目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

雪の結晶とダニエルの言葉

テーマパークの片隅、ひっそりとした倉庫の前で、夏樹は足を止めた。


冷たい風が吹き抜ける中、彼は足元に転がる小さなオルゴールを見つけた。それは雪の結晶を模した繊細なデザインで、古びてはいたが、どこか温かみを感じさせた。何気なく蓋を開けると、かすかな旋律が流れ出す。


「それを見つけたのか。」


低く落ち着いた声が背後から響いた。振り返ると、そこにはテーマパークのベテランスタッフ、ダニエルが立っていた。彼は懐かしそうにオルゴールを見つめる。


「昔、ある若者が作ったものさ。夢を追い続けたが、叶えられずに去っていった。彼の置き土産だよ。」


夏樹はオルゴールを握りしめ、静かに問いかけた。


「夢を追いかけても、叶わなかったら意味がないんじゃないですか?」


ダニエルは微笑み、ポケットから一通の手紙を取り出した。


「彼は最後にこう書き残した。『夢が叶わなかったとしても、それを追いかけた時間だけは、本物だった』とね。」


その言葉が夏樹の胸を突いた。夢を信じる葵の言葉と重なり、彼の中で何かが揺らぎ始める。


雪が静かに降り積もる中、夏樹はオルゴールの旋律を聴きながら、初めて過去の自分と向き合おうとしていた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?