冷たい風が吹き抜ける早朝、テーマパークのメンテナンスエリアにはスタッフたちの活気ある声が響いていた。
夏樹は「スノーグローブ・シアター」の運営スタッフとして働いていたが、日々のルーチンワークにどこか満たされないものを感じていた。AIとロボットによってほぼ完璧に制御された施設では、彼の役割はほんのわずかな調整と監視に過ぎなかった。
「これじゃあ、俺がここにいる意味なんてないじゃないか……」
控え室でコーヒーを片手にため息をついた夏樹に、明るい声が飛んできた。
「またそんな顔してる!せっかくの仕事なんだから、もっと楽しんだら?」
そう言ったのは同僚の葵だった。彼女はテーマパークが持つ「夢を与える力」を信じて疑わない人物で、夏樹とは対照的に毎日楽しそうに働いていた。
「だってさ、俺たちがやらなくても、AIが全部やってくれるんだぜ?俺がいなくても何も変わらないじゃん。」
夏樹の言葉に、葵は少しだけ表情を曇らせたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「それでもね、人の気持ちって、機械には作れないんだよ。私たちがここにいるのは、ただの管理じゃなくて、夢を届けるためなんだから!」
葵の言葉に、夏樹は何かを言いかけたが、結局口をつぐんだ。彼女の信じる「夢を届ける仕事」が、果たして本当に自分にできることなのか――彼にはまだ、答えが見つからなかった。