=残念ですが‥‥リシャン‥‥あなたのエージェント権限を一時、はく奪します=
「‥‥‥‥」
=でも、そんな事はしたくはありません。この会話はオフレコです。今ならまだ大丈夫です。すぐにここから撤収しましょう=
「‥‥‥‥」
リシャンは動かない。只、真顔でクロウをじっと見つめる。
=本気なのですね=
「‥‥本気じゃない時なんてないけど?」
=‥‥‥‥分かりました=
クロウの瞳が紅い光を放つ。
「!」
全身から力が抜けて、リシャンは片膝をついた。
=これで、あなたはただのアバターと同程度になりました。これまで仮想世界で発揮してきた能力のほとんどが使用不可能です。切られれば痛みはあるし、酷ければ命を落とします=
「‥‥‥‥へえ」
リシャンは笑って立ち上がった。
「だから何?」
=彼らに介入する力はもう、なくなったという事です=
「そんな事ぐらいでね‥‥やめると思ってるの? この私が?」
フフ‥‥といつもの不遜な笑みを浮かべる。
「そんなもの無くて上等! この世界の人はね! 特別な力がなくても生きていく! 立ち向かってる! 私も同じ!」
=‥‥‥‥あなたと言う人はどうして‥‥=
クロウはしばらく黙っていた。カラスのアバターの向こう‥‥マイク越しに話している彼‥‥もしくは彼女は、今、何を考えているのか‥‥リシャンには分からない。
=何をどう思っても、今のあなたには何もできません。管理局への報告はしばらく保留にしておきます。しばらく頭を冷やせば、無慮さが分かると思います=
そんな捨て台詞を残して飛び立っていった。
「‥‥ありがとう‥‥‥‥」
本気で指令無視を咎めるつもりなら、リアル世界にある本来の身体と、今のアバターとのリンクを切ればそれで済む。敢えてそれをしなかったのは、本気でリシャンの造反を管理局に知らせたくないと考えていたからに違いない。それでも、時間が経てば局も気が付く。そうなる前に思い直してくれれば‥‥というのが、クロウの思惑のようだ。
「残念だけどね‥‥」
リシャンは地面を踏みしめる。体が重い気がするが、それは気のせいだけでもないようだ。
とにかく戦闘を避ける方法を探そう‥‥何か‥‥何かあるはずだ‥‥‥それだけを頭の中で模索しながら、湾岸連合の本部に戻る。
「?」
中では誰もが慌ただしく走り回っている。何か起こったようだ。
アジェトがいたので、彼の挙動が一段落した所を見計らい、近くに寄って理由を聞いてみた。
「政府軍の艦隊が接近してると報告があった。今回は王も来てるらしい」
「‥‥‥‥」
既に部隊は向かってきている。このような臨戦態勢の状態で両者の戦闘を中止にする方法があるとも思えない。
「結局‥‥私は‥‥」
クロウにあんな事を言っておきながら、何も出来ずにいる。
「それでは我々はこれで」
エージェント権限がない、ただの少女である事を知らない彼らは、それぞれが武器を携えてトラックなどの車両に乗り込んでいく。
「では‥‥姉さん‥‥お元気で‥‥」
「‥‥‥‥」
キアンが手を伸ばしてきたので、リシャンは無言でその手を掴んた。
慌ただしかったまわりは静まり返っていく。
彼らの大部分はもうここに戻ってくることはない。
それなのになぜ、ああも自然に向かって行けるのだろうか。
命を粗末にしすぎる。バジラフ王の言う通りにすれば、無駄にする事もなかった。
「‥‥‥‥」
雲と言う存在を忘れるかのように空がどこを向いても蒼く、白い煉瓦作りの家々はその光と調和していて、見ていると心が震えてくる。
「‥‥ふん」
空と大地‥‥どっちが良いとか、悪いとか‥‥そういう事ではなかった。その事に、たった今、気が付いた。
自分の心の中に信じ続け、持ち続けるもの‥‥矜持。それは正しいかどうかではなく、何を信じて生きていくか選んだもの‥‥ただそれだけの事。
アジェトは命より大事なものがあった。
バジラフは命が何より大事だった。
その天秤はどちらに傾くのか‥‥それは結果でしかない。
「‥‥‥‥」
そこまで考えたリシャンは立ち止まって自分の胸に手を当てる。
自分はどうしたいのか?
