草原を軽やかにかけていく。
爽やかな風が吹き抜け、ユニコーンの銀糸の鬣がまるで波のように揺れ、周囲の草木がさわさわと揺れているのがなんだかとても幻想的だ……。
「……ああ、なんだか風が心地よいな……」
「……そうだね。それにほら! 草木の揺れる音がまたいいでしょ! 僕さ、これが好きなんだよね!」
成程、確か聴覚効果ってやつかな? なんだかとっても癒される……。
(社畜時代じゃ、こんなのんびりしてる時間も無かったし、ああ、なんかいいなあ……)
贅沢言わせてもらえるなら、この相棒がシスターだったら完璧であったし、きっと俺は感激で涙流していただろう。
というか、そうなるともうそれはデートになるわけでして、ええ。
『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男スタイルレベル2】チャラ男道に少し近づく』
……なるほど、【チャラ男スタイル】は俺の邪な願望を考えると上がっていくのかあ。
(……これ、果たして上げていいスキルなんだろうか?)
最もチャラ男道を貫き通すには上げるしかないのだろうけど。
それはさておき、レノアと一緒にいると何だか癒されるな……。
言葉使いも声もキッズっぽいし、というかペットみたいに思える感覚だからかな……?
それに何だかこいつ、昔俺が飼っていた小型犬に似ているんだよね。
愛くるしい笑顔がとても可愛らしかったのを俺は今でも鮮明に覚えている。
とと、そんな事を考えていると、真正面にモコモコした白い何かが見えてきましたが?
それは近づくと、か細い可愛らしい声で鳴いていたのだ!
「見て! 羊の群れだよ!」
「あ、なるほどね」
俺達は大量の羊の群れに遭遇し、レノアはその中にいた羊飼いの青年に軽く手を振る。
(ああ、そうなんだよ、こいつは誰に対しても愛嬌があるんだよなあ……)
そんなこんなで、数十分後……。
「……あ、杉尾! そろそろ目的地のラウディ山に着くよ!」
「……お、どれどれ?」
俺達は真正面に見えてくる、樹木が生い茂ったなだらかな斜面を登っていく。
「……なあ? ここに来る途中モンスターが襲ってこないのは何故なんだ?」
さっきの羊もそうだが、今周囲に散見される鹿や猪も俺達を見て襲ってはこない。
「……え? ああそうか、杉尾は転生者だからここいらの知識が無いんだったよね」
「うん、そう」
「ここいら田舎町ファースト周辺全域にはアクティブモンスターは生息できないからかな」
「……え? そりゃまたどうして?」
「理由は1番目の転生者の張った強力な結界が健在だからさ!」
「へー! ちなみにその人なんて名前?」
レノアは指を折ったてて得意そうに説明する。
「【勇者ファースト!】 伝説の魔法剣の使い手さ! ちなみにあの田舎町に結界を張ったことから町の名前は……」
「まんまファーストか。なるほど町にはそんな歴史があったんだな……」
「ま、もう777年前の昔話だけどね。あ、目的の場所はここだから降りるよ!」
「なるほど、よいしょっと」
俺はユニコーンから下馬し、周囲をゆっくりと見回す。
(良く見ると、なんか青色の見たことない花が周囲に沢山咲いてるんですが……?)
その中に赤い花や黄色い花などもチラホラ見られる。
「なあ? レノア。もしかしてこの青い花って?」
「そう! 全部目的の薬草だよ!」
「じゃあ、この赤い花は?」
「それは毒消し草。……っと! 毒があるんで、それは僕に任せてね!」
(なるほど、【毒を持って毒を制する毒消し草】か……)
特に深い意味はない、多分。
「この1つだけある黄色……? いや、金色の花は何?」
「え? あっ、それは大当たり! これはね……」
レノアは金色の花を優しく引き抜き、それをユニコーンの角にそっと巻く。
(見た所、レノアのそれは意味がある行動に見えるけど……?)
「なあ? それ何なの?」
「ん? えとね、これはエリクサーの材料になる希少な花! その名もゴールドリリー!」
「……えっ? えええ⁉」
(エリクサー、確か最高クラスの回復アイテムにして希少で高価な物だった気がするんですが?)
そう、ゲームの知識があるからこそ、出てしまう嬉しい悲鳴ってやつだったりする。
「となると、もしかして加工すると、めちゃ高くなるやつ?」
「うん、そう! ちなみに加工前の花で金貨1枚。加工後はなんと、金貨100枚になるよ!」
(か、加工しなくても金貨1枚……⁉ ファーストの町ならしばらく寝泊り出来る金額だぞ?)
それを加工したら100倍とかやばすぎるし、あまりにも値段がぶっ飛んでる。
「な、なあ? な、何でそんなに値段の価値が変わるんだ?」
「杉尾は加工物が、基本材料費より高くなる理屈は分るよね?」
「ああ、手間がかかる加工費ってやつでだろ……?」
「そ! この世界って、加工にユニコーンの力が必須でね」
「あ、それで角に巻いてたのか!」
「正解っ! それにこいつに触れる人が限られているからね? しかも加工の仕方を知っている人も希少なんだよね」
「あ、じゃあ、加工素材でそれならエリクサーはもっと高いのか?」
「そう、ちなみに完成品のエリクサーは1つで金貨1000枚ね!」
「す、すげっ!」
俺はその事実にしこたま驚いていたし、何故レノアがその知識があり、ユニコーンを従えているかにも興味が湧いてきたのだ。
『①職業チャラ男スキルの内訳 努力により追加スキル会得 【チャラ男知識レベル1】金儲けの知恵を知る 頑張れチャラ男!』
(……いや、マジ勉強になる!)
