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第13話 お風呂と日記帳とおもてなし計画。

「ここが、私達の部屋......!」


「おう、そうだぜ。布団もシーツもディーネが洗濯して、俺様がバッチリ乾かしておいた。ホコリもチリも一切ねぇ筈だぜ。ゆっくり休みな」


 魔王城の執事でもある、火の精霊王こと「ラマンダ」に部屋を案内された私達。白を基調とした内装で、調度品も白。大きなベッドが中央にあり、テーブルセットに可愛いドレッサーもある。


「ありがとうラマンダ!」


「へっ。いいって事よ」


 ラマンダは照れたように、鼻を擦る。


「案内ご苦労だったな。もう消えていいぞ」


「言い方......。わーったよ、後でユウノ貸せよ!」


「貸すか! いいからとっとと失せろ!」


「へいへい」


 ラマンダはおどけた調子で笑い、私にウインクすると火柱を上げて消えた。


「うわぁい! 私達の部屋だー! 嬉しい!」


 私はドレッサーに向かって走った。そして「うんしょ」と椅子に登り、この世界に来てから初めての鏡を見る。


「可愛いー♡」


 自分の顔を見て思わずウットリ。前世の私も中の上くらいの容姿だったと自負してはいるが、今の姿は比べ物にならないくらい可愛いらしかった。まつ毛は長く、目も大きくてクリックリ。シルバーブロンドに青い瞳。白い肌もあいまって、本当にお人形のようだ。


「なんだ、自分の顔を見たことがなかったのか?」


 エルはドレッサーの後ろにしゃがみ込み、私の顔に頬擦りする。


「うん。水面や窓に映った姿をチラッとは見た事あるけど、こんなにマジマジと見たのは初めてだよ。鏡って、どこにもある訳じゃないみたいだし。良かった、この部屋に鏡があって」


 私は自分の顔をジーッと見つめた。可愛い......♡ 何時間でも見ていられる。


「ふふっ、俺が溺愛するのも納得だろう? さぁおいでユウノ。疲れただろう。お風呂が沸くまでの間、パパと一緒に少し寝よう」


「うん♡」


 私は旅で汚れた服を脱ぎ、下着姿になってベッドに横になった。エルは既に魔狼に変身して、私を待っていてくれた。私はエルのたっぷりとした銀色の毛並みに、むぎゅっとしがみつく。


「ふわぁ......! モッフモフ♡ 最高......!」


「ふふっ。好きなだけ味わうがいい。この俺のモフモフをな」


「うん♡」


 私はあっと言う間に眠りに落ちた。



 しばらく夢の中を彷徨っていると、エルの声に呼ばれる。


「ユウノ、風呂が沸いたぞ。起きろ」


 ぱちっと目が覚める。目の前にはイケメンバージョンのエル。


「ふわぁ......好き♡」


 私はエルの金色の瞳に吸い込まれるように、彼の頬にキスをした。


「お目覚めだな、姫。ふふっ。お返しだ」


 エルも私のおでこにキスをする。


「さぁ行こう。汗を流してさっぱりしよう」


「うん!」


 エルに抱っこされて廊下を渡り、浴室へ。


「ふわぁぁー! すっごぉい!」


 浴室はめっちゃくちゃ広くて、神殿みたいに柱がいっぱい立っていた。うおお、あれ、映画とかでみた事ある! あれだよライオンの口から、ダーッてお湯が出てくるやつ!


「風呂はディーネとラマンダ、二人の管轄だ。ディーネが水を出し、ラマンダが湯に変える。連携プレイだな」


「へぇ、そうなんだ」


 お風呂は混浴だった。私もエルも素っ裸になり、お湯に浸かる。


「ふぅ。温まるな」


「くぅー。極楽極楽ぅ♡」


 私はおばあちゃんみたいな事を言いつつ、エルに抱っこされたままお風呂を堪能した。


 旅の疲れが抜けて行く......。と言っても私は道中、ずっとエルにおんぶに抱っこだったのだけれど。


「エル」


「ん? なんだ、ユウノ」


「あのね......」


 私はエルに抱きつき、耳元に唇を寄せた。


「大好き♡」


 そう囁く。エルは満足そうに微笑み。


「俺もだ、ユウノ。お前を愛してる」


 そう言って、ほっぺたにキスをしてくれた。


 お風呂を上がって、二人の部屋へ。エルはベッドに横になる。


「おいで、ユウノ」


「うん、ちょっと待って」


 私はドレッサーの引き出しが気になっていた。中にはおそらくシーラが使っていたであろう化粧品とアクセサリー。そして一冊の日記帳が入っていた。


「ねぇ見てエル! シーラさんの日記があったよ」


「何? ああ、それか。以前、シーラに読ませてもらった事がある。楽しそうに、『計画』の事を話していたよ」


 私は日記帳を持ったまま、イケメンなエルが寝そべったベッドに添い寝した。


「計画って?」


「ああ、貸してごらん。ほら、このページだ」


 エルはパラパラと日記をめくり、中ほどで止めた。エルが開いたページを、寝そべったまま読む。それに書かれていた内容は、題して「おもてなし計画」。お客様をいかにもてなすか、という内容だった。