「‥‥‥それだけでいいじゃない」
今まで出会ってきた人達はどうだった?
皆、命を糧に目的に向かっていってた。命が惜しくて何もしなかった人はいない。
命は何か、事を成す為にあると。何もせずにただ生きてるだけなら、それは死んでいるのと同じなのだ。
「私もそう思う!」
リシャンは手を握りしめる。
踵を返して兵舎まで走っていく。リシャンはありとあらゆる武器の使い方を教育プログラムによってマスターしている。迷う事なく中の武器庫から残っているライフル銃を取り出し、カートリッジに弾を込める
「グダグダ考え込んで馬っ鹿じゃないの?」
歪みが発生しないように、なるべく犠牲を少なく停戦させる。それには政府軍の猛攻を切り抜け、バジラフの所にたどり着かなければならない。
たどり着いて、認めさせる。
状況が悪くても、命より為しえたいものがあったから、こうしてあなたに勝てたのだと。
そんな人達を守るなんて事はしなくていいのだと。
リシャンは政府軍が接近している港へと向かった。
リシャンが到着した時、既に戦闘は開始されていた。
政府軍の揚陸艦は桟橋に接舷し、あの銃を構えた兵士達が次々と降りてきている。
赤い光線が次々と撃たれている。前回、その銃の脅威が身に染みていたアジェト達は、分厚い土嚢を積み上げて、それに対処していたが、それでも突き抜けて撃たれる者もいる。
「ぐあ!‥‥くそ!」
タイミングを見計らって小銃を撃つ。前回の反省から、貫通力の高いAP弾に変えている為、途中で見えない壁に落とされずに命中する弾もあった。だが、威力が削がれる為に、
装甲服を着ている政府軍の兵士には思っているほどの効果は出ていない。
アジェト達は劣勢に追い込まれてつつある。
「‥‥‥‥」
リシャンは近くの塹壕に潜り込んだ。
「姉さん!」
キアンが驚きの声を上げる。
「どうしたんです?‥‥もしかして、また我々の味方になってくれるんですか?」
そう言う彼はあちこちから出血している。
「‥‥‥‥」
ここは仮想世界なはずだが、その姿は残酷な程に現実味がある。
「味方はするけどね‥‥相手を倒しに来たんじゃない」
リシャンはポケットから包帯を出し、キアンの傷口に巻き付けた。
「?は‥‥どういう事です?」
「‥‥‥‥」
どう説明すべきか‥‥どこから言っていいのか分からず、リシャンは諦めて首を振った。
「キアン! あなたは私の何?」
「は! 忠実な舎弟です!」
「じゃあ、今だけでいいので私のお願い聞いて!」
「もちろんです!」
その会話の途中で、隣の塹壕が爆発した。リシャンは顔を背ける。
「‥‥今から私は政府軍の揚陸艦に突入するから、あなたは援護して」
「そ、それは危険では?」
「私を誰だと思ってるの?」
「は! 失礼しました!」
キアンはにやりと笑う。
「リシャンの姉貴が向かえば、あんな奴ら、いちころですからね」
「当たり前でしょ」
リシャンも口元に笑みを浮かべる。
マガジンに銃を装填し直す。腰にも予備の弾倉を入れる。
隙間から覗くと、政府軍はだいぶこちら側に前進してきているようだ。
これは逆にチャンス。あそこを抜ければ手薄なはず。
そう考えたリシャンは、小銃を両手で持って背中を塹壕につける。次の攻撃がおさまった瞬間に一気に駆け抜ける。
「‥‥あとついで言っておくけど、あなたがそれでどうなろうが、どうでもいいのよ」
「は!」
「でも私的には戻ってきた時にお腹が空いてるのが嫌なので、戦闘が終わったら料理の準備をしておくように」
「え?‥‥いや‥‥はい、わ、分かりました」
「Ok!‥‥じゃあ‥‥」
攻撃の手が緩んだその瞬間、リシャンは外に飛び出した。
