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転生幼女ですが、追放されたので魔王になります。
転生幼女ですが、追放されたので魔王になります。
アキ・スマイリー
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年02月10日
公開日
7万字
完結済
アラサー女子の三石悠乃(みついし ゆうの)は、目覚めると幼女になっていた。右も左もわからぬ異世界。モフモフな狼エルデガインに拾われ、冒険者となる。

だが、保護者であるエルデガインがかつての「魔王」である事を、周囲に知られてしまう。

町を追放され、行き場を失ったユウノだったが、エルデガインと本当の親子以上の関係となり、彼に守られながら僻地の森に居場所を探す。

そこには、エルデガインが魔王だった時の居城があった。すっかり寂れてしまった城だったが、精霊やモンスターに愛されるユウノの体質のお陰で、大勢の協力者が集う事に。

一方、エルデガインが去った後の町にはモンスターの大群がやってくるようになる。実はエルデガインが町付近にいる事で、彼を恐れたモンスター達は町に近づかなかったのだ。

守護者を失った町は、急速に崩壊の一都を辿る。


第1話 アラサー女子、幼女になる。

「他に好きな人が出来たんだ。ごめん。指輪、返して貰っていいかな」


 そう言って謝る、私の恋人。いや、元恋人か。


 一度怒りが沸点に達した私だけれど、その後一瞬で冷めた。と言うよりも、呆れてしまった。


 浮気して婚約破棄までは、まだわかる。納得はいかないけど、まだわかるのだ。


 だけど、指輪を返せってどぉゆう事!? 再利用すんの!? お相手が哀れすぎる!


「わかった。はい、どうぞ。婚約は解消って事でいいんだよね? いやぁ、むしろ良かったわ。結婚する前にあんたがクズだってわかって。さよなら」


 私はニッコリと微笑んで、彼の手に指輪を握らせた。そして振り返る事なく、颯爽とその場を後にした。


 アパートに着いて、シャワーを浴びる。気丈に振る舞っていた私だったが、シャワーと一緒に涙が流れた。


「はぁ......」


 ご飯を食べても味がしない。彼の申し訳なさそうな顔が、何度もリフレインする。そして、今までの楽かった思い出も。


 普通なら、ビンタの一つもくれてやる所だろう。だけど私は平和主義。なるべくなら穏便に事を済ませたい。軽い毒は吐くけどね。


 モヤモヤしながらも就寝。明日会社に行ったら、またあいつの顔を見なきゃならないのか。憂鬱だなぁ。


 休んじゃおっかな......。いや、いっそ辞めてしまおうか。


 ああ......。最近流行りの異世界に転生とかしたら、最高だなぁ。可愛らしい幼女になってさ。みんなに愛でられながら、自由気ままに生きるの。


 いいなぁ。憧れるなぁ......。


 そんな事を夢想しながら、私はまどろみの中へと落ちて行った。


「ふぁぁー」


 あくびをしながら起床。ん? 何かが私の顔を舐めている。


「うひゃああーっ! くすぐったい!」


 猫も犬も飼ってない筈なんだけど!? 一体何が起こっているのだろうか。


 恐る恐る目を開けると、大きな犬! いや、目の感じがちょっと違う。狼? 銀色の狼だ! でも日本に狼いなくない?


「おっ、起きたか。なかなか起きないから心配したぞ」


 しゃべったぁぁー! 狼しゃべったぁー!!


「あ、あのう。あなたは誰ですか?」


 狼に名前聞くとかシュールだわ。


「俺の名は、エルデガイン。お前は?」


「私は、ユウノです」


「ユウノか。変わった名前だな。ところで、どうしてこんな森の中で寝ていたんだ?」


 森の中って何!? ガバッと体を起こす。


「ふあああー!」


 本当に森だ! あたり一面木、木、木! 木しかない!


「なんでぇー!?」


 私はパニック状態。頭を抱える。ん? 何か変だ。手の感触も、子供に触れられているみたいだし、視点もやけに低い。もしかして......。


「ふああー! やっぱりぃー!」


 体が小さい! そう言えば、声もなんだか高くて可愛らしい!


 もしかして、この状況......! 憧れの異世界転生!?


