「はぁ?なんで私がここで鍵山さんに殺されないといけないんですか。」
「お前が不必要なまでの殺人を繰り返しぃ!その結果死亡した一般人が複数人存在するからだぁ!」
「だから殺してないですって!」
鍵山が言っている『不必要な殺人』。それは闇乃にとっては『必要な犠牲』だった。そもそも闇乃と鍵山では根本的な考え方が違う。鍵山は闇乃と同じ施設、環境で育ったとは思えないほど人道的な人間だ。人を殺すことを心の奥底では躊躇し、人を1人殺すごとに罪悪感を覚える。仕事だから今は任務を遂行しているだけで仕事が好きなわけではない。しかし闇乃は人を殺すことに躊躇がない。そもそもそういうふうに育てられたから闇乃にはあまり人道的なものがない。『かわいそう』という感情がないわけではない。泣いているのを見たり、恐怖で顔が歪んでいる人を見ると可哀想だとは思う。しかし闇乃は『殺人』という行為に可哀想とは思わない。そういう風にプログラミングされていないから。
「お前と話しても無駄だってこともわかってるぅ・・・だからぁ!今ここでお前を殺すぅ!」
「鍵山さん!私は仕事上必要なことをしただけで!」
「黙れぇ!もうお前に話が通じないことは理解したぁ!だからここでこれ以上の犠牲を出さないためにもコロスゥ!」
鍵山は指と指の隙間に大量のナイフを挟んでいる。それはまるで曲芸師がサーカスで風船を割るパフォーマンスをするときかのようなとてつもない量だった。
鍵山の戦い方を知っている闇乃はすぐさま懐からピストルを取り出し鍵山に対して射撃を行う。しかし鍵山は銃弾にナイフを投げて全て無効化した。投げた後のナイフは鍵山が装着している手袋についている装置で勝手に鍵山の手に戻っていく。
(鍵山さんのあの手袋。どういう原理で動いてるんだ?ワイヤー?それにしては意図が見えないし動きも不自然だし・・・。)
「お前は俺に近づけないぃ。俺はお前に遠くから攻撃できるぅ。じゃあお前が勝てる確率は0%ダァッ!」
鍵山が指に挟んでいる8本のナイフを闇乃に対して高速で投げる。そのスピードは先ほどの縦断を無効化するために投げたナイフのスピードが遅く見えるほど尋常ではないほど早く、闇乃は避けるだけで精一杯だった。鍵山はナイフを投げた後にすぐさまナイフを手袋を使って回収し、また投げ直す。一度目の回避で少し耐性が崩れていた闇乃は全て避け切ることができずに、一本のナイフが足を掠めた。
「っ・・・。」
「おいおい勝負はまだ始まったばっかだぜぇ?そんなんで大丈夫かぁ?ま、すぐに終わりそうだけどなっ。ギャハハハッ!!!」
「・・・後輩くん。ちょっとの間時間稼ぐから鍵山の手袋車に置いてあるボルトアクションで狙いうって。」
「え、えぇ!?僕ですか!」
「ごめん、ちょっと余裕ないから。3分後に動き止めるよ。」
闇乃が簡潔に後輩に指示を出すと鍵山に向かって走り出す。その指示を両断された車の後ろで隠れながら聞いていた後輩は車の中を探す。
鍵山は闇乃の接近に少し驚いた様子を見せたがすぐさまナイフを使って迎撃を試みた。闇乃は腰のショルダーからナイフを抜くとナイフを弾きながら少しずつ接近していく。鍵山が投げるナイフは銃弾よりも速い。当然全て弾き飛ばすことはできず、数本は体を掠めたりもするが致命的な怪我は負うことなく鍵山に接近していく。
「フゥン!近づければお前に勝機があるとでも思ったのかぁ!」
「キンッ 思ってるよ。そもそもキンッ 私鍵山さんがナイフ以外で攻撃してるところ キンッ 見たことないので!」
「そもそも何故そんなにナイフを喰らっても前進できるのだぁ!」
「私は キンッ 腐ってもアサシンキンッ なんですよ。死ぬ覚悟ぐらいはあります。」
「その心構えはいいと思うがぁ!|不必要な人間を殺していい理由にはならないぃ!」
