夜の帳が静かに降り、冬のテーマパークには雪が舞い落ちていた。
白く染まった世界に、色とりどりのイルミネーションが瞬く。光を受けた雪の結晶が淡く輝き、空気は冷たく澄んでいた。楽しげな音楽が流れ、子どもたちの笑い声があちこちから聞こえる。アトラクションが動くたびに歓声が上がり、人々は夢のひとときを満喫していた。
そんな華やかな光景の中にいながら、夏樹の心はどこか冷めていた。
「まるで別世界みたいだな……」
手袋越しに息を吹きかけ、ゆっくりと吐き出す。白い息が夜空に溶けていく様を眺めながら、彼はふと目を細めた。
子どもの頃、ここは夢の国だった。
光の向こうには、無限の可能性が広がっているように思えた。
けれど、現実は違った。
「夢なんて、追いかけても無駄だよ……」
呟いた言葉は、冷たい空気の中に消えた。
夢は儚いもの。雪の結晶と同じだ。
手を伸ばした瞬間、指の上でそっと溶けてしまう。
それでも。
それでも、まだ知らなかった。
その夜が、彼の考えを大きく揺るがすものになることを。