 私死んだのかな? でもお布団に入って寝てただけだし、死ぬ要素一個もないよね? 神様にも合わなかったよ。多分。


 転生と言っても、生まれたてではないみたいだし。多分、六、七歳ってとこかな。全裸ではなくて、可愛い服も着ているのは安心要素だ。


「ふむ。何やら混乱しているようだな。記憶喪失か、人攫いにでもあったか? 事情は知らんが、人間は森に子供一人で来ないだろう? 町へ戻りたいなら連れて行ってやるぞ」


 狼のエルデガインは、そう言って身を低くする。大きかった体が、私が乗れるくらいに縮んで行く。


「少し小さくなってやったから、俺の背中に乗るといい。本気を出せば、近くの町まで一瞬で着くぞ。行くか?」


 町か。少なくとも森でジッとしているよりも、状況は改善される筈。


「あ、えっと、はい! 町に行きたいです! ご親切にありがとうございます、エルデガインさん」


 私は小さい体で、必死にエルデガインの体をよじ登った。結構毛を引っ張ってるけど、怒られなかった。痛くないのかな?


「よいしょ!」


 背中に到着。ふああー、あったかい。すっごいモフモフで癒されるぅ。 


「乗ったか? これから走るから、しっかり掴まってろよ。それからな、ユウノ。俺の事は、エルと呼べ。それから、さん付けもいらん。いいな」


「ふぁい。わかったよ、エル」


 ふああー。モフモフー♡


「では行くぞ! ハッ!」


「きゃああー!」


 うおおおー! めちゃくちゃ早いー! やばっ、まじでしっかり掴まんないと振り落とされる!


「着いたぞ」


「早っ!」


 本当に一瞬で着いた......。


「おっきいー! これが、町の入り口......!」


 私は思わず見上げた。街は石の壁で覆われ、アーチ状の入り口には、両サイドに数人の兵士が立っている。


「先程の森から一番近い街が、このシュエンビッツだ。状況から考えると、お前はこの町の出身である可能性が高い。混乱していたようだが、思い出せたか?」


 入り口に並ぶ人々を遠巻きに見ながら、エルは私にそう問いかけた。


「あ、えっと実は......私ね、こことは違う別の世界から飛ばされて来たみたいなの。だから、家もないし、家族もいないんだ。信じてもらえるかわからないけど......」


 自分で言ってて、ちょっと悲しくなった。異世界転生だー! わーい! なんて浮かれてる場合じゃないかも。


「なんと! それは大変ではないか。では俺が今日からお前の父親になろう。実は俺も一匹狼でな」


「いやぁ、気持ちはすごく嬉しいんだけどさ、エル。狼の娘が人間って、だいぶ無理があると思うんだけど」


「ふっ、案ずるな。俺は人の姿に変わる事が出来る」


 そう言った直後、エルは長身の青年に姿を変えた。毛並みと同じく銀色の髪に、金色の目。神秘的でとても綺麗だ。そして何故か、ちゃんと服も着ている。


「どうだ? おかしなところはないか?」


「おかしくない! めちゃくちゃかっこいい! 超イケメン!」


 きゃああー! やばい! ふおおー! 


「そうか。では行こう。ほら来い、抱っこしてやる」


「わーい♡ パパー!」


 エルは私を抱っこした状態で、颯爽と門番のどころへ歩いて行く。しばらく列に並び、私たちの番になった。


「シュエンビッツにようこそ。どう言ったご用事ですか?」


 兵士さんは意外と気さくで、にこやかに話しかけてきた。もっと厳しい感じかと思ってたから、少し安心した。


「実は家を探していまして。私はリューベル村の者なのですが、畑が不作続きで......商売変えの為に引越しを考えているんです。売りに出ている家を、見せていただきに参りました」


 きゃああー! エルったら、そんな話し方も出来ちゃうの!? 素敵! パパ素敵!


「そうでしたか。ではどうぞ。滞在証をお渡ししますので、こちらにサインを」


「わかりました」


 サラサラとサインをするエル。字も書けちゃうの!? すっげぇー! パパ最高!


 そんな感じであっさり町に入れた私たち。これからどんな生活が待っているのだろう。私はワクワクが止まらなかった。そしてパパ愛も最高潮だった。

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