「うわぁー! すっごぉーい!」
ドワーフの地下王国へと、ようやく辿りついた私とエル。トンネルの先に広がる世界は、宝石に彩られた美しい都市。
それは巨大な地下洞窟内にある世界だった。天井はどこまでも高く、ここが地下のかなり深い場所にある事を感じさせる。日光は入ってこない筈だけれど、洞窟内は暖かい光に包まれている。
エルに聞いた話だと、どうやら洞窟上層部にある光の玉が、太陽のような役割を果たしているらしい。その光は洞窟内各地に埋め込まれている宝石に反射して、キラキラと煌めいている。
都市の住人であるドワーフ達は一様に背が低く、子供のようだった。けれど子供のように見えるのは身長だけで、体付きはしっかりしているし、顔も成人のそれだった。長髪の人が多く、男性は髭を伸ばしている人たちも多いみたいだ。
街並みは、私達が一日だけ住んでいたシュエンビッツの街並みに似ていた。誰もが商売に精を出している、活気のある街。追放されちゃったけど、いい町だったなぁ。冒険者ギルドのお姉さん、優しかった。ルークやスルーシャさん達に出会ったのもあの町だった。みんな、今頃元気にしているかなぁ。
エルと手を繋ぎ、歩く。物思いにふけっていると、急にエルが私を抱き上げた。
「ほら、あそこに見えるのがドワーフ王、ルインザッツの住む城だ。綺麗だろう?」
エルが私を抱いたまま指を差す。忙しそうに行き交う人々に隠れて、これまで小さな私には見えていなかった。
長身のエルに抱かれた、今の私にはよく見える。確かに美しいお城だった。洞窟の壁と同様に、沢山の宝石が外壁に埋め込まれ、キラキラと輝いている。
「俺たちが会おうとしているオーソンとラミリーは、王城で醸造所や菜園、魔力炉の管理をしている。国王に会って、彼らの力を再び借りる旨を伝えなければならない。城に向かうぞ。あの馬車に乗ろう」
「うん」
丁度良く停留所に乗り合い馬車が止まっていたので、行き先を確認して乗り込む。馬車は王城にも立ち寄るようだ。
しばらく馬車に揺られ、ドワーフ達との会話を楽しむ。彼らは男女ともに剛気で快活、酒好きだった。彼らの人柄に触れ、私はドワーフという種族が大好きになった。オーソンとラミリーに、早く会いたい。
「よし、着いたぞユウノ。降りよう」
「うん!」
会話に夢中になっていたので、王城への到着はあっという間だった。私達はドワーフ達に別れを告げ、馬車をおりる。彼らは私達との別れを惜しんでくれた。
「エルさん、ユウノちゃん、またな!」
「ああ、楽しかったよ。また会おう」
「うん、まったねー!」
手を振り別れる。馬車が出発するのを見送った後、エルは私の手を引いて王城の城門へと歩き始めた。
橋を渡り、城門前の兵士に挨拶をする。兵士の数は門の両脇にそれぞれ三人ずつ。私達が異種族だからか、彼らは警戒の色を示した。
「私の名前はエルデガインと申します。これは娘のユウノ。国王ルインザッツ様とは古くからの友人です。本日は、謁見の許可をいただきに参りました」
そう言って深々と頭を下げるエル。私も彼に倣い、頭を下げる。
「エルデガインか。覚えているぞ。良くきたな。ユウノが行なったスピーチは、我々も聞いた。第二の魔王......ふふっ、実に愉快だった。シーラを思い出すよ。陛下も君たちに会いたがっていたのだが......今は部屋の扉を閉ざしている」
兵士の一人がそう言って、長い髭を擦りながら他の兵士達と視線をかわし、ため息を漏らす。
「何かあったのですか?」
エルは心配そうに尋ねた。
「君が今、ここに来てくれたのは女神様の思し召しとしか思えん。実はな、魔王の復活を知って、こちらから魔王城に使者を出そうと思っていた所だったのだよ。どうやら陛下は『暴食の悪魔』に取り憑かれたようなのだ」
「何ですって!?」
目を見開き、驚愕するエル。私は口を挟みたくなったが、話の腰を折るのは良くないと考え、喋るのを我慢した。
「陛下の部屋には、毎日沢山の食料が運び込まれている。部屋には厨房もあり、料理人達はつきっきりで食事を作り続けているんだ。君の友人、オーソンとラミリーも調味料や酒を選ぶ者として、陛下の部屋に拘束されている。どうか、みんなを助けて欲しい。この通りだ」
兵士が頭を下げ、他の兵士達もそれに倣う。
「もちろんです。すぐに参ります。案内していただけますか?」
「引き受けてくれるか! ありがたい! では一緒に来てくれ!」
城門が開く。エルと会話していた兵士が先導して先に歩いていく。
「いくぞユウノ。どうやら俺たちの出番のようだ」
エルも私の手を引いて歩き出す。
「ねぇエル、暴食の悪魔って何? 私達は、これから何をするの?」
私はようやく質問の機会が巡ってきたと判断し、歩きながらエルに尋ねた。
「ああ、そうか。今のユウノにはシーラの記憶がないんだったな。すまない。暴食の悪魔ってのはな『大罪の大悪魔』と呼ばれる七人の大悪魔の一人、『暴食のベルゼバブ』の配下だ。俺とシーラは二十年前、そう言った大罪の悪魔達を退治していたんだ。悪魔を退治できるのは、どうやらこの世界において俺達だけらしい」
「私に、そんな力があるんだ......」
「ほら、あの勇者小僧と戦った時を思い出すんだ。ユウノは大人になって、俺と一緒に変身しただろう? あの力を使って、悪魔を倒すんだ。もう一度、出来るか?」
「あっ、あの時の変身! あの力はその為のものだったんだね。あの時は氷の精霊王、リスタに力を借りて変身したの。リスタは色々と知ってそうだから、また呼び出してみるね」
私はリスタを呼び出す為に、彼の姿を思い浮かべた。