「声をみんなに届けるには、どうしたらいいかな? エル、何かいい方法はない?」
私は二代目魔王である事を国中に宣伝する為に、声を拡散する方法を考えていた。
「それなら、シーラが使っていた魔術機構の品物がある。それを使うといい。ちょっと場所を移動しようか」
自室にいた私達。エルの提案で城にある尖塔の一番上へと向かう。窓も壁もなく、あるのは四本の支柱だけ。風が吹き抜けていくその場所には、素晴らしい景色が待っていた。
「すっごぉぉぉい!」
晴れ渡る青い空の下。広がるのは広大な森。その森を切り開くように川があり、湖もある。遠くには高くそびえる岩山があり、洞窟も見える。真下を覗くと、ものすごい高さでクラクラする。
「私、高所恐怖症なの忘れてた......!」
怖くなってしゃがみ込むと、エルが抱っこしてくれた。
「ほら、これで怖くないだろ? 絶対に落ちない」
エルはそう言って私に頬擦りする。私の心が安心に包まれる。早かった鼓動が、正常に戻っていく。
「ありがとう、エル」
「ふっ。今度から下を見る時は、俺に言えよ」
「うん」
エルは私を抱っこしたまま、塔の最上階、その中心へと歩いていく。
「これをみろ、ユウノ。これがさっき言っていた魔術機構の品【魔術拡声機】だ」
中心には、私の前世で見たスタンド付きマイクのような物が設置されていた。
「これはな、声を大きくして周囲の者に聞かせる。だがせいぜい、城の周辺地域が限界だろう。国中に広めるには、何かプラスしなくてはならない。さて、どうする?」
エルは私を試すように、悪戯っぽく笑った。私に出来る事と言えば、精霊王を召喚する事だけ。音を運ぶには、どうすればいいか......。
「決めた! エル、ちょっと下ろしてもらってもいい?」
「ふむ。名残り惜しいが仕方ないな」
エルは優しく私を床に下ろす。
「それじゃあいくよっ! えいっ!」
私は両手を前に突き出した。すると風がヒュルルーッと渦を巻き、鳥の羽がパァッと舞い散った。羽毛が散ったその場所に、青い小さなヒヨコが出現する。
「おっす! オラの名前はルフィード。風の精霊王だ。初めまして、でいいんだよな、ユウノ様。よろしくだべ!」
「よろしくルフィード! ふあああー! 青くてフッサフサでモコモコー♡ ヒヨコ可愛い♡」
私はルフィードを手のひらに乗せ、頬擦りをした。
「おいおいユウノ様! いくらオラが可愛いからってはしゃぎすぎだべさ! 用事があって召喚したんでねぇのが?」
「あっ、そうだった」
あまりの可愛さに我を忘れてしまった。反省。私はルフィードを床に下ろし、お願いをしてみる。
「あのね、これから私がこの【魔術拡声機】で喋る声を、風に乗せて国中に広げて欲しいの。出来るかな?」
「そんな事、朝飯前だべ! したら、喋ってけろ! オラが広げてやるすけ!」
ピヨピヨとなくルフィード。か、可愛い♡
「よし! それじゃあぶっつけ本番! 行くね!」
「んだ! 頑張るだユウノ様!」
「見守ってるぞ、ユウノ!」
ルフィードとエルの見守る中、私はスピーチを開始した。
「あっあー。テステステス。ただいまマイクのテスト中。ええーっと、世界各国にお住まいの方々、初めまして。私は魔王エルデガインに変わりまして、この世界の征服を企む二代目魔王ユウノと申します。以後、お見知りおきを」
私が喋り始めると同時に、ルフィードが一生懸命羽をパタパタさせ始めた。くおおお! なんじゃその可愛さ!
あっ、音が響く範囲が広がった気がする! よし、彼? に任せちゃって大丈夫そうだ。
「えっとですね。征服と言っても、別に皆さんをいじめたり、酷い目に合わせようとは思っていません。ただ、みんなが一緒に同じ方向を目指して進んで行ければいいなぁと思っています。それが気に食わない、とか、魔王、やっつけてやるー! と言う方は、是非是非私こと魔王ユウノを討伐にいらして下さい。ただ私の部下はみんな強いので、心して来てくださいね。住所、今から言うんでメモして下さーい。ラダガスト王国の北、ダークフォレスト7番地、魔王城です! よろしくお願いします! それじゃ、待ってるよー!」
私はスピーチを終え、指で輪っかを作ってルフィードにオッケーのサインを出した。パタパタしていたルフィードが、羽ばたきを止める。
「ふぅふぅ、疲れただぁ! 国中に音を運ぶって、思ったより大変だっただぁ! 疲労困憊だべぇ!」
へばるルフィード。どうやら全然朝飯前じゃなかったらしい。
「大丈夫? ルフィード。ありがとう」
私はルフィードを手のひらに乗せ、チュッとクチバシにキスをした。
「あああーっ! ユウノ! なんて事を! 俺だけのキスだったのに!」
「ピピピ! 光栄ですだユウノ様!」
慌てるエルと、喜ぶルフィード。
「妬きもちは嬉しいけど、怒っちゃダメだよ、エル。ルフィードすっごく頑張ったんだから。何か甘いものとか、元気になる料理を作ってあげて欲しいの。お願い」
私はルフィードを手のひらに乗せたまま、ぺこりと頭を下げる。
「くっ。確かに頑張ったな、ルフィード。今ある材料で、何か作ってやる。ユウノも素晴らしいスピーチだったぞ。さすがは俺の娘だ。偉いぞ」
そう言って、エルは私の頭を撫でてくれた。
「えへへ。これで、冒険者さん達来るかな」
「ああ、来る。きっと来る。それまでに、しっかりおもてなしの準備をしないとな。これから忙しくなるぞ!」
「うん! 頑張ろうね!」
私はまだ見ぬお客様達を想像しながら、満足度ナンバーワンの魔王城にするべく、プランを練るのだった。