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第6話 戦う覚悟。

「魔王エルデガイン! 貴様は完全に包囲されている! 大人しく投降しろ!」


 この声は、商業ギルドの長にして、この町の町長でもあるホプキンスさんの声だ。昨日エルと一緒に商業ギルドに行った時に、誰かを怒鳴り散らしているのを見かけた。


「すまない、ユウノ。せっかく一緒に暮らせると思ったのに......」


 エルの綺麗な顔が、辛そうに歪む。私はエルを抱きしめ返し、事情を尋ねる事にした。


「エル、今日は配送の仕事をしていたんだよね? 一体何があったの?」


 私が聞くと、エルはガックリとうなだれる。


「ああ。俺は真面目に配送の仕事をしていた。その折に【勇者】を名乗る小僧が、俺の行く手を阻んだのだ。小僧はお供を三人も引き連れて、俺にこう言った。お前、魔王エルデガインだろう、とな」


 なんて事......! ルークに間違いない。


「どうして、その勇者はエルが魔王だってわかったの?」


 エルの見た目は普通のイケメン過ぎる青年でしかないのに、それが不思議でならなかった。


「ああ。それはな......いや、その説明の前に、ユウノに謝っておこう。俺が魔王だった事、隠していてすまない。言う必要性を感じなかったし、余計な事を言ってお前に嫌われたくなかったんだ」


 エルは寂しそうに笑う。


「大丈夫。私が何があっても、絶対にエルを嫌いになったりしない。エルの過去も含めて、全部好きになって見せる。だから教えて、エルの事」


「ユウノ......!」


 エルの目から涙がポロポロと溢れる。彼はそれを隠すように、左手で覆った。


「ありがとうな......ユウノ、俺はお前が本当に愛おしい。今の俺にとっては、お前が全てだ。絶対に失いたくはない。だからこの状況をどうやって乗り切るか、それを考えなくてはならない。だがまず、先程の質問に答えよう。今は時間がないから手短に話すが、あの小僧が俺を見破った能力は、おそらく勇者ルーファスから受け継いでいる。あの小僧も勇者だと言うなら、間違いないだろう」


「そっか。じゃあ勇者は、変身を見破る力を持っているんだね」


「ああ、そうだ。魔王だった俺はある女性に諭され、改心して人間として生きていたのだが......ルーファスは即座に俺が魔王だと見破った。今日の出来事は、あの時を彷彿させるよ」


 エルはそう言って、深いため息を吐いた。


「エル、結婚してたんだ」


「ああ。だが、彼女......シーラは疫病で死んでしまった。ルーファスはシーラの弟でな。俺が彼女を殺したと思い込んで、復讐しようとした。しかし俺とシーラの間に子供がいるのを知って、俺が殺したのではないとわかってくれた。それでも結果として、俺が魔王だと言うことは周囲の知る事となった。その為俺は、ルーファスに子供を預けて姿を消したのだ。二度と人間を傷つけないと約束してな。そしてルーファスは、俺を討伐したと世間に公表した」


 そうか......それでエルは、たった一人で森の中にいたんだ。


「そんな事があったんだ。辛かったね。その子は今、どうしてるの?」


「わからん。だが、きっとルーファスの子として立派に成長しているだろう。もしかしたら、母親になっているかも知れないな」


 エルはそう言って、遠くを見つめた。ルーファスさん......つまりルークのお爺ちゃんの養子になったって事か。ルークの親戚か何かに当たるのだろうか。


「母親って事は、女の子なんだね。名前は、つけていたの?」


「ああ、もちろんだ。名前はルシア。あの子の事を忘れた事はないが......きっともう、二度と会えないだろうな」


 遠くを見つめるエル。なんとか力になってあげたいな......。


「ねぇエル。今は無理かも知れないけど、いつかきっと、その人を探してあげる。私、魔術が使えるみたいなの」


「何? 魔術だと? そうか......何か不思議な力を秘めていそうだな、とは思っていた。だが、いい。ルシアの事はそっとしておいてやりたいんだ。それに、今の俺にはユウノがいるしな」


 エルはそう言って微笑むと、私を抱いて立ち上がった。


「さぁ、覚悟を決めて行くとしよう。大丈夫だ。お前は俺が守る。町長が何を言ってこようと、決してお前と離れたりはしない。安心しろ」


「うん! 私も同じ気持ちだよ、エル! 絶対に離れない!」


 エルは玄関のドアを開けた。外には大勢の人がいて、私達の家を取り囲んでいた。人々の中心には町長のホプキンスさん。そしてその横には、ルーク達。


「おいで、リスタ」


「はい、ユウノ様!」


 私はリスタを呼んだ。彼はテテテッと駆けてきてジャンプ。私の腕に収まった。


「やっと出てきたな、魔王。まさかユウノの保護者だとは思わなかったが」


 ルークがが吐き捨てるように言う。あんにゃろ~! 余計な事してくれちゃって、もう! 憎たらしいったらありゃしない!


「さて、エルデガインさん。言わずともわかっていますな」


「ええ。この町を出て行きます。ユウノと二人で」


 静かに答えるエル。だが町長はルークと目を合わせ、ニヤリと笑う。


「悪いが、そう言う話じゃない。あんたにはここで死んでもらうよ。だが安心しなさい。ユウノちゃんの事は勇者様のご家族が、今後の面倒を見て下さるそうだ」


「なっ......!」


「えっ......!」


 エルも私も絶句した。そんな事が許されるの? エルが、魔王だから? モンスターだから? だから、殺してもいいって言うの? 死ぬべきだと言うの? ただひっそりと、人として生きようとしているのに......それも許しはもらえないの?


「貴様ら......また俺から家族を、奪う気かぁぁぁ!」


 エルの体がメキメキと音を立てて変化し、魔狼の姿になった。その表情からは、激しい怒りが見て取れる。どうやら戦闘は避けられない。


「やるよ、リスタ!」


「僕の出番ですね、ユウノ様! もちろんです! お任せください!」


 私も戦う覚悟を決める。エルは私が、守るんだ!

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