(さて! じゃあ冒険に出る前にホテル……じゃなかった宿をとりますか!)
色々リュックの中身を整理したいし、女神様が言っていた追加の道具も気になる。
アイテムやスキルの整理整頓は冒険の基本中の基本だしね!
(と、その前に宿に泊まるお金はと……)
俺はリュックの中に手をいれる。
すると、不思議な事に1枚の金貨がでてきたのだ!
なるほどこのリュック、どうやら手を入れると欲しい物が自動的に出て来る仕組みになってる模様。
それはさておき、この金貨の人物の顔、女神アステラ様にくりそつだ。
となると、これは間違いなくこの世界の貨幣。
更には女神様が「初期アイテムとしてリュックに入れてくれたもの」とみてよいだろう。
問題はお金がこの金貨1枚のみという事実。
(うーん、となると価値が分かんないし有効活用するしかないかなあ……)
という事で、俺は迷うことなく最寄りの宿屋に向かうことにする。
そんな最中、レンガ道を歩いていると道中で見かけるのは西洋の中世世界の服装の人々……。
作業着を着て野菜畑を耕している農家のおじさん、果物を露店で売っている小太りのおばちゃんもいた。
稀に、プレートメイルを着たいかつい戦士やねじくれた木の杖を持った初老の魔法使いっポイ人なども散見される。
なるほど、この感じ良く見る異世界転生の世界って事で間違いなさそうだ!
(折角なんで色々異世界を楽しみたいし、何だかワクワクしてきたなあ!)
そんなこんなで、数分後……。
俺は二階建ての木造りのシンプルな宿に到着する。
「あのっ、すいませーん!」
「あいよ!」
受付の木造りのカウンターから、初老のエプロン姿の元気なお婆さんが俺を出迎える。
外の太陽の上り具合、それに焼き魚のいい香りが漂ってくるところを見ると昼飯の支度中だったってとこだろうな。
「あの、これでこの宿に何日間泊まれます?」
「……んん? どれどれ?」
おばあさんは細かった目を見開き、まじまじと俺の掌の上の金貨を見つめる。
「……ふむ? この金貨の価値が分らんとは。お前さん、さては異世界からの転生者じゃな?」
「当たりだし、やっぱ何人か此処に来たことあるんだな?」
俺は驚くことなく淡々と作業のように喋るお婆さんの態度に、軽く頷く。
「そうかやはりか……。そうじゃな、その金貨1枚で此処で好きなだけ飲み食いし、宿も泊まり放題出来るぞ?」
「じゃ、それでいいよ!」
俺は爽やかに婆さんに笑いかける。
『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男スマイルレベル2】にアップ! 会話相手を明るくし、警戒心を解く』
(ありゃ? 何かいつの間にか派生スキルが増えていて、しかもレベルアップしたぞ? そういや、なんか職業安定所から出る時に何か聞こえてたような?)
「ほ? ほっほ……。お前さん真っすぐな人間じゃなあ? 転生者にしては珍しいタイプじゃな……」
「え? そうか? まあ、それなりの打算計算はあるけどな!」
(やはり此処に別の転生者が来たことがあったのか……)
珍しいタイプって言われても、比較対象がいないし分かんないけどな。
「ほっほっほ、よかろう! じゃ、早速昼飯を食べていけ……」
「ありがとよ婆さん! 丁度腹が減っていたところだしな!」
その時、宿屋の外でざわつく声が聞こえてくる!
「すまんな婆さん! ちょっと気になるから見て来るわ!」
気になった俺は金貨を婆さんに手渡し、宿屋の外に小走りで出ていく。
「……ほ……なるほど、流石は777番目の選ばれし転生者、器もでかいの……。どれ支度してまっとくとしようか……」
外に出ると角が生えている馬……あ、これユニコーンか……? に乗った子供がぐったりとし明らかに弱った状態で跨っていた。
(なるほど、それで周りがざわついていたわけか)
『①職業チャラ男スキルの内訳 努力により追加スキル会得 【チャラ男の勘レベル1】??? 頑張れチャラ男!』
(って、え? はあ? 何やら新しいスキルをまた覚えたんだけど? しかも、裏スキルっぽいぞ? な、なんで? あっ! も、もしかしてこの子供に関係しているのか……? 俺の勘だとこの手のやつは……よ、よしでは……!)
「お、おい! お前大丈夫か!」
俺はとりあえず、ユニコーンに跨った子供に近寄り声をかける。
「ご、ご飯、お、お腹が空いて……」
(……な、なるほど確かにお腹が鳴っている音が聴こえてくる。こ、こいつっ! 驚かせやがって! てっきり死にかけているものかと……。ま、まあ、いいや)
「うん、じゃ俺についてこい。飯おごってやる」
「た、助かります……」
俺は弱った子供をおんぶし、宿屋に連れて行く事にした。
丁度飯を食べようとしていたし、あの人の良さそうな婆さんなら文句言わんだろうしな。
『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男の勘レベル2】にアップ! ???』
(やはり、コイツ何かあるな……)
俺は今まで培ったゲームや転生物の知識で、何故かそう確信していた。
それから数分後……。
「……で、お前何処から来たんだ?」
「うごっ、うごっ! はむ゛がびな゛びのぐにがらっ! うまっ!」
(えっと? な、何て言ってるかわかんねえ……)
ということで、俺達は宿の食堂で仲良く並んで昼飯を食べていたりする。
俺の隣でもごもご言っているやつは、さっきユニコーンに跨っていた子供だ。
こいつの栗色のおかっぱ頭が大変微笑ましい……。
肌の色がややこげ茶色なのと耳がややとんがっているのは、人ではない亜人なのかもしれない。
(この感じだととりあえず、空腹が癒えるまで待った方が良さそうだな)
しかし、このままだと木づくりの丸テーブルに置かれた、ステーキ・シチューなど山積みされた料理をコイツ一人で全部食っちまいそうな勢いだ。
本来ならこのボリューム、子供の食える量じゃない。
(お前あれか? 女神様が作った異次元
という事で、それらが無くなる前に俺は目の前のサンマの塩焼きに似た料理を食べることにした。
フォークで魚の身を一つまみし、ひょいっと口に入れる。
「お、うまいな……!」
(この魚の正式名称は知らんけど、サンマみたいで上手い! 旬の物だからか油がのってて、シンプルに塩だけでいける!)
