私達が魔王城を旅立ってから、三日目の朝。オーソンとラミリーを仲間に加え、魔王城へと戻ってきた。エルの背中に全員は乗れないので、ルフィードの風魔術で空を飛んできたのだ。
ちなみにルフィードは、「もう疲れただぁ」と言って早々に精霊界に帰還した。疲れやすい子なのね。まぁ、小鳥だしね。私がそんな姿にしちゃったのがいけないのかなぁ。でも、可愛いからいいよね♡
「おおー、おかえりエル。そしてユウノ。おお、オーソンとラミリーも来たんだね。久しぶり。ところでユウノ、お客が来てるぜ」
魔王城の城門前。驚きの事実を、平然と言ってのける家守りの妖精ラウニ。
「なんだと!? 何故教えてくれなかったんだ!?」
「そうだよ! あんなに言ってあったのに!」
私とエルは揃ってラウニを責め立てた。だが、こうなる事はある程度予想していた。
「カグヤがさ、あんたらを呼び戻すなって言ったんだよ。出立したばかりだから、申し訳ないってな。自分達だけで、もてなす事にしたらしいぞ。まぁ、客はみんな喜んでるみたいだから、怒んないでやってよ」
私とエルは顔を見合わせ、微笑した。
「良くやった、と褒めてやるべきだろうな」
「そうだね。この状況で出かけた私達にも責任があるし」
「そうそう、褒めてやってよ。んじゃ、開けるよー」
城門が開く。少し進むともう一つの扉。それを開けると、精霊王達が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
いつからここ、メイド喫茶になったの!?
私は一瞬面食らったが、カグヤ、ラマンダ、ディーネの笑顔を見て、一気に体の疲れが吹き飛んだ気がした。
「お客様が来てるって聞いたんだけど......」
私が尋ねると、カグヤがパンッと扇子を広げる。
「うむ。来ておるぞ。もうすぐ朝食の時間じゃ。エル様もユウノ様も、お客様と一緒に食事を取ると良いじゃろう」
「ええっ!? そんな訳にはいかないよ! 私達も手伝う! おもてなしする! ねぇ、エル」
「ああ。俺もユウノも、料理は得意だ。それにオーソンとラミリーも腕のいい料理人だぞ。彼らの持ってきた、酒と調味料も使いたいしな」
エルがオーソンとラミリーを精霊王達に紹介する。彼らは顔見知りだが、精霊王の姿が変わっていたので、オーソン達の方は気付いていなかったようだ。
「うむ。良くぞまいった。久しぶりじゃのう、オーソンにラミリーよ。わらわはカグヤ。金の精霊王じゃ。覚えておるか?」
扇子で隠していた顔を見せ、ニコリと笑うカグヤ。オーソンとラミリーは、
「おお! カグヤ! もちろん覚えてる! 姿が少し違うが......ああ、すごく綺麗だ!」
「てんメェ! このバカ亭主! また他の女に色目使いやがって! 死ねぇ!」
「ぐああ!」
なんてやりとりをする。
「水の精霊王ディーネですわ。お久しぶりね、二人とも」
「おおお! ディーネ! また一層色っぽくなって! 特に胸が......うごぉっ!」
言いかけたオーソンの首に、ラミリーがチョップを喰らわす。
その様子を見ていたラマンダも、呆れ顔で鼻をこする。
「よぉ! 俺はラマンダだ! 火の精霊王! 覚えてんだろ?」
「ん? 誰だったっけ?」
「テメェは女の顔しか覚えてねぇのか、ボゲェ!」
ラミリーはオーソンの背後に回り、両手で腰を抱きしめる。そしてそのままブリッジし、オーソンの頭を床に叩きつけた。
ゴズンッと凄まじい音が響き、オーソンは動かなくなった。だがその体を、まるで人形のように抱き上げるラミリー。怖い。オーソン、死んでなきゃいいけど......。
「ふふっ、相変わらずじゃのう、二人とも。お主らも疲れておるじゃろう。酒と調味料だけ渡してくれれば良い。エル様、ユウノ様、オーソンにラミリー。そなた達も今日は客人よ。いわゆるお試し体験コースというやつじゃ。わらわ達がどんな風にお客様をもてなすのか、体験してみるのも良いじゃろう? もちろん明日からはしっかり手伝ってもらうぞ」
そう言って微笑むカグヤ。
「どうしようエル。ここは、お言葉に甘えちゃう?」
「うーむ、そうだな。カグヤの言う事にも一理ある」
私とエルは頷きあった。
「じゃあお願い。私達の事も、もてなして」
「うむ。まずは風呂に入って旅の疲れを取ると良い。案内しよう」
そう言って私達を先導するカグヤ。ディーネとラマンダも、その後に続く。
「待ってみんな、その、あのね。今日まで留守を守ってくれてありがとう。私達の代わりに、お客様をもてなしてくれて、ありがとう。そして、今日の事も。本当に、本当にありがとう」
私は大きな声でそう言った。精霊王達は振り返り、微笑む。
「そう言って貰えるのが、我らにとっての何よりの報酬じゃ。のう?」
「ああ、俺はユウノに喜んで貰う為なら、命だって惜しくねぇ」
「同じく、ですわ」
そして再び前を向き、先導を再開する。私はエルと目を合わせ、笑った。彼女達の事が、とても誇らしかった。きっとエルも、同じ気持ちだろう。
きっとトラブルなんて、起こらない。その時の私は、そう信じ込んでいた。だって、分かる訳がない。この後まさか、あんな事が起きてしまうなんて......。