そのまま走りだそうとしたが、途中で足を止めた。
「‥‥‥‥良い人生の旅を」
「は? 何ですか?」
「‥‥‥‥」
キアンの声には答えず、ただ真っ直ぐに敵の中へと向かっていく。
「‥‥‥‥」
足元の瓦礫の凹凸が走りにくい。武器などの装備が重い。そもそも体の重量をコントロールする事が出来ない。
行動する度に体の体力値が減っていくのが分かる。
「‥‥‥‥」
正面に五人組の兵士が現れた。リシャンは引き金を引いたが、倒せたのはその中の一人。残りはリシャンに向けて、赤いレーザーを撃ってきた。
「‥‥‥‥」
この時代の銃火器に比べて、レーザーは直進的で全くぶれる事はない。
正確に方向を捉えれば、回避する率も高まる。
理屈ではそう理解はしていたが、実際にそれを実践できるかどうかは別問題だ。
一発‥‥二発‥‥リシャンは走りながら、その軌跡上に体を置かないように体を反らした。
途中で政府の兵士達が倒れるのを目にしたが、それはキアンが援護してくれたからなのだろう。距離が離れすぎたのかやがてそれもなくなった。
「‥‥‥‥」
頬すれすれを光線が通り過ぎていく。袖や髪の端が突然の風に細かく散った。
「行ける!」
そう口走った瞬間、鈍い痛みが腕を襲った。
「‥‥つ‥‥」
走って兵士達の頭上を飛び超えて通り過ぎたリシャンは、脚に向けて銃を撃つ。連続した弾の幾つかが命中し、彼らはその場に呻いて倒れた。
「‥‥‥‥これが‥‥痛さ‥‥」
思考のほとんどが、その負の感情で塗りつぶされていく。抗う事は至難の技だ。
軍服が赤い色で染まっていく。これは普通のAIの反応と同じだ。
“あそこだ! 撃て!”
「!」
じっとしていればただ的になるだけだ、
レーザー光が足元に突き刺さり、粉塵が辺りを舞う。
「‥‥‥‥」
リシャンは敢えてその煙の中に突入する。視界が効かないのは向こうも同じだが、対峙したその刹那の瞬間、より冷静な判断が出来たら、そこに活路が見いだせる。
ダッシュして煙を突き抜ける。
「!」
出たすぐ目と鼻の先に兵士の集団がいた。
リシャンは視線を素早く動かし、近場の何人かの兵士に向けて銃を放つ。
着地の瞬間、空になった弾倉を捨てて新しいものに入れ替える。振り向いて再度、引き金を引きつつ、顔をすぐ近くまで迫った揚陸艦に向けた。
いける‥‥そう思った矢先の事、
「‥‥かはっ!」
脚に激痛が走って、その場に倒れ込む。
「‥‥‥‥これ‥‥は‥‥」
撃たれたらしく右足から出血している。このままでは出血多量という症状で死亡してしまう。
「‥‥‥‥く」
近づいてきた兵士に向けて銃を乱射する。先ほどの地面を撃って土埃を立てるという事に習い、巻き起こされた煙を盾に、リシャンはまた走り続ける。
「‥‥‥‥」
途中で頭がフラフラしてきたので、止血しようと包帯を出そうとしたが、ポケットに入っていない。
「‥‥‥‥まあ、そうなるよね‥‥フフ」
首に巻いていたパステルグリーンの布を足に巻き付け、再び歩きだす。
あともう少し‥‥もう少しでたどり着く。
脚を引きずりながら、開いた揚陸艦の正面出口から中に入る。
彼は‥‥王はここにいる。それは疑うべくもない。
なぜなら彼は、彼の矜持をかけてこの戦いに臨んでいる。それを人任せにするような人ではない。
信じる理由は、ただの勘のようなもの‥‥ただそれだけだった。
「何!」
「!」
艦内の通路で兵士と出くわす。兵士は予期せぬ侵入者に対して咄嗟に拳銃を抜いた。リシャンは小銃の銃口をその兵士に向ける。
銃声が艦内に響いた。
二発の音が一つに重なる。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
