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第17話 新しい仲間を求めて。

 城内の食材確保の設備は、二つ。「醸造所」と「養蜂場」だ。


「これらの設備はな、完全に人任せにしていたから、再起動の仕方がさっぱりわからないし、詳細も不明だ。だから携わっていた連中を呼び戻さなくてはならない。全員シーラの人徳で集めた人員だったからなぁ......ユウノがシーラの生まれ変わりと分かれば、きっと協力してくれる筈だ」


 エルは顎に手を当てて、遠くを見つめた。


「そうなんだね。ちなみにどんな人たちなの?」


「醸造所を担当していたのはドワーフのオーソンとラミリー。男女のコンビだ。養蜂場を担当していたのはエルフのマートとセブン。こちらも男女のコンビ。ドワーフもエルフも亜人と言われる人間に近い種族だが、とても気難しくてな。滅多に他種族には気を許さない。特にドワーフとエルフはお互い仲が悪い。仲間にするのは骨が折れるかも知れんな。だがおまえなら、きっと説得出来るさ」


 うう、なんかプレッシャー感じる。


「ええっと、まず何をすれば良いのかな?」


「うむ。これからドワーフの住む地下王国に向かう。遠くに岩山が見えるだろう。あの麓にトンネルがあってな。そこから地下に通じている。そこまで行って国王に謁見し、オーソンとラミリーを連れ出す許可を貰うつもりだ。一応シーラがやっていたように俺も行動するつもりだが、頃合いを見てユウノに助けてもらうよ。だが実際、お前に何をしてもらうかは、行ってみるまで分からん」


「ふええ、不安だよう。大丈夫かなぁ」


 私はなんだか泣きたくなってきた。ドワーフやエルフの事も日記には書いてあったけど......どんな人たちなのかは詳細がわからない。それにドワーフ王国の事は、一言も書いてなかった。


 でもまぁ、やるしか無いよね。


「俺がついてる。もしもドワーフが怒ったら、全速力で逃げれば平気さ」


「うん、そうだね。エルがいれば、どこに行ってもきっと大丈夫だね。そうだ、お城をお留守にしちゃって大丈夫かな? 私達が出かけている時に、誰か来たらどうしよう」


「それなら心配は無い。留守番はラウニがやってくれるし、ディーネ、ラマンダ、カグヤも置いていけば、城内が汚れる事はあるまい。もし客が来たら、とりあえず奴らに接客しておいてもらおう。ユウノに念話で連絡がくるようにしておけばいい」


「そうだね。カグヤ達はお料理も出来るし。よし、じゃあ出発の準備をしなきゃ」


 私はディーネとラマンダが洗濯してくれた着替えを何着か用意し、旅用の少し大きなリュックに詰め込んだ。


「それじゃあ、行こうか。魔狼になった俺のスピードでも、着くのは明日の朝だ。近くでテントを張って、キャンプするぞ」


 物凄く大きなリュックを背負い、エルが笑う。


「ねぇエル。前から不思議に思ってたんだけど、魔狼になっている時はリュックとか服はどこに消えるの? 人間になると、また現れるけど......」


「ん? ああ、それな。俺にも良くわからんのだ。変身のスキルの副次効果かも知れん。とにかく魔狼の時は所持品が消え、人間になると出てくる。そういうもんなんだ」


「ふぅん。不思議......」


 そんな会話を交わしながら、城門へ。ディーネや水玉の精霊、ラマンダ、カグヤとその眷属達が勢揃い。みんなで見送ってくれた。ちなみに風の精霊王であるルフィードは、一仕事終えて精霊界に帰っている。


「ユウノ様、エル様、お気をつけて!」


「おいユウノ、俺に会いたくなったらいつでも呼べよ。すっ飛んで行くからよ。エルは別にくたばっても良いけどな」


「エル様、ユウノ様、ご武運を。城の事はわらわに任せておくが良い」


 涙目の子象ディーネ、相変わらず調子のいい黒猫美青年ラマンダ、そして優美な立ち振る舞いの狐美女カグヤ。


「ありがとう、みんな。行ってきます」


「うむ。では行ってくる」


 手を振って門をくぐる。


「おや、オイラには挨拶なしかい?」


 城門を閉めようとした時、ラウニの声が聞こえた。


「そんな訳ないだろうラウニ。今言おうと思ってたんだよ。城の守りは、お前がいれば鉄壁だ。頼りにしている。じゃあ、行ってくるぞ」


「私も頼りにしてるよ、ラウニ。それじゃあ行ってくるね」


「へへっ。おう、わかってんならいいのさ。気ぃつけて行ってきなよ」


 エルに抱かれて進むも何度か振り返り、魔王城を見上げる私。みんな、待っててね。きっと新しい仲間を、連れて来るから!



 ◆◆◆◆◆◆


「つぅかよぉ。なんでユウノとエルは今頃出て行っちまったんだ? 調味料調達の設備整えたいなら、ユウノが魔王就任スピーチする前の方が良かったんじゃね?」


 ユウノとエルデガインが旅だった後の魔王城。精霊王達がエントランスに集まり、今後の流れを話し合っている。


 その中で、火の精霊王ラマンダが黒猫の姿で疑問を呈したのが先程の台詞である。ユウノがいない為、美青年の姿でいるのはやめたようだ。


「エル様は、魔王城の事を全てシーラ様に一任していたからのう。おそらく設備の事にまで気が回らなかったのじゃろう。ユウノ様がスピーチした後で、もしかしたら足りないかも知れない、と思い至ったのじゃ」


 カグヤがエルデガインの思考の辿った道を想像し、代弁する。


「それに、わたくし達の事を信頼してくださっているのですわ。そうでなくては、このような思い切った行動には出られません。冒険者達が押し寄せようというこの状況で、旅に出られるなどと......」


 子象の姿をした水の精霊王、ディーネがラマンダだけではなく、自分をも安心させるようにそう言った。


「まぁ、そうかもな。じゃあアレ、どうするよ。俺たちに一任してくれるって事だよなぁ」


 ラマンダはそう言って、正面入り口の扉上部に設置された魔術機構の設備「監視鏡」を指差す。それには城門に訪れた来客達が映し出されていた。


「初代勇者ルーファスとその従者達か。いきなりヤバイ奴が来おったのう」


 カグヤはそう言ってパンッと扇子を広げ、口元を隠して目を細める。


「ここはわらわに任せるが良い。エル様は、この城の一切をわらわが仕切るよう託して行ったのじゃからのう」


「そうだったか?」


「そうでしたかしら......」


 カグヤ以外の二人は不思議そうな顔だったが、カグヤは自信に満ち溢れた表情だ。


「まずは二人共、人間の姿を取れ。これより開門し、奴らを迎え入れるぞ。ユウノ様と練習した通りにやってみよ」


 カグヤは扇子を再び畳み、ディーネとラマンダに指示をだす。


「しかし、よろしいのでしょうか。ユウノ様は、お客様が来たらすぐに教えてね、とおっしゃっていましたのに」


 ディーネは女性らしくメリハリある曲線を持った青髪、碧眼の美女へと変身しながら、心配そうな声を漏らす。


「良いのじゃ。まだユウノ様は出発したばかり。ここで呼び戻しては、目的を果たせぬ。それに加え此度の来客は、我らの有能さを示す絶好の機会でもある。さぁ、我が眷属達よ! 門を開けよ!」


 カグヤがビシッと扇子で扉を指し、小さな子供の姿をした眷属達が、わーっと扉に駆けていく。


 ディーネとラマンダに緊張が走る中、カグヤはやはり悠然と構え、微笑んでいた。



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