目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第4話 魔王。

「マニュアルに書いてある事なら、読まなくても私が教えてあげるわ」


 優しいスルーシャさんの指導により、私はマニュアルを見ずにして冒険者の成り立ちや心得、ルール、スキルの使用方法、資格(クラス)等について学ぶ事が出来た。


「という訳で、冒険者ギルドは商人を守る為に出来上がった組織なのよ。騎士が領主や領地を守るようにね。だから商業ギルドの中に、冒険者ギルドはあるの」


「なるほど~」


 私はふむふむと感心した。


「かつて魔王エルデガインが人々を虐殺し、大陸は恐怖につつまれたわ。それを冒険者だった勇者ルーファスが打ち倒し、一時的に平和が訪れたの。けれど、魔王という統率者が消えただけで、モンスターが人を襲う事に変わりは無い。だから相変わらず、モンスターは人間にとって天敵ね。だけどルーファスの活躍もあって、モンスター退治と言えば冒険者。そういう認識が広まったの」


 へ? 魔王の名前......なんて?


「あの、スルーシャさん......魔王って、どんな奴だったんですか?」


 恐る恐る聞いてみる。するとスルーシャさんはニヤリと笑う。


「知りたい? じゃあ、教えてあげるわ」


 子供に怖い話をするのを楽しむように、スルーシャさんは目をキラキラさせている。


「ふぁー。僕はもう何度も聞いたよ。寝てもいい?」


 ルークは知っている話しばかりで飽きてしまったようだ。


「それでは私の胸で、お休み下さいルーク様」


「いいや! ルー坊はアタシの胸で」


 セレスさんとゲヘナさんが、ルークの顔を胸で挟み込む。


「いいから聞きなさいルーク! お爺様のお話なんだから!」


「はい! ごめんなさい!」


 寝に入ろうとするルークを、スルーシャさんが一喝。ビクッと飛び跳ねるルークが面白い。


 ん?お爺様の話?


「勇者ルーファスは、ルークのお爺さんなんですね」


「ええ、そうよ」


 頷くスルーシャさん。勇者の孫が勇者。勇者というクラスが血筋で受け継がれるとしたら、別に不思議ではない。


「魔王エルデガインが討伐されたのは、訳ニ十年前の事。割と最近なのよ」


 やっぱり魔王の名前、エルデガインって......!


「エルデガインはね、狼の姿をした魔物【魔狼】なの。【魔狼】は銀色の毛並みで、普通の狼に比べてとても大きくて賢い。人の姿になれるし、魔法も使えるそうよ。エルデガインはその中でも、最強の魔力を持っていたと聞くわ。ルーファスに打ち倒された後も、どこかでまだ生きている、なんて噂もあるくらいよ」


 エルの外見とそっくり......! じゃあ、魔王エルデガインって、エルの事なの? だけどそんなの、信じられない。


 あんなに優しいエルが魔王で、人々を虐殺していたなんて。そんなの、想像もつかない。


 やっぱり違う。きっと違う。私の知っているエルの優しさを、信じよう。そうだよ。娘の私が、お父さんの事を信じないでどうするの?


 エルに髪を撫でてもらった感触。抱きしめてもらった感触。温かかった。とってもとっても、温かくて、優しくして。ほっとするの。エルといると、幸せなの。


「ユウノちゃん、どうして泣いてるの?」


 スルーシャさんが、私の顔を見てハッとなる。自分でも気づかないうちに泣いていた。涙がどんどん溢れてきて、止まらない。


「なんでも、ないんです。ごめんなさい。私、帰ります。あの、色々教えてくださって、ありがとうございました」


 椅子を飛び降りて走る。


「ユウノちゃん!」


 スルーシャさんが私を呼ぶ声が聞こえたが、振り返らなかった。


 エルに会いたい! エル! エル!


 私の頭はエルの事でいっぱいで、どうやって帰ったかも分からないうちに、家の前に着いていた。まだお昼にもなってないし、当然エルは帰ってきていない。


 家の中に飛び込み、後ろ手でドアを閉めた。そして自室へ行き、心を落ち着かせる為に布団に入る。


 もしも......もしもエルが魔王だったとしても。私のエルに対する気持ちは変わらない。もしも彼に危害を加えようとする人がいるなら......!


 戦う。私がエルを守るんだ。例え相手が誰であっても。そう、あのスルーシャさんやゲヘナさん、セレスさん。そして......勇者ルークであったとしても、絶対に負けない。何故か私には自信があった。誰にも負けないという、揺るぎない自信が。


 エルが帰ってくるまでの間、私は自分が出来る事を確認する事にした。エルに危害を加える人がいれば、私は戦う。そう誓ったからだ。布団から出て、ベッドに腰掛ける。


「まずは、能力値(ステータス)の確認っと」


 冒険者ギルドで貰った「冒険者証」。これには魔術がかけられていて、冒険者としての身分証明になるだけでは無く、強さの提示も出来る。


 また、隠したいステータスは隠す事も可能。その場合は自分にだけ見る事が可能だ。


 冒険者の表に記載された私の情報はこんな感じ。


 名前 ユウノ・ミツイシ

 年齢 6歳

 居住地 シュエンビッツ7番地コーエン通り・アーバラハウスAー2

 冒険者ランク D

 クラス 召喚魔術士 レベル999


 これだけ。レベル999って、すごいのかな?スルーシャさんに聞いておけば良かった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?