兵士はニヤと笑った‥‥が、その表情のまま廊下に倒れた。
「‥‥‥‥」
リシャンは脇腹を押さえて床に腰を落とした。
今度のは完全にまずい。
恐らくはそう長くはない。
「‥‥‥‥」
リシャンは笑って廊下を上下に渡してあるパイプを掴んで立ち上がった。
いよいよ、ここで命の使い方を決める必要がある。
だが、それはとっくに決めている事だ。
「‥‥‥‥」
手すりに掴まりながら進んでいく。点々と落ちていく血の跡は、今まで歩んできたリシャンの人生、そして意志の証のようにも見える。
「‥‥‥‥全く」
悪態をついて艦の頂上‥‥艦橋を目指す。
狭い階段をゆっくり、ゆっくりと昇っていく。
運が良かったのか、誰に会う事もなく、艦橋の扉の前にたどり着いた。
傷口を押さえていた手を離し、鉄の重い扉を押し開く。
「‥‥‥‥」
周囲は窓になっており、外が見渡せるようになっている。その下には無数の計器。よくある古い時代の艦の艦橋だ。
「‥‥‥‥?」
足元に兵士が倒れている。もちろんリシャンが倒したのではない。あちこちに視線を巡らせてみれば、そんな兵士が四人、そして正面の椅子にいたのは。
「‥‥‥‥バジラフ‥‥王‥‥」
王は確かにそこにいた。だが、両手をだらりと下に垂らし、腰は今にも椅子から落ちそうになっている。椅子の周りはここの兵達と同じように赤い池で囲まれていた。
王は死んでいた。何者かの手によって。
その犯人は‥‥側に立っている。
「‥‥‥‥こんにちは、リシャン」
オレンジの花を髪に差した黒ずくめの女性‥‥シャオティンは小首を傾げながら笑顔を向けた。
「もう少し早く来ると思ってたけど、随分な姿になってるわね。どうしたの?」
「‥‥‥‥なぜバジラフを殺した?」
シャオティンの問いには答えず、リシャンは鋭い眦を向ける。
「あら、妙な事を言うのね。それがあなたの望みだったんじゃないのかしら?」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥ふふ‥‥これでこの地の紛争は終わる‥‥そうすれば、この地の歪みはとりあえずは起こらない。あなたはその為に行動してたんじゃないの?」
「私は話し合いに来ただけ。王は客観的な視点を持っていた。私は私が思う重さを彼に受け取ってもらいたかった」
「無意味ね」
シャオティンは項垂れたバジラフの頭を撫でる。
「リシャン‥‥あなたが目指すは、命の急激な減少を食い止めて歪みをなくす事のはず。王がこうなってしまう事が一番の近道。だから以前、あなたが基地に侵入してきた時、彼をやってなかった事が、今回の紛争の原因になった‥‥だから‥‥」
シャオティンは顔をリシャンの方に向ける。
「‥‥‥だから、今、命を散らす事になった人達に対しては、あなたの判断ミス」
「じゃあ、あなたの目的は何?」
「‥‥ん?」
「AIを大量に消滅させて仮想世界を壊すのが目的なら‥‥あなたの方こそ、何でこんな回りくどい事を?」
言い返したつもりだったが、シャオティンは眉一つ動かさない。
「前も言ったと思うけど、私はただ、あなたに知ってほしかったのよ。この仮想世界の事を、管理局、統合政府の事を‥‥だがら、ここで少しばかり世界の壁を壊すだけでは意味がないの」
「‥‥‥‥なぜ‥‥私に?」
「それはね‥‥」
「!」
シャオティンは音もなく一瞬でリシャンに近づいた。
「エージェントなどという楔の重さを私も知っているから。その無意味さも」
「‥‥‥‥」
シャオティンの声がまわりをぐるぐると回る。頭が前後に揺れてきたが、止めようと思っても止められない。
彼女の顔がぼやけて見える。
