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第26話【最終話】絶叫系テーマパーク魔王城。

「さぁ乗れ。悲鳴を上げた時点で試練失格だ」


 迷宮前。五匹に分身した魔狼形態のエルの声が、重なりあって同じ言葉を言う。


 魔王城の一画は広大な迷宮になっており、途中には振り子の大鎌や、飛び出して来る針山など、トラップがてんこ盛りだ。最奥の部屋には宝箱が設置してある。中身はお菓子。冒険者へのお土産である。試練達成のご褒美という訳だ。まぁ、達成出来なくてもあげるけどね。スリルを楽しんでもらうのが目的だから。


「乗ったぞ」


 フェイタル皇子が分身エルに乗り込む。振り落とされれば危険、とは警告してあるが、あくまでこれはアトラクション。安全の為にエルの背中には鞍が置かれ、手綱も付いている。おまけに、振り落とされない為の魔術もかけてある。


 美女三人も乗るのを確認し、私はエル本体に乗り込んで号令をかける。


「もういいよエル。お願い!」


「よし行くぞ! ハッ!」


「ぬぐっ!」


「きゃああーっ!」


 悲鳴を上げそうになるフェイタル皇子だったが、必死に声を抑えている。美女三人はあっという間の悲鳴だ。


 私も一緒に迷宮のスリルを楽しむ。縦横無尽に疾走していくエル。時に針山を飛び越え、落とし穴を飛び越え、天井から襲ってくる振り子大鎌の隙間をくぐり抜けていく。私はもう何度も体験しているが、それでも抜群のスリルだった。


「最高!」


 思わず叫ぶ。


「ははっ! 喜んでもらえて光栄だ!」


 楽しそうに笑うエル。


 四人のお客様達も、どうやら慣れてきたようだ。時々歓声を上げて、スリルを楽しんでいる。


「うおおお! ひゃっほー!」


「きゃあああーっ! やばーい!」


 最奥の部屋に辿り着いた時には、全員笑顔だった。


「試練自体は失格となりますが......どうですか、皆さん。楽しかったでしょう?」


 エルの背中に乗ったまま、満足そうな四人に話しかける。


「ま、まぁな。うむ。こんな楽しさがこの世に存在するとは思はなかったぞ。なぁ、お前ら」


「はい! 楽しかったです、フェイタル様!」


 戸惑いながらも感想を述べるフェイタル皇子。美女たちもキャッキャッと盛り上がっている。


「実は、試練と言うのは建前なんです。私を討伐にやってきた冒険者の方々を、おもてなしするのが本当の狙いでして。さぁ、宝箱を開けて見て下さい」


「うむ......こっ、これは!」


 宝箱の中には、クッキーやチョコレート等、この世界では珍しいお菓子の数々。エルフの里から連れてきたマートとセブンの協力で、蜂蜜を含む様々なお菓子用食材をゲットし、美味しいお菓子を作り上げる事に成功した私達。保存が効くように、魔術も施してある。


「それはとっても美味しいお菓子です。保存も効きますので、どうぞお土産としてお持ち帰り下さい」


「何!? これは食い物なのか! 何と美しい......うむ、有り難く頂くとしよう」


 フェイタル皇子はお菓子を美女達に渡し、再びエルの分身に乗り込む。


「では帰り道も頼むぞ、エル殿」


「お任せ下さい、フェイタル皇子」


 迷宮の帰り道は、別のコースを辿る。新たなスリルを味わいながら、迷宮の入り口へと戻る。


「ふー! 楽しかった! 試練は三つあると言ったな、ユウノ!」


「はい! 次は屋上へ参ります! またね、エル」


「またな、ユウノ」


 エルは分身を解除し、人間の姿で手を振ってくれた。


「それじゃあお願い、ロノス」


「あいよぉー」


 ロノスの瞬間移動で、城の屋上へ。


「ちょっと待って下さいね。ガラハド! お願い!」


 私は最近卵から孵った愛しい我が子の名前を呼ぶ。すると遠く離れた岩山の向こうから、翼竜が姿を現す。それはみるみる近づいてきて、あっという間にすぐ近くで空中停止した。巨大で威厳たっぷりの姿。ガラハドはファンタジー世界ではお馴染みの最強生物、ドラゴンなのである。


 暴食に取り憑かれたオーガ達から救出し、保護した卵。孵って一ヶ月程が過ぎた。幼体のうちは城で一緒に過ごしていたが、狩りをする様になったら自由にさせる、と言うのが正しい育成の仕方らしい。


「お呼びですか、母上。今日もお会い出来て嬉しいです」


 空気を大きく震わす声。私は慣れっこだったが、フェイタル皇子達はちぢみあがっている。


「こ、これは、ドラゴン、か?」


 フェイタル皇子は、震える声でようやくそう言った。


「はい。卵から育てた、私のドラゴンです。名前はガラハド。これから皆様を空の旅にお連れします」


 私はパチンと指を鳴らす。これはロノスへの合図。瞬間移動でガラハドの背中へと乗った私とフェイタル皇子達。


「それでは出発致します。行くよ、ガラハド!」


「はい! 母上!」


 急上昇するガラハド。雲を飛び越え、猛烈なスピードで空を駆け回る。


「ひゃっほー!」


「ぬああああああ!」


「きゃあああああーっ!」


 テンションマックスな私と、絶叫する皇子達。あっという間に大陸中を巡り、魔王城へと帰還する。


「ふぅー! 楽しかったぁ! ありがとうガラハド!」


 私は指を鳴らし、ガラハドの背中から城の屋上へと全員を下ろす。


「では母上、僕はまた狩りに行きます。またいつでもお呼び下さいね」


「うん! またね!」


 ガラハドが飛び去ると、皇子たちは腰が抜けたように座り込んだ。


「す、凄かった......」


 呆けたように呟くフェイタル皇子。


「喜んでいただけて何よりです。では最後の試練。これより城の地下、地底湖へと参ります」


 パチンと指を鳴らす。ロノスが私達を瞬間移動させ、周囲の景色が瞬時に変わる。


「おお、これは......!」


「綺麗......!」


 感激する皇子一行。私も地底湖の美しさにウットリする。魔術機構の照明でライトアップされた洞窟内は、鍾乳石や石灰石彫刻で彩られ、エメラルドグリーンの湖の美しさを際立たせている。何度見ても飽きない光景だ。


