>記憶の庭
霧が立ち込める静かな庭。
白く淡い霧が空中を漂い、草木を包み込んでいる。
視界がぼんやりと滲み、輪郭が柔らかく溶けている。
庭には無数の花が咲いている。
色とりどりの花びらが重なり合い、虹のように輝いている。
だが、その花々は揺れているのに、風の音がしない。
空気はひんやりとして、静寂が支配していた。
鳥の声も、水の音も、何一つ聞こえない。
ただ、霧がゆらゆらと漂っているだけだった。
庭の中央に、大きな樹がそびえている。
幹は白く輝き、枝は空高く広がっている。
その枝には、無数の光の果実が揺れている。
果実は淡く光り、まるで記憶が封じ込められているかのようだった。
透明な球体の中に、映像が浮かんでいる。
笑顔、涙、手を繋ぐ二人、遠くを見つめる瞳。
一人の少女が庭に立っていた。
白いワンピースを纏い、長い髪が背中に流れている。
彼女は樹を見上げ、果実をじっと見つめていた。
その瞳には、懐かしさと切なさが混じっている。
唇が微かに震え、手が宙を掴む。
だが、その手は果実に届かない。
彼女は手を下ろし、瞼を閉じた。
肩が僅かに震え、胸が上下している。
深く息を吸い込み、吐き出した。
風が吹いた。
無音の風が霧を揺らし、花びらを宙に舞わせた。
光の果実が揺れ、映像が微かに揺らいだ。
少女はもう一度、樹を見上げた。
その瞳には、決意が浮かんでいた。
>消えゆく記憶
少女は樹に近づき、果実に手を伸ばした。
指先が果実に触れると、淡い光が弾けた。
透明な球体が揺れ、映像が鮮やかに浮かび上がる。
それは、彼女の記憶だった。
幼い頃、手を繋いで歩いた道。
誰かと笑い合い、花を摘んだ日々。
映像が生きているかのように動いている。
草原を駆け回り、手を振って笑う少女。
隣には、一人の少年がいた。
彼は微笑み、少女を見つめている。
優しい瞳、柔らかな髪、手を繋ぐ温もり。
二人の影が重なり、笑い声が響いている。
だが、音は聞こえない。
映像は無音のまま、ただ動き続けている。
少女は手を伸ばし、果実に触れた。
その瞬間、果実が揺れ、光が弱まった。
映像が淡く滲み、輪郭がぼやけていく。
彼の顔が見えなくなり、影が滲んでいく。
少女の目が見開かれ、唇が震えた。
手を伸ばし、果実を掴もうとする。
だが、果実は淡い光を放ち、消えてしまった。
空中に光の粒が舞い、跡形もなく消えていく。
少女の目が揺れ、肩が震えた。
彼女は唇を噛み、拳を握りしめた。
足元に、一枚の花びらが落ちた。
それは、果実が消えた場所に残された唯一のものだった。
彼女は花びらを拾い、胸に抱きしめた。
瞳に涙が滲み、頬を伝って零れ落ちる。
だが、彼女は顔を上げ、樹を見つめた。
その瞳には、消えない決意が浮かんでいた。
>約束の光
少女は樹に手をついた。
冷たい幹の感触が、手のひらに伝わる。
目を閉じ、額を幹に押し当てた。
その瞬間、樹が淡い光を放った。
幹が脈打つように輝き、光が枝へと流れていく。
光の波が果実に伝わり、全ての果実が一斉に輝いた。
果実の中に、映像が浮かび上がる。
彼女と彼の姿が映し出されている。
手を繋ぎ、笑い合う二人の姿。
その映像は、輝きを放ちながら空中に浮かび上がった。
光が踊り、映像が実体を持ったかのように動き出す。
彼女は目を見開き、映像を見つめた。
目の前に、彼が立っていた。
微笑みを浮かべ、優しい瞳で彼女を見つめている。
彼は手を差し出し、彼女の手を包み込んだ。
彼女の瞳が潤み、涙が零れた。
彼は何も言わず、ただ微笑んでいる。
二人の手が重なり、光が包み込んだ。
光の中で、二人の影が重なっている。
影が輝き、やがて空中に溶けていった。
彼の姿も、淡い光に包まれ、消えていった。
>消えない約束
光が消え、庭に静寂が戻った。
少女は一人、樹の前に立っている。
その手には、一枚の花びらが握られていた。
花びらが淡く光り、温かな輝きを放っている。
彼が消えた場所に残された、唯一の証。
少女は花びらを胸に抱きしめ、目を閉じた。
風が吹き、花びらが光を放った。
それは、消えない約束の光だった。
少女は静かに微笑み、空を見上げた。
空は晴れ渡り、光が庭を包み込んでいた。