「すっごいね、この計画! めっちゃ楽しそう! 実現したの?」


 私はワクワクしてエルに尋ねた。だがエルは寂しそうな目で微笑む。


「準備はしていたんだがな。エルフやドワーフなど、近隣の隠れ村に住む亜人達を招いて体験会を開いていた。彼らの協力もあって、もう少し、と言うところまで行っていたんだが......実現する前に、シーラは疫病で死んでしまったんだ」


 私はハッとなった。エルに辛い事を思い出させてしまった。


「ごめん、エル......!」


「いや、いいんだ。こうして君は帰ってきてくれた。本当に、ありがとう。もう、二度と俺を置いて行かないでくれ」


 そう言って、エルは私を強く抱きしめた。彼の声と体は、僅かに震えていた。


「うん。行かないよ。ずっと一緒。いつも一緒。私達は、一心同体。一生一緒にいようね」


「ああ......! ありがとう、ユウノ」


 熱い涙が、エルの頬を伝って私の首に落ちる。私の寿命はいかほどだろう。エルはどのくらい、生きられるのだろう。どちらもわからない事だったが、私はきっとエルが死ぬまでは死なない。不思議とそんな気がした。


「エル、この計画ね、私やってみたい。せっかく生まれ変わったんだもの、やり遂げてみたい。手伝ってくれる?」


 そう言った私をエルは正面から見つめ、頷いてくれた。


「もちろんだ。俺はおまえの為ならなんだってする。何から始める?」


「ありがとう。そうだなぁ、どうしよっか......」


 私はエルから日記を受け取り、ページをめくっていく。


「そっか......シーラさんはエルが魔王である事を宣伝に使おうと思っていたんだね。そして討伐にやってきた冒険者をもてなす、か」


「ふっ、そうだったな。シーラはある日突然、単独で魔王城に乗り込んで来た。そしてあっという間に俺たちを改心させた。精霊王達の不思議な力で、俺たちの邪心を払ったんだ。その後は俺の配下のモンスター達も使って、計画の準備を進めて行ったんだが......魔王を討伐しようなんて勇敢な冒険者は、結局現れなかった。シーラが生きている間はな」


 エルは記憶を辿るように、私と一緒に日記を読んだ。


「シーラさんが死んでしまった後に、勇者ルーファスがやってきた。そしてエルはルシアさんを彼に預け、この城を去った」


「ああ、そうだ」


 エルは辛そうに目を閉じる。ルシアさん......今はスルーシャさんだけど、彼女の事にはこれ以上触れない方がいいだろう。


「うん。よし、決めた! 私、魔王になる!」


 ガッツポーズを取る私を、エルは面食らった様子で見つめる。


「なっ、何を言っているんだユウノ! 自分が何を言っているのか、分かってるのか?」


「もちろん分かってるよ。シーラさん、つまり前世の私のアイディアを、もう一度使うだけ。魔王再来をアピールするの。だけどエルの強さはみんな知ってるし、きっと恐れて討伐にはやってこない。まぁルークは来るだろうけど......勇者じゃない冒険者でも気軽に来れるように、あえて私が魔王になるの。六歳児が魔王なら、ワンチャンあるかもって、思うでしょ?」


「むっ、確かにな」


 エルは戸惑いながらも納得する。


「だからね、私が二代目魔王。今日から魔王。おもてなしをする準備がある程度出来たら、宣伝しよう! そしてね、討伐にやってきた冒険者さん達を、いっぱいおもてなしして、私達を好きになってもらうの! 味方になってもらうの!そうしたら、もう逃げも隠れもしなくていい。堂々と生きていける。魔王は悪の象徴じゃなくて、善の象徴にだってなれる!」


 私はワクワクしていた。きっとうまく行く。そう確信していたからだ。


「それはいいな。さすがユウノ! 俺の娘だ!」


 エルは私を抱きしめて、頬擦り&頭ヨシヨシをしてくれた。


「えへへ......♡」


 私は自然に笑みがこぼれた。エルには言ってないけど......私の最終目標は、スルーシャさん。彼女とエルの和解だ。その為に、頑張る!


「そうと決まったら準備だね! だけどその前に......」


 ぐきゅるーっと私のお腹が鳴る。


「ははっ、ユウノの腹時計は正確だな。ちょうど昼だぞ。よし、待ってろ。最高に美味い、魔王料理フルコースを作ってやる。いや、元魔王か」


 エルはそう言って笑いながら立ち上がり、颯爽と腕まくりをしたのだった。






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