「先輩しっかり!
先輩、センパーーーイッ……」
…………。
「……なーんてね。
ふっ、ふふふっ、あははははっ。
綾小路麒一郎は、さっき甲志郎に触れた右の掌を、赤い舌を出しぺろりと舐めた。
「甲志郎……セ・ン・パ・イ」
興奮の果てにとうとうぶっ倒れ、今は白目を剥いて滝つぼに沈んでいる、甲志郎の姿を見下ろし、ポッと頬を染め、ため息をつく。
ああ、好き。
キリッと上がった眉尻の下には、強く真っ直ぐ輝く瞳、なんて素敵なんだろう。
文武に優れ智略に富み、かといって捻くれた思想や卑怯さとは無縁の、生来のカリスマ。
あの日、野蛮な本科の奴らに目をつけられた僕を助けてくれた
一瞬で恋に落ちた。
以来、無駄だとは思いつつも、ちょくちょくアピールを重ねてきたけれど。
先般、
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「ねえ、麒一郎。僕のお兄様、南條伊織を知っているだろう」
「ああ、そりゃあね。予科で南條先輩を知らない人間はいないよ。
それが、どうかしたの。またノロケ話?それとも、とうとう別れ話でも出た?」
「ば、バカッ!そんなわけないだろう。
ちぇ、何だよ。折角いい話を教えてあげようと思ったのに」
「あはは、嘘ウソ、冗談だよ。全くお似合いの君達だから、皆と同じで、少し羨ましくなったのさ。で、何?南条先輩がどうかしたの?」
見え透いたヨイショではあっても、梓の機嫌を直すには十分だったようだ。彼は分かりやすくニコニコ顔に戻ると、僕を見てニヤッと笑った。
「ああ、君のことだ。
南条先輩が誰と同室かは、もう知っているよね?そう、君の狙ってる、本校一の秀才、学寮長の「堅倉甲志郎」先輩だ。
それが、少し前に南条先輩に
「へ…え」
さっきまで話半分に聞いていた僕は、その名を聞いておもわず身を乗り出した。我が意を得たとばかりに、彼は僕の方へとすり寄り、声を潜めて、耳元で囁いた。
「ふふっ、おめでとう麒一郎、流石は僕のルームメイトだ。
どうやら堅倉寮長、君に惚れているらしいよ?南条先輩曰く『君に想いを伝えたい』と相談を受けたらしい。あの、難攻不落と言われた堅物がだよ、ふふっ」
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