そんなこんなで、そこいらの素材を収穫して数時間後……。
俺達はそれらを大量にリュックに詰め込み、田舎町ファーストの宿屋に向い帰宅中であった。
「いやー、沢山取れたなあ」
「そうだね! やっぱゴールドリリーが取れたのは大きかったかな」
俺達はユニコーンに跨りまったりと談話中で、その真正面にはオレンジ色に輝く太陽が沈みかけているのが見える。
「……あー運動したから、お腹ペコペコだよ……」
「お、お前っ! あれだけ昼に食っててまだ入るのか? お前の胃袋マジでどうなってんだよ、たく……」
ま、まあ、なんにせよ腹も減ってきたし、丁度良かったなと俺は思う。
「なあ? ゴールドリリーって結構取れる物なのか?」
「ううん? ……あの山に1つあるか無いかの希少品だよ? それに見つけるには条件があってね……?」
「え? なに? じゃ、それ教えてくれよ」
お金になるのが分かったし、もし条件があるなら是非知っておきたい。
「あれって、運がいい人じゃないと見つけられないんだよね……」
「へ? でも、レノアも見つけて採取していたじゃん?」
「……あれは杉尾が見つけて視認した後だからね」
(成程、レノアは見つけれなかったという事か。てかコイツ、やっぱ色んな専門の知識持ってるな……)
『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男知識レベル2 金儲けの知恵アップ』
(だよな! うん、間違いない!)
「……そうか、ちなみにその運がいいかとか、お前なんで分るの?」
「うん、何となくだけど。僕召喚士だし、その手の勘はいいんだ!」
ああ、確かにコイツ冒険者ギルドでも職業欄に召喚士って記入していたのを俺は視認したしな。
「そうか……って、ん? じゃ、もしかしてこのユニコーンは……?」
「そ、僕が召喚して使役している召喚獣! ね? リギウム?」
ユニコーンのリギウムはレノアの声に反応し、軽くいななく。
「な、なるほどなあ……」
色々と合点がいった。
「あ、ちなみに今日は冒険者ギルドで換金はしないから!」
「え? 何で?」
「理由はゴールドリリーを加工するのに時間がかかるから」
レノアはユニコーンの角に巻いたゴールドリリーを指さし、にっこりと微笑む。
「ああ、じゃ、仕方ないよな」
「あとはしないというより、時間がかかるから出来ない」
「まあ、大金だと前もって、事前申請してってやつか」
「そ!」
そんな会話をしていると真正面に田舎町ファーストの街並みがうっすらと見えてきた。
それからしばらくし、食堂でたらふく飯を食った俺達は俺の宿泊部屋で、薬草等の加工作業を黙々とこなしていたのだ。
(うーん、この地味な作業、チャラ男のする仕事ではないと思うんだけど……?)
「でね、杉尾! 薬草は加工して全部ポーションかハイポーションにするから」
「ほい、じゃ、ここに全部並べとくな」
「あ、毒消し草は直接触るとダメだからね!」
「はいはい……。ゴム手袋はめて、そっちに並べておけばいいんだろ?」
こんな感じで、2人で仕分けし、それを加工してをひたすらしていくこと数時間後……。
「ふう……! あらかた終わったので、最後にゴールドリリーの加工をして終わるね?」
「は、はひ……」
そう、過労ですっかり
(ま、まあ労働の成果ですね……)
ちなみにこれらは、レノア曰く「全部自分達用の道具として使う予定」らしい……。
ちな、その理由は「どうせ冒険で使うし、自給自足だとお金がかからないから」とのこと。
『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男知識レベル3 金儲けの知恵アップ』
(だよなあ、アイツすげえよマジで……)
で、俺達は宿屋の外の馬屋に移動することにした。
「じゃ、程よい時間になったし、ゴールドリリーの加工を始めるよ……」
……馬屋からうっすらと覗くは闇夜に輝く満月の光……!
レノアはユニコーンの角に巻かれ、満月の光を充分に浴びたゴールドリリーの様子を見つめているようだが?
(見ている感じ、なんか品定めしてる気がするんだよな)
分かりやすく例えると、料理の火加減を見ている感じに似ている。
「……うん! 十分に満月の光を吸って、ルナのマナで満たされているね」
「お? てことは加工出来るってこと?」
「そ! これからは集中力使うから黙っていてね?」
「あ、ハイ……!」
俺も金貨100枚の邪魔はしたくないので、大人しく黙っておくことにした。
『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男スタイルレベル3】チャラ男道に少し近づく』
(……ハイ、ゲスイ思考ですいませんね?)
俺は海より深く反省しました〇。
『①職業チャラ男スキルの内訳 努力により【チャラ男スタイルレベル4】から派生 光のチャラ男道に少し近づく』
(……は? ひ、光のチャラ男? な、何それ?)
スキル派生は嬉しいが、ハッキリ言って意味がサッパリ分からん?
そもそも論で言うと、職業にチャラ男があるのも謎だけどな!
月光を浴びているゴールドリリーに手をかざし、何やら不思議な呪文を唱えレノアを見つめながら、俺は一人物思いにふけっていた。