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第16話 各国の反応。

 新たな魔王「ユウノ」の出現は、世界中を震撼させた。


【ラダガスト王国】


「我がラダガスト王国にそんな輩が二度も......! 許せぬ! 今すぐ討伐隊を結成せよ! 国中から冒険者を募るのだ! 金はいくら使っても構わん! ルークは、スルーシャは何処へ行った!?」


 国王ルーファス・ラダガストは討伐隊を結成したのち、自身も初代勇者として出立を決意した。


「アーガス、貴様はルークとスルーシャを探し出して合流し、魔王城に向かえ! 良いな!」


「かしこまりました、父上!」


 ルーファスの息子にして二代目勇者、アーガス王子も単身で出立する。


 一方その頃、ルーファスの孫であるルーク達も、ユウノが魔王になった事を知り準備をしていた。


「ユウノ、まさか魔王にまでなってしまうとは......! やはりあの時倒しておくべきだった。僕が油断さえしなければ! くっそぉ!」


 剣で岩を斬り、滝を斬り、山を斬り裂くルーク。修行の成果は絶大だった。彼の母、スルーシャの指導の賜物だろう。


「準備は万全ですね。さぁルーク、そろそろ行きますよ!」


「わかりました、母上! 今度こそ僕が、ユウノとエルデガインを倒してご覧にいれます!」


「ええ、あなたなら出来るわ、私の可愛い坊や♡」


 スルーシャはルークを抱き上げ、頬擦りする。そしてキスの嵐。お供の斧術士ゲヘナと神術士兼メイドのセレスは、羨ましそうにその様子を眺めている。



【ギダル帝国】


「ほう、魔王か。面白いな。前回はラダガストの勇者に遅れを取ったが、今回は我が帝国が魔王の首を取る。ここで恩を売っておけば、ラダガストを支配下に入れる為の良い交渉材料になるしな」


 ギダル帝国の皇帝、オーグ・ギダル・ギュンストがニヤリと笑って顎髭を擦る。


「親父、俺に行かせてくれない? ユウノって奴、興味あんだよ。俺のモンにしたい。いいだろ?」


 緊急招集された歴戦の将軍達に混じって、皇帝の息子、第一皇子フェイタル・ギダル・ギュンストが名乗りを上げる。


「おお、行ってくれるか、フェイタル。魔王を生捕りにするか......それも一興よのう。よし、好きな奴を連れて行け。対魔王の進軍、指揮権は全てお前に委ねる」


「よっしゃ! そう来なくっちゃな! さすが親父、話が早いぜ!」


 フェイタルは意気揚々と将軍を選び始める。その基準は、強さではなく容姿。若い女、それも美女ばかりだった。



【ノエ・ルエラ神聖共和国】


「女神ルクス様は啓示を下さいました。今こそ、闇の女神テネブラエの眷属である魔王を討ち滅ぼすべき時だと。我が教会が誇る聖騎士団。その精鋭達が、必ずや世界の平和をもたらすでしょう!」


 聖ルクス教会の大聖堂で、共和国評議会代表を務めるラーフェス教皇がスピーチする。教会前の広場では、大勢の人々が集まっていた。教皇が立つ舞台の周囲に立つ聖騎士達が、剣を掲げて雄叫びを上げる。


 一斉に湧き起こる拍手。ラーフェスは満足そうに目を細めた。


【魔王城】


「きゃあああーっ!」


 ガッシャーン! と陶器が割れる音が響く。私がお皿を落とした音だ。ここは城内にある、とっても広いキッチン。エルには何もしなくていいって言われてたんだけど、ジッとしているのは性(しょう)に合わない。何か出来ないかと思ってカグヤ達の手伝いをしてたんだけど......。


「カグヤ様、ユウノ様がお皿を割ってしまいました!」


 カグヤの眷属たちが心配そうに私の周囲に集まり、大声でカグヤに状況を報告する。するとカグヤがやって来て、私の側にしゃがみ込んだ。


「おお、何という事だ。ユウノ様、お怪我はないか?」


「ごめんなさい! 私は大丈夫だけど、お皿が......!」


 それはカグヤが用意してくれたお皿だった。とても高価そうに見える。


「ふっ、どうという事はない」


 カグヤはそう言って、床に落ちて割れてしまった皿に指を触れる。するとお皿の破片がドロンッと煙に包まれ、煙が晴れると、元どおりに......いや、それどころか、もっと素敵で高価そうな皿になっていた。


「すごぉい!」


 私は目からウロコが落ちる思いだった。カグヤは得意そうに微笑む。


「ふふふっ。わらわは練金術を極めし金の精霊王。このような事は造作もないのじゃ。通常の錬金術は等価交換が基本じゃが、わらわは賢者の石の秘術、上位互換を会得しておる。過去には泉に投げ込まれた鉄の斧を、金の斧に変えた事もあるしのう」


「すごいねカグヤ! ありがとう!」


「礼には及ばぬ。それとどうやら、エル殿がお迎えに来たようじゃぞ」


 カグヤに言われて振り返ると、エルが顔を真っ青にしてこちらに向かって来ていた。


「どうしたユウノ! 怪我か!? パパに見せてみなさい!」


「あのね、お皿を割っちゃって。怪我はないから大丈夫」


「そうか! 良かった!」


 スライディング気味にしゃがみ込み、素早く私を抱き上げて頬擦りするエル。


「おおー、よしよし。ユウノが怪我をしたら、俺はきっと心配で死んでしまう」


「もう、大袈裟だなぁ。嬉しいけどね♡ エル、私を探してたの?」


「おお、そうだった」


 エルは立ち上がり、カグヤに手をあげてキッチンを去る。


「これから冒険者達を迎えるにあたって、来る途中の町で買い込んだ食材や調味料だけだと、限界がありそうなんでな。食糧確保の設備を整える準備をしようと思う。手伝ってくれるか?」


「もちろん!」


「よし、じゃあ出かけよう」


「うん!」


 シーラの日記で設備の事は知っていた。今は色々な理由で使えなくなっている。それをこれから整えるんだ。


 一体、どんな風になるんだろう。私はワクワクしながら、エルの腕に抱かれていた。


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