ということで、こりゃ、チャラ男らしく飲むしかねえ!
「婆さん! ビール一杯ジョッキで!」
「あいよ!」
俺は出て来たそれを一気に飲み干す……!
自身の
「……あーうめえっ! っ婆さんおかわり!」
「ほっほ! いい飲みっぷりだねえ! はいよ!」
(いやあ、やはり平日に昼間から飲むビールは美味しい! ま、まあ、此処だと毎日が日曜日なんだけどね……)
『①職業チャラ男スキルの内訳 努力により追加スキル会得 【チャラ男スタイルレベル1】チャラ男道に少し近づく 頑張れチャラ男!』
こらこら、これ努力なんか? あと何だよ、チャラ男道って?
「……あ、僕も!」
「了解!」
隣でステーキをもしゃもしゃ食べてる子供も、生意気にもビールを所望しようとしている。
(い、いかん、これは止めねば! 色々とマズイ……)
「……あ? お前子供だろ?」
「実はこう見えて僕、大人なんだよね……!」
「な、なに?」
(……この感じ、もしかしてあれか? コイツ姿は子供でも、種族的に大きくなれない成人済って種族か? ファンタジー系の物語では常識のアレかあ……)
だとすると察するになんか訳ありっぽいし、飲ませた方がいいか。
「よし飲め! 俺のおごりだ! 飯も好きなだけ食うといい」
「わーい、ありがとう! じゃ、
「こらこらっ! 今言うか? その言葉っ!」
それから数十分後……。
俺は子供が満足し、膨れた腹をさすったのを見計らい色々訪ねることにする。
「……で、お前何処から来たんだ?」
「さっきも言ったけど、遥か南の国からかな……?」
「……そうか」
(そんなこと言われても、俺この世界に来たばっかりで土地感さっぱりなんだよね……)
正直ここは何処? 状態である。
理解出来ているのは職業はチャラ男という事だけ。
勿論納得は出来ていないけどな。
という事でだ……。
「なあ婆さん、ここはなんて町でどんなところなんだ?」
そう、俺が婆さんに1枚しかない金貨を払ったのは、当面の宿と食事もだけどここ異世界の情報を集める為でもあった。
(宿と情報と時間が金で買えるなら安いもんだ)
正直、異世界で一番怖いのは
「ここは田舎町ファースト、農業が盛んな辺鄙な町じゃよ。ああ、そうそう! 転生者連中は皆、始まりの町と呼んでいたな……」
「なるほど、そのまんまで分かりやすいな」
さっきも道中で見たが、確かに畑などで農作業している連中が多かったし、納得である。
広大な平原が広がり、周囲には山も海も無いので作業はしやすいだろうしね。
(さて、町の情報は分ったし、次のステップにいってみますか)
「なあ、婆さん? この世界で俺達転生者が稼げそうな仕事って無いのか?」
「そうさなあ……。手っ取り早いのが冒険者ギルドに登録し、モンスター退治やら薬草の採取やらして報酬を貰うのが早いじゃろうなあ……」
(なるほど、基本は異世界まんまですね)
「えっ? あ、あんた転生者なのか?」
驚いた顔した子供が、金色の瞳でこちらを見つめているが?
俺は澄んだその瞳に少しドキッとしてしまう。
『①職業チャラ男スキルの内訳 【チャラ男の勘レベル3】にアップ! ???』
(は? 何故? このタイミングで? これが何に反応しているかがよくわからん……)
それに俺はシスターみたいなセクシー系がタイプなんだ!
だからこそ、その証拠に口説き系のスキルがシスターには自動発動した。
そして、こいつには当然発動していないし、当然そこの婆さんにもだ。
何故ならキッズスタイルとご年配の方は俺の恋愛の対象外だからだ。
(……ま、まあ、いい)
「そうだな、そういや自己紹介がまだだったな。俺の名前は杉尾。で、お前は?」
「僕の名前はレイン=ノア! 略してレノアでいいよ! で、杉尾! 唐突で申し訳ないんだけど、冒険者ギルドに用事があるなら食事のお礼に連れて行くし、登録方法も教えるけど、どう?」
「お? そうか……! 話が早いし、助かるな。じゃ、すまんが頼むわって、てかお前、この町のギルドの場所わかるの?」
(確かコイツも流れ者のハズだろ?)
「うん、だってこの隣だもん!」
俺はレノアが指さした方向を見る。
なるほど、確かに食堂の窓の外には、【冒険者ギルド】と書かれたでっかい木制の看板がかかげられた立派なレンガで出来た建物がそこにはあったのだ。