「でもあなたがそんな状態なら、もう意味がないわね」
シャオティンは長い横笛をとりだした。
「言う通り、せめてこの地を歪ませる事にしましょう」
「‥‥や‥‥やめ‥‥」
腕が何かに押さえつけられているかのように、動かそうとしてもビクともしない。
血を失い過ぎた事による反応。その理の中にリシャンはいる。
シャオティンが笛を吹いた。
ただの音としてとらえるなら、それは心地良い響きをもたらしてくれる。
「‥‥‥‥」
あれほどに澄み渡っていた空には、一時で暗雲が作られていく。その雲の中に時折、光が灯り、響くような低い音が周囲に広がっていく。
シャオティンが何をしようとしているかは詳しくは分からない。だが、このままでは手遅れになる。リシャンの心はそれを察した。
「‥‥待‥‥」
渾身の力を込めて腕をあげ、シャオティンのコートの裾を掴んだ。
が、その瞬間、稲妻が空一面に沸き起こり、次々と地上に降り注いでいく。
雷の雨‥‥そう表現するのがしっくりくる。轟音だけで、断末魔の声は聞こえてはこない。その金色の槍はこの湾岸地域一帯に、満遍なく降り注ぎ、そこにいる全ての命、物質を破壊するかのような勢いだった。
「‥‥‥‥こんなものかしら」
しばらくしてからシャオティンは笛を置いた。まだ電気を帯びた地面から時折黄色の火花が上がる。
「シャオ‥‥ティン」
「‥‥‥‥」
必死で掴んでいるリシャンを、シャオティンは無言で見下ろす。
「‥‥残念ね、あなたとは良い友人になれると思ったけど」
「‥‥‥‥」
手を離してから、倒れている小銃を杖に、リシャンは立ちあがった。それから両手で銃を持ち上げて、その先端をシャオティンに向ける。
「‥‥そんな武器がエージェントに効かないのはあなたも知ってるでしょ? なぜそんな無意味な事をするの?」
「‥‥ふ‥‥フフ‥‥」
「‥‥‥‥?」
「無意味な事もいいものよ‥‥あなたには‥‥分からないでしょうね‥‥」
一匹の不愛想な猫の事を思い出して、リシャンは傷の痛みを忘れて笑った。
「‥‥‥‥」
一発の銃声が艦橋に鳴り響く。弾はシャオティンを避けて窓に命中してガラスは砕け散った。
「‥‥それが?‥‥何?」
「‥‥フフ」
砕けた枠の中には外の景色は映っていない。真っ暗な空間が広がっていく。
=リシャン!=
そこから真っ黒な鳥が現れた。
「久しぶり‥‥じゃない」
=‥‥‥‥全く‥‥どうして、あなたはいつもそうなんですか‥‥=
クロウの体の輪郭が光る。
=リシャンのエージェント権限を復帰。監視者権限に基づき、急事態特Sに属する事項と判断。特S能力をエージェント、リシャンに貸与=
「‥‥‥‥!」
リシャンの体が七色の眩しい光に覆われる。それはやがて大きな白い輝く球体へと変化した。回転して球体は楕円形になり、その光は弾け飛んだ。
「‥‥‥‥」
リシャンは目を開いた。
周囲には散った黄色や水色の光が、花吹雪のように広がっている。
傷や怪我の重さは何も感じない。ただひたすら軽く。それは一蹴りで世界の端まで飛んでいけそうな気がするほどだ。
白い襦袢の上に水色の着物を重ね、その上に花柄の赤い着物を着ている。アップした髪には周りと同じ茜色、黄色、水色、桃色‥‥様々な色彩の花飾りが差しており、黒髪を引き立たせている。
「‥‥‥‥ふふ」
リシャンは笑った。そして手を空へと伸ばし、握って引き抜いた先から死神の鎌を取り出す。
「あなたと私‥‥どちらに天秤が傾くか‥‥勝負はこれから!」
回転させてから切っ先をシャオティンに向ける。
「フフフ‥‥あは‥‥旧タイプには負けないからね、先輩!」
「‥‥‥‥」
シャオティンは真顔になり、リシャンに体を向けた。