「セレネー、いる?」


「はぁい! お呼びですか、ユウノ様!」


 水面から飛び上がり、水しぶきを上げる美女。その下半身は魚。そう、彼女は人魚なのだ。


「お客様がいらしたの。ギダル帝国のフェイタル皇子様御一行よ。また湖を案内してくれる?」


「あ、本当だ! いらっしゃいませ皇子様! そしてお付きの方々。これから私が地底湖の中をご案内致します」


 水中から上半身だけ出し、微笑むセレネ。


「何と言う美しさだ......! お前、俺の」


「ダメですよ皇子。人魚に恋をすれば、水中で過ごす事になります」


「むっ! それは困るな。仕方ない、諦めよう。では案内頼むぞ、セレネー」


「はい! 皇子様!」


 湖にはボートがあり、私達はそれに乗り込む。セレネーが水中から引っ張ってくれるのだ。人魚は美しい外見とは裏腹に、とても力が強い。それこそ怒らせでもしたら、水中に引きずり込まれて一巻の終わりだ。彼女を仲間に引き入れるのは、とても大変だった。だけど今は、私の事をとても慕ってくれている。


 地底湖は進んでいくにつれ、下へ下へと向かって行く。渓流下りのような勢いで、スリリングに進んで行く。


「うあああ! 早い! 早いぞセレネー! もっとゆっくりだ!」


「きゃあああ! フェイタル様!」


 悲鳴を上げる一行。だがセレネーは、一行に勢いを緩めない。


「うふふ、そんな遠慮なさらないでください皇子様! もっと早く行きますよ!」


「やめろぉーっ!」


「あはは! 楽しい~!」


 私は思わず笑ってしまった。小悪魔なセレネーが大好きだった。


「うう、びしょ濡れだ......だが、楽しかった!」


 地底湖から戻り、大浴場の前。


 大満足の様子の一行を、風呂場へと案内する。


「いらっしゃいませ、大浴場へ! 私達がお背中を流しますわ!」


「皇子! あんたの背中は俺が流すぜ!」


 ディーネとラマンダが挨拶し、自己紹介する。


「何だと!? 逆にしろ! 俺の背中はディーネが流せ!」


「ああ!? 男の背中は俺様が流す事になってんだよ! そう言うルールだ!」


「やかましい! 男になんぞ触れられたくもないわ!」


「はいはい、ストーップです。ディーネ、皇子様の背中流してあげて。ラマンダはそっちの美女軍団。たまにはいいでしょ。水着着用だしね」


 せっかくここまで満足してもらってたのに、今更不満を感じて欲しくない。


「ふー! さっぱりした! 気持ち良かったぞユウノ! 良い風呂だった! ディーネも美しかったしな!」


「それは何よりです。では大広間へと参りましょう。食事の準備が出来ておりますので」


 大広間へ入ると、カグヤが皇子一行を出迎えた。


「うむ、よくぞ参った客人達よ。我が名はカグヤ。総料理長と総給仕長を兼任しておる者。さぁ、最高の腕前を持った十人の料理人と、海の幸、山の幸を取り揃えた食材達による、至高のメニューを、とくと味わうが良い!」


「むっ! ここにも美女が! カグヤ、俺の」


「駄目ですよ皇子。狐の里に婿入りしなければならなくなります」


「何!? それはまずいな。諦めよう」


 単純な人で良かった......。


 オーソンとラミリーが用意したお酒と、マートとセブンが用意したデザートも好評で、フェイタル皇子達はご満悦だった。


「こんな幸せがこの世に存在するとはな。ユウノの考える世界の方向性。俺もその企てに乗るぞ。もちろん親父も説得して、ギダル帝国は全面的にお前をバックアップする。だからな......また遊びに来ても、良いか? 今度は家族も連れて来たいんだ」


 フェイタル皇子は少し照れ臭そうにそう言った。


「もちろん! またいつでも来て下さい! 大歓迎ですよ!」


 私はフェイタル皇子と固い握手を交わした。


 皇子たちが帰った後、魔狼に変身したエルと寝室へ。夕食時にはラダガスト王国の家族達がやってくる。それまでちょっと、一休み。


「ふあー♡ モフモフー♡」


 ベッドに寝そべるエルにダイブ。フカフカの毛皮に抱きつき、幸せを満喫する。


「ふっ。ユウノは本当に俺の毛皮が好きだな」


「うん、大好き。だって気持ちいいんだもん♡」


 ふああ。夢見心地......。


「ねぇエル。明日は私、案内人の仕事をお休みしようと思うの。エルもお休みしよ? 分身体だけお城に残してさ、デートしようよ」


「デートか、いいな。よし、最高に楽しいプランを用意する!」


「本当!? やったぁ! エル大好き!」


「俺も大好きだ、ユウノ!」


 私のこの世界で、最高の人生を手に入れた。素敵な家族や仲間に囲まれた人生。最愛の人との、自由な生活。


 私、モフモフなパパと一緒に、この自由なスローライフを満喫します!


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