「久しぶりだね、ユウノ。最近全然呼び出してくれないから、僕はとても寂しかった」
氷の精霊王、雪兎の姿をしたリスタがピョンピョンと跳ねながら私達に付いてくる。
「ごめんね、リスタ。中々呼び出すタイミングが無くて。今回はね、変身の事について聞きたかったの」
私はエルに手を引かれ、歩きながらリスタに話しかける。
「ああ、そんな事か。ユウノの姿に戻っている間は、シーラの記憶がないんだものね」
ピョコピョコと耳を揺らし、跳ねて付いてくるリスタが可愛い。
「うん、そうなの。えっとね、なんだっけ、暴食の悪魔? って言う悪い悪魔がドワーフの王様に取り憑いているみたいなの。だから私、また大人になりたい。手を貸してくれる?」
「ああ、暴食か。だったら僕よりも、ライアドに頼んだ方がいいよ」
「ライアド?」
初めて聞く名前だ。
「木の精霊王さ。精霊王は全員、悪魔退治を心得ている。もちろんユウノ、君の本来の力も引き出してくれる。さぁ、彼の名前を呼んで見て。僕は帰るからさ」
リスタはそう言って、小さな吹雪となって消えた。
「ちょっ、リスタ! 勝手に帰らないでよ、もう! えっと、ライアドだっけ。それじゃあ......出てきてライアド! えいっ!」
私は歩きながら片手を振って、地面に小さなリスを思い描いた。
するとクルミがモコモコと地面から湧き上がり、それが崩れてモフモフのリスがピョンッと顔を出す。リスはクンクンと鼻を動かし、クルミを一つ取って歯で割って見せた。
「ほっほー。わしゃー、木の精霊王ライアドじゃ。お呼びくださって光栄ですじゃぞユウノ様。はてさて、いかが致しますかな?」
ライアドはステテテッと素早く走り、私の肩に飛び乗った。おじいちゃんみたいな喋り方だけど......シッポもホッペもモフモフですっごく可愛い♡
「暴食の悪魔を倒したいの。ライアド、力を貸してくれる?」
「ほっほー。もちろんですじゃ。ほいほーいっと」
ライアドは、私の肩の上でクルリと宙返り。するとぐんぐん私の背が伸びる。服も体に合わせて大きくなっていく。
「戻った......! ありがとうライアド」
「ふぉっ。お安い御用ですじゃ」
ライアドはクルミをモグモグしながらそう言った。
「ああ、ユウノ......! やっぱり君は美しい」
大人になった私を、エルがまっすぐ見つめる。繋いだままの手をぐいっと引き寄せ、抱きしめる。
「ふふっ、エルったら情熱的ね。娘と妻、どっちの私が好きなの?」
シーラの記憶を取り戻した私は、エルの唇を指でなぞりながら彼をからかう。
「それは難しい質問だな。どちらも好きだ。小さいユウノも俺の大事な娘だし、今の君も、俺の大事な妻。比較なんて出来ないさ」
エルは少し赤くなって視線を逸らす。
「じゃあ質問を変えるわ。今、私と何をしたい?」
エルの顔を両手でそっと包み、彼をジッと見つめる。
「君には敵わないな」
エルはそう言って、私と唇を重ねた。
しばらくキスに夢中になっていると、先を歩いていたドワーフの兵士さんが、立ち止まって咳払いをする。あっ、シーラの記憶で彼の名前を思い出した。ガリスだ。
「事情はよくわからんが、イチャつくのは後にしてくれないか? えっと君は......ユウノではなく、シーラ、か?」
時々周りが見えなくなるのが私の悪い癖だ。急に恥ずかしくなって、私はガリスに向かって手を合わせる。
「ごめんねガリス。私はユウノではあるんだけど、シーラの生まれ変わりなの。大人に戻ったのが嬉しくて、つい」
私の告白に、ガリスは目を丸くしながら髭をこする。
「ほう! こいつは驚いた! 生まれ変わりか! 道理で似ていると思ったよ。なるほどなぁ......で、もう気は済んだのか?」
「あはっ、ごめんね。もう大丈夫!」
私はガリスにもう一度手を合わせ、片目を瞑って見せた。それからエルと目を合わせ、笑い合う。
しばらく歩いて行くと、宝石で彩られた重厚な扉に辿り着く。
「陛下! 初代魔王のエルデガイン様と、二代目魔王のユウノ様をお連れしました!」
ガリスが中にいるらしき国王に声をかける。しばらくして、中から返事が聞こえる。
「俺は食うので忙しい。呼んだ奴以外は誰も通すなと言ってあるだろうが。さっさと追い払え!」
憎悪のこもった声だった。
「始終この調子なんだ。なんとかしてくれ」
ガリスはお手上げと言った様子で肩をすくめた。
「よし。やろうか、ユウノ」
「うん、エル! ライアド、お願い!」
「ほっほー! お任せくだされ!」
ライアドが私の肩で宙返りすると、彼の姿はかき消えた。その変わりに、空中に巨大な棍棒と木製の錫杖が出現する。エルが棍棒を取り、私が錫杖を取る。
私とエルは向かい合い、棍棒と錫杖を交差させる。
「スピリット・リンク!」
二人同時に高らかに叫ぶ。すると私達の体が輝き、服装が変化する。
緑と白を基調とした服。エルは騎士、私は聖女をイメージしたデザイン。
「木の騎士、エルデガイン!」
「木の聖女、ユウノ!」
棍棒と錫杖を交差させたまま、私達は笑い合う。
「推して参る!」
声を揃えて決め台詞。気合が入る。
「それじゃあガリス。これから扉をぶち壊すが、文句は言わないでくれよ」
エルが棍棒を振りかぶり、扉を見据える。
「構わん。ここはドワーフの住む国だぞ。扉なんぞ誰でも直せる」
「それを聞いて、安心した!」
エルの棍棒が扉に激突! ズゴォォォォンッという凄まじい轟音と共に、扉は真ん中から砕け散った。
「入るぞ、ユウノ!」
「うん!」
エルが扉を蹴り開け、二人で中に飛び込む。
「ぶふぅぅーっ」
不気味な唸り声を上げるドワーフ王、ルインザッツ。その姿は、私の記憶にある威厳のある姿ではなかった。ほとんど豚のように醜く太った、恐ろしい姿だった。