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無音×セリフなし×情景を楽しむ物語
無音×セリフなし×情景を楽しむ物語
AlgoLighter
文芸・その他ノンジャンル
2025年02月09日
公開日
1.8万字
連載中
映画やドラマのワンシーンをイメージして挑戦した作品になります。

静寂の残響


< 夜明けの水辺>


霧が川の水面を覆い尽くし、朝の光をゆるやかに歪めている。


岸辺には木造の桟橋が一本、黒く濡れた板を静かに並べ、湖面へと伸びていた。その先端には、使われなくなった小舟が一艘。綱で繋がれたまま、微かな波に揺れている。


音はない。


湖のほとりに広がる森も、静かに眠っていた。鳥のさえずりも、風のざわめきもなく、ただ霧だけが、ゆっくりと流れている。


何かが遠くで動いた気がした。けれど、それを確かめる者はいない。



<廃駅のプラットフォーム>


霧の向こうに、古い駅がある。


線路は錆びつき、雑草に覆われていた。長く使われていないプラットフォームの上には、年季の入った木製のベンチがあり、そこに座る者はいない。


かつてこの駅を発着した列車は、もう来ない。


時刻表が朽ちかけた掲示板に残っているが、その文字はほとんど風化していた。誰かがここを訪れた形跡はあるが、それがいつのものかは分からない。


遠くで、何かが揺れる音がした——はずだった。


しかし、それを確かめようとする間もなく、音は静寂に吸い込まれた。



<響く汽笛>


霧が濃くなる。


湖も森も、すべてがその白に呑み込まれ、視界が閉ざされる。木々の間から、湿った風がゆっくりと流れ込み、草を揺らした。


そのとき——。


汽笛が響いた。


遠くから、低く、長く、喉を震わせるような音。


それは、ここにあるはずのないもの。

ずっと前に廃線となったはずの列車。

誰もいないプラットフォームを通るはずのない、鉄の車輪。


霧の向こうで、何かが確かに動いていた。


ゆっくりと、それは近づいてくる。



<霧の中の影>


音が静まる。


霧がわずかに晴れ、プラットフォームが再び姿を現す。


だが、そこにあったはずのものがない。


湖の小舟は消え、廃駅のベンチはわずかに揺れていた。錆びた線路の上には、かすかな水滴の跡が続いている。


まるで何かが通り過ぎたかのように。


それでも、駅には誰の姿もない。


——ただ、足元の砂利に、濡れた靴跡がひとつだけ、残されていた。

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