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悪魔フラウダートル

 クオ・ヴァディスは王都の上空を飛び回りながら仲間達に指示を出して悪魔を撃退していった。彼の剣では悪魔を傷つけることができないが、悪魔の凶爪から人々を守ることはできた。ロイやアントニオ隊の精鋭達が次々と悪魔を武技で仕留めてくれるので、さほど不便を感じることもない。ルドルフとインソニアは住民の避難を誘導して回った。


「王都で暴れていた悪魔達はこれで全て仕留めたか……妙に弱かったのが気になるな」


 悪魔達は通常の攻撃が効かないせいで恐ろしい被害を出したが、武技を使えば驚くほどあっさりと倒されていった。過去より伝わる悪魔の恐ろしさとはかけ離れた弱さだ。悪魔の中でも戦闘力が低いと思われるクレヴォーを剣で足止めした時の感覚と比べても、比較にならないほどに弱かった。だからこそ敵の恐ろしさにアントニオが気付けず、被害が拡大したのだが。


 そのアントニオは先ほど悪魔の一体を倒しに向かったが、戻ってくる様子がない。


「まだ肝心の魔術師を倒していない。もしやアントニオが遭遇したのか」


 王都全体を空から俯瞰していたクオ・ヴァディスだが、話に聞く魔術師の姿は見つけられずにいた。ペーガススに乗って集まってきた仲間達と共に、先ほどアントニオが向かった位置へと移動する。


「くそっ、身体がうまく動かない」


 ティアルトの魔法を食らったアントニオは意識を保っていたが痛みと痺れで起き上がることもできずにいた。悪魔達は離れていったが、あまり遠くには離れていないようだ。どうにか敵の情報を誰かに伝えたいと思って空を見上げると、四体のペーガススが飛んできていた。


「パルミ……いやクオ・ヴァディス様だったな。私が戻らないことで敵の存在を察知されたのだろう。助かったが、情けない姿を見せてしまうな」


 アントニオは尊敬する師の前で二度に渡り敗北する姿を見せてしまうことに悔しさを感じていた。あの剣士を難なく倒した師の強さが目に焼きついている。いくらかは腕を上げたつもりでいたが、師の背中はまだ遥か遠くにあった。自然と涙が顔を伝うのを感じる。本当に情けない男だと自分を責めた。


「アントニオ! よかった、生きているな。これを飲むんだ」


 少しして、倒れているアントニオを発見したクオ・ヴァディスがハイポーションを飲ませる。回復したアントニオは、すぐに敵の情報を伝えた。自分の感情などは後回しだ。一番大事なことは王都に攻め込んできた敵を排除すること。その為に最善の手段を選び続けるのだ。


「敵の魔術師は悪魔フラウダートルの力で死霊化していました。残る敵はラルヴァと悪魔の二体です。奴等はあちらの方向に移動しました」


 簡潔に状況を説明する。死霊化したと聞いたクオ・ヴァディスは顔をしかめたが、すぐに頷いて次の行動をアントニオに言いつける。


「わかった。君は部下を集めてきてくれ。悪魔が相手なら武技の使い手が多い方がいい。私達はまず情報収集を図る。敵のボスと未知の悪魔が相手だ、少人数でいきなり戦いを挑むのは無謀だろうからね」


 クオ・ヴァディスの指示には堅実さがあり、納得できる。何より自分と部下達を重要な戦力として数え、頼りにしてくれていると伝わってきた。傷ついたプライドが持ち直す。クオ・ヴァディスがそれを意図したのかはうかがい知れないが。


「わかりました! すぐに隊員を集めて追いかけます」


 アントニオが元気よく応え、ペーガススを借りて部下を集めに向かった。


「よし、我々はあの魔術師の後を追うぞ。ロイとルドルフはすぐにでも奴を攻撃したいだろうが、悪魔の力を探る必要がある」


「ああ、大丈夫だぜ」


「インソニアは悪魔のこと知らないのかー?」


 兄弟は落ち着いた態度を見せる。悪魔クレヴォーの力を教えてくれたこともあり、ルドルフはインソニアに悪魔フラウダートルの情報を持っていないかと期待のこもった眼差しを向けた。


「あっ、はい! 悪魔フラウダートルといえば、分身を作って敵を欺く悪魔です。分身をいくら倒しても本体にはダメージを与えられないようですね。神がどうやって倒したのかは伝わっていません」


 インソニアは伝説に語られる悪魔フラウダートルの能力を解説した。これを聞いたクオ・ヴァディスは、さっきまで王都で暴れていた多数の悪魔がフラウダートルの分身なのではないかと推測する。


「それじゃあ、どうやって本体を探せばいいんだ?」


 ロイが首を傾げると、ルドルフが元気よく答えた。


「悪魔は嘘が言えないんだから、本体なのか聞けばいいんだ!」


「どうかな、どの個体に聞いても話をはぐらかすような気がする。それよりルドルフの武技で悪魔の能力を解除してやった方がいいんじゃないか?」


 ルドルフの案は現実的ではなかったが、彼の武技が役立つだろうとクオ・ヴァディスは考えていた。


「なるほどー!」


 いずれにしても自分が役立てそうなのでルドルフは嬉しそうにする。


「ですが、本体がどこかに隠れていたらいくら破魔狼吠を使っても見つからないと思います」


 インソニアはさすがに楽観できないようで、もっともな指摘をする。しかし現状彼等が知る情報だけでは、より良い案が出るとも思えない。


「ところで、悪魔って魔術師と契約することでこの世界に出てこれるんだよな?」


「ああ、そう聞いているよ」


 ロイが何かを思いついたように声を上げた。そして仮説を述べる。


「じゃあ、悪魔を無視して魔術師をぶっ殺せば悪魔もいなくなるんじゃないか?」


 ロイの仮説は言うまでもなく正しい。その上で、彼の言葉を聞いたクオ・ヴァディスが悪魔の意図を推し量った。


「そうか、だから悪魔は自分を召喚した魔術師を不死者に変えたんだ。寿命で死んだりしないように」


 そこまで話をすると、自然に方針が決まった。狙うは魔術師の命だ。ラルヴァはホルド村でも滅している。悪魔と違ってクオ・ヴァディスにも倒せる相手だ。一行は希望に満ちた表情で、二体のモンスターを探すのだった。

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