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第3話 永遠のライバル? 勇者ルーク登場。

 冒険者になれたのはいいんだけど、これからどうすればいいのかなぁ。


 あっ、そうだ! マニュアル! エルが買ってくれた可愛い肩掛け鞄から、さっき受け取った冒険者マニュアルを取り出す。


 そんなに大きくも厚くもなく、大人の手のひらくらいの大きさ。とりあえずこれを読んでみよう。


 どこか座る所......。あっ、あった。酒場の入り口付近に、丸いテーブルがいくつかあり、冒険者たちが食事をしたり、雑談したりしている。


 トテトテと歩いて近づく。ああ、遠いよう。足が短いって大変だ。大人の人たちにぶつかりそうになりながら、どうにか空いている丸テーブルに辿り着く。


「ふー、やっと着いた」


 ようやく辿り着いた丸テーブルは、小さい私には見上げる程の大きさ。


「えいっ」


 爪先立ちになって手を伸ばし、マニュアルをテーブルに乗せる。よし、次は椅子だ。


「てやっ」


 私は気合を入れ、椅子の座る所に手を置いて「うんしょ、うんしょ」とよじ登る。ふぅ、ふぅ、結構腕の力必要だよこれ。


「あらあら、大丈夫?」


 誰かが私を抱き上げ、椅子に座らせてくれた。椅子にちょこんと座り、その人を見上げる。ふおおお! なんだこの美人! 髪は銀色のストレートロング、瞳は金色で肌は真っ白だ。切れ長の目に、優しくたたえられた笑み。プロポーションも完璧で、スラリとした長身に素敵なドレスをまとっている。まさに理想の女性って感じ。女優さんみたい。


 例えるなら、エルを女の人にしたって感じかな。エルの髪や目の色は珍しいと思っていたけど、この世界には結構いるのかも。


「お嬢ちゃん、一人? お父さんかお母さんはいないの?」


 美人のお姉さんは心配そうに私を見る。


「あ、えっと、お父さんはいるんですけど......今はお仕事に行っています。私、どうしても冒険者になりたくて、一人でここに来たんです」


「まぁー! 偉いわねぇ! それに受け答えもしっかりしてるし、すっかりお姉さんね。お名前は?」


 お姉さんは感激した様子で、私の髪をヨシヨシと撫でてくれた。


「ユウノです」


「ユウノちゃん! 私はスルーシャよ。よろしくね。ねぇユウノちゃん。私と家族も、このテーブルを使っても良いかしら。一緒に座らない?」


 お姉さんはニッコリと微笑んだ。なんとも癒される、優しい笑みだ。


「もちろんです! 是非!」


「ありがとう。あらぁ、可愛い『おてて』ね」


 スルーシャさんはそう言って、私の手をキュッと握って握手してくれた。


「みんな~こっち空いてるわよ~このユウノちゃんがね、一緒に座ってもいいって~」


「あいよ! 今行くぜスルーシャ様! ほら、セレス、ルー坊、行くぜ!」


 男性のような勇ましい口調で答えたのは、筋骨隆々の大柄な女性だ。ビキニのような鎧を身につけている。 露出度が高く、健康的な曲線美。肌は褐色で、髪は癖っ毛セミロングの赤。口調に反してものすごい美人のお姉さんだ。


「ゲヘナのくせに、ルーク様を急かさないでください。さぁ、私と共に行きましょう、ルーク様」


 セレスと呼ばれたお姉さんが、男の子の手を引いてこちらに歩いてくる。


 お姉さんの服装は、前世でもみたメイドの服装。金色が美しいロングヘアーで、頭にはホワイトブリム。豊満な胸を包むのは白のエプロンドレスで、彼女も抜群のスタイルだ。


 そして彼女が手を引く男の子。ルークと呼ばれたその少年は、スルーシャさんと同じく銀色の髪に、金色の目。第一印象は、天使。クリクリの癖っ毛ヘアに、長い睫毛。白い肌に愛らしい唇。一見すると女の子のようにも見えるが、名前や呼ばれ方、服装で男の子と判断出来る。


 彼は半ズボンにシャツとジャケットという少年らしい服装だった。


「ああ? ゲヘナのくせにってなんだよセレス! 聞き捨てならねぇぞ!」


 赤髪のお姉さんはゲヘナと言うらしい。のっしのっしとセレスさんに歩み寄る。


「本当の事を言ったまでですわ。ルーク様の通行の妨げになりますので、そこをどいてください」


「るせぇ! ルー坊はアタシが手を繋いで連れてくんだ!」


 ゲヘナさんはルークの空いている手を握り、彼を挟んでセレスさんと並ぶ形になる。


「僕は別にどっちでも構わんがな。二人で連れて行ってくれたらいいだろう」


 ルークは尊大に言い放つ。二人は満足気だったが、それでもお互いをライバル視しながらこちらに向かってくる。


 やがて三人はテーブルに到着し、セレスさんがルークを抱っこして椅子に座らせる。ルークは背丈だけ見ると、私と同じくらいの年齢に見える。と言っても、私は自分の年齢を知らないけれど。まぁ、多分六、七歳くらいだろう。


「君がユウノか。ふむ、なかなか可愛いな。僕の下僕になる事を許可する」


 ルークは組んだ両足をドン! とテーブルの上に乗せ、見下したような目で私を見た。


「こらルーク! お行儀が悪いわよ! めっ!」


 スルーシャさんがルークの頭にゲンコツを落とす。


「いってぇ! ごめんなさい、母上......」


 泣きべそをかくルーク。どうやら二人は親子のようだ。まぁそうだよね。そっくりだから納得。


 ルークは足を下に下ろし、しゅんとする。


「ごめんなさいねユウノちゃん。この子ったら、ちょっぴりわがままなの。お父さんの影響ね。でも本当はとっても良い子だから、仲良くしてあげてね。ほらルーク、ご挨拶して」


 スルーシャさんはルークの頭をヨシヨシと撫でながらそう言った。


「......ルークだ。僕の資格(クラス)は勇者。強いんだぞ。逆らうなよ、いってぇ!」


 再びスルーシャさんのゲンコツがルークの頭に落ちる。


「そうじゃないでしょ」


 厳しい顔のスルーシャさん。


「うう......よろしく、ユウノ」


 涙目で右手を差し出すルーク。仕方ない。なんか悪ガキっぽいけど、スルーシャさんに免じて仲良くしてやるか。


「よろしくね、ルーク」


 私はルークの小さい右手を、同じく小さな私の右手で、そっと握ったのだった。

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