鍵山はナイフを投げ続ける。しかし闇の揉めがだんだん慣れてきたのか少しずつナイフを防ぐ量が多くなっていく。だんだんと鍵山に近づくにつれて鍵山はナイフを投げるスピードを上げるが闇乃は止まらない。
「3分たった。後輩くん!やって!」
闇乃は最後に全力で鍵山に向かって足を踏み出す。鍵山はゼロ距離で闇乃に向かってナイフを投げようとしたが投げる前に闇乃にナイフを全て指から叩き落とされる。闇乃はそのまま鍵山に組つき体を固定した状態で両手を後輩の方に向ける。
「後輩くん!早く!」
「了解です!ぶれさせないでくださいよ!」
闇乃が視線を向けると両断された車の助手席でボルトアクションを構えている後輩の姿が映った。後輩は鍵山の手につけてある手袋に狙いを定めてボルトアクションを放つ。
「闇乃ぉ。なんで俺があんなに早くナイフ投げれるか知ってるかぁ?」
「知りません。けどこれでご自慢のナイフは封印されます。」
「俺がなぁ。高速で動いてるからなんだわぁ。」
瞬間、鍵山がボルトアクションの銃弾を手のひらで受け止める。一瞬思考が停止した闇乃の隙を見逃さずに鍵山は拘束から抜け出し、銃弾を投げ返すことで後輩が次の弾丸を装填しようとしていたボルトアクションを破壊する。闇乃はすぐさまナイフで鍵山の首を狙って振りかざすが簡単に避けられ、さらに鍵山の強烈な蹴りを腹にモロに喰らう。そのまま闇乃は吹き飛び、壁にめり込む。蹴り飛ばされた闇乃の口からは血が流れていた。
「ガッ・・・。なんでボルトアクションの球を受け止める事が・・・。」
「理由は二つぅ。この手袋『特殊装甲兵装』が戦車の攻撃を受けてもびくともしないほど強固なものだったからぁ。それともう一ぉつ!銃弾を受け止めるとき俺が超高速で手のひらを振動させ銃弾の衝撃を相殺したからダァ!」
「んなばかな。だって私のボルトアクションは対物兵器としても運用できるほど強力ですよ?」
「それよりも俺のスピードが優っていただけダァ。それではさらばだ闇乃ぉ。」
「まだ、負けてません。」
「その怪我でどうするつもりだぁ?先ほどの蹴りで肋が数本逝ってるぞぉ?その状態でまだ俺に勝てるとでもぉ?」
「勝ちます。」
「そうかぁ。では明度の土産に俺の最高火力で葬ってやろぉ!」
すると鍵山は高速で闇乃の周りを囲むように移動を始める。その速さは目に追えるようなものではなく、幾つもの残像が見えた。そしてその中にいる闇乃にはその円がだんだんと縮まっていってることと、円の周りにはナイフのようなものがあり、おそらくナイフを持ちながら鍵山が高速回転をしている事がわかった。
「これが鍵山さんの最高火力ですか?」
「この技を喰らって無事で済むモノなら済んでみろぉ!」
「・・・一応試してみますか。」
闇乃が回転している鍵山に向かって銃弾を放つ。しかし勿論その銃弾は鍵山の手に握られているナイフによって弾かれてしまった。
「・・・一か八かです。後輩くん!再度射撃を!」
「バカめぇ!そうなることを予見して私が貴様の狙撃銃を破壊したのが見えなかったのかぁ!?」
「申し訳ありませんけど私の方が一枚上手でしたね。」
闇乃はこのような事態に備えて一丁が破壊されてもいいように必ず何かを持ち歩くはいつも同じ物を二つ同時に持ち歩く。鍵山が後輩の方を見た時すでに後輩は銃弾を放っていた。運が良いのか、それとも狙い定めていたのか。その銃弾は高速回転していた鍵山にピンポイントで向かっていた。
鍵山はその銃弾を受け止めるために一旦停止して体制を整える。鍵山が停止して銃弾を受け止めるまでの間。0.8秒。しかしその間を闇乃は見逃さなかった。
すぐさま闇乃は鍵山の腹に向かってナイフを突き立てる。
「・・・ゴボッ、ク…クソガッ…。」
「大丈夫。私は必要な殺しはしませんから。今から貴方を本社まで移動させます。」
「先輩〜!本社に車要請しときました!」
「でかした!」
2人は本社の救急隊の車に鍵山を預け、2人もその車に乗